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16:年頃の女の子

 夕食はリビングで、家族揃って摂る。今日はそこにサクラちゃんも加わった。


「まぁ、かわいく盛り付けられてる。とっても美味しそうだわ」


 サクラちゃんの前には八百屋で買ってきた野菜や果物が、それっぽく盛り付けられている。


「お野菜と果物しかないけど、それだけでいいの?」

「はい。大丈夫です。おやつの干し芋もありますから」


 ダンジョン内でも食べていたヤツか。


「お風呂はあとサクラちゃんだけだから、好きなタイミングで入ってね」

「はいっ。ありがとうございます、おばさま」

「上がったらドライヤーしてあげるわ。あ、ドライヤー大丈夫?」

「平気です。トリマーさんによくして貰ってますから。やーん、このリンゴ、ウサギさんみたい」


 そのリンゴを、サクラちゃんは口いっぱいに頬張る。


「サクラちゃんが悟のパートナーになってくれて、よかったわぁ」

「えぇっ。ど、どうして?」

「だってこの子、足が速いから同じ職場の人、誰も付いていけなくって」

「昔っから足は速かったからなぁ」

「人命救助でしょー? 早く現場に到着出来るならその方がいいっていうのは分かってるんだけど、そのために息子がひとりでダンジョンに入っているんだもん。親としては心配で」


 そんな風に思っていたなんて、初めて知った。

 普段、仕事のことには一切口を出してこなかったし。

 捜索隊に入社した時も、ひとりで出動するようになったって話した時も、特に反応はなかった。


「でも私、悟くんのお役には立ててないし、守ってあげることも出来ないから……」

「そんなことないわ。この子ね、自分からは必要最小限のことしか話さないけど、これで賑やかなのが好きなのよ。ね、悟」

「お通夜みたいなムードよりいい」

「お前の例えはいつも極端なんだよ」


 でも伝わりやすいじゃないか。


「役に立つとか立たないとか関係ないの。だってねサクラちゃん。実質、悟についていけるのはあなたしかいないんだもの」

「でもでも、今日だって何度も悟くんにその……だ、抱っこしてもらってるし」

「それよぉ。これが人間の女の子だったらどう? さすがに抱っこして走れないわよぉ。ねぇ、悟」

「いや、たぶん走れる」

「「……はぁ」」


 え、何? 答えただけなのに溜息吐かれるの?


「お前は昔っから、力はあったからなぁ」

「そうねぇ……でもサクラちゃんを抱っこして走るのと、人間の女の子を抱っこして走るの、どっちが走りやすいかぐらい、わかるでしょ?」

「そりゃまぁ。サクラちゃんは体が小さいし、視界を塞ぐこともないから楽だけど」

「そうでしょそうでしょ? ね、サクラちゃん。物理的にね、あなたにしか悟のパートナーは務まらないのよ」


 母さんの言いたいことはわかる。

 サクラちゃんならある程度自力でも走れるし、疲れたら俺が抱えてやればいい。

 その場合も俺が走る妨げには一切ならないから、サポート役としては適任だ。

 なんといってもアイテムボックスがあるし、うっかりなところはあれど記録係もやってくれるから助かる。


「年齢的には大人とはいえ、この子は私たちの息子だもの。ひとりの時に何かあったらと思うと……」

「サクラちゃんが悟の面倒を見てくれると、わたしたちも助かるんだ。誰かと一緒なら、こいつもあんまり無茶が出来ないだろうし」

「だからねサクラちゃん。悟のこと、よろしくお願いね」


 別に俺は無茶なんてしてるつもりは一切ないんだけど。

 でも、二人が心配だっていうなら、これからはもっと注意して捜索にあたることにしよう。


「あ、あらあら、サクラちゃん。どうしたの? 何故泣いちゃうのかしら?」

「うっ、うっ。悟くん、ご両親から愛されてるのねぇぇ。なんだか私、嬉しくって」

「はっはっは。親なら誰だってそうさ。まぁうちは特に、特殊な環境での出産だったからねぇ」

「お父さんなんて死んだと思ってたのに、まさか生きてるんですもの」

「いやぁ、わたしも驚いたよ。自分を犠牲にしてでも我が子を無事に誕生させると思って飛び出したのに、まさか生きてるんだからなぁ。カッコつけそこねたよ」

「もう、ほんとよぉ」


 カッコよく飛び出して、ボロボロの姿で発見されたっていうし。

 そりゃあカッコつかないだろう。


「なるほど。悟くんの天――はおじさま似――なるほどなるほど」

「サクラちゃん?」

「あら、なんでもないわよ悟くん。ふふ。おばさま、おじさま。悟くんのことは任せてください。このサクラ、悟くんが無茶しないよう、しーっかり見張りますわっ」

「頼もしいわぁ、サクラちゃん」

「あぁ。よろしく頼むよ」


 なんだか監視される気分だ。


 食後はサクラちゃんが風呂を使い、母さんが鼻歌を唄いながらドライヤーで毛を乾かしていた。


「じゃ、サクラちゃんは悟の部屋で――」

「えぇぇーっ!? さ、悟くんと同室!?」

「布団だと大きいだろうから二つ折りのマットレスに掛布団を被せたものだけど、いいかな?」


 と尋ねると、サクラちゃんが口元を抑えてぷるぷるしている。


「あっ」


 母さんが声を上げ、何か気づいたようだ。


「そうよね。サクラちゃんだって年頃の女の子ですものね。恥ずかしいに決まっているわよね」

「……え?」


 女の子っていうか、雌?

 なんでサクラちゃんも頷いているんだ。

 恥ずかしいってどういう意味?


「二階に悟のトレーニングルームがあるから、そこなら掃除もちゃんとしているから埃っぽくないだろうし、今夜はそこを使って」

「はい。悟くん、お家でもトレーニングしてたの?」

「トレーニングっていうか、仕事が休みの時も体を動かせるように……」


 タヌ――レッサーパンダが人間と同室で寝るのが、恥ずかしい?

 え?


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【アライグマラスカル】見せたら、反応変わるのかなぁ~?シランケド ( *´艸`)
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