159:閑話ハリー②
「もしご近所さんに、ハリーが人の言葉を話している所なんて見られたらと思うと……」
「はぁ……。どんなに人前で話すなと言っても、所詮は犬だ。うっかり喋ってしまうかもしれない」
「もし他の人の前で言葉を話そうものなら……うちの子たちがルールを破ってダンジョンに入ったことがバレちゃうわよ。ご近所からどんな目で見られるか……」
ルール? 確かルールって、守らなきゃいけないこと!
守らなかったら怒られる。悪い子ってことだ!
ダンジョンって、この前の変なグルグル渦巻の中にあったおっきな穴?
あそこって入っちゃダメだったのか。
でもアキラは悪くないぞ!
兄ちゃんのタケルから言い出したんだぞ!
「パパさんママさん! アキラとオレの散歩について来たタケルが、いつもと違う散歩コースに行こうって言って連れて行ったんだぞ!」
「ハ、ハリー!? お、お前寝てたんじゃないのかっ」
「起きてるぞ! いつも起きてたぞ! パパさんママさんよく喧嘩してた! 今日は喧嘩じゃないんだな。いいことだぞ!」
「お、お前、なんでそんなこと……スキルを手に入れたのは昨日だって聞いたのに」
「スキルを手に入れる以前のことも、ちゃんと覚えてるってこと? 夫婦喧嘩のこと、ご近所さんに知られたらどうしよう……」
喧嘩するほど仲が良いって、なんかどっかで聞いた気がするぞ!
つまりパパさんとママさんは大の仲良しだ!
「ハリー。タケシがダンジョンに行こうって言いだしたのか?」
「そうだぞ! アキラは危ないから止めようって言ったんだ。でもちょっとだけだってタケシが言って、それから……えぇっと」
それからオレもスキルが貰えるかもしれない?
そうしたらクラスのみんなに自慢できるぞってタケシが言って、それで行くことにしたんだっけ?
オレはアキラの自慢? オレがいたらアキラ喜ぶ?
「ウオオオォォォォォォォ」
「ハ、ハリー!? 静かにしろっ。何時だと思っているんだ!」
「こ、子供たちが起きてしまうわっ。お隣さんにも聞こえてしまうっ。ああぁぁ、どうしましょうっ」
「クゥーン。ごめんなさい」
そうだった。外が暗くなったら大きな声を出したら怒られるんだった。これはルールだ。
「こいつのこの素直過ぎる性格……聞かれたらなんでも答えそうだな」
「そんなっ。子供たちがダンジョンに入ったなんて知られたら、ご近所さんから白い目で見られるわよっ。受験にも影響出るだろうし」
「そうだな……隣町にダンジョンが出来たのが十五年前。当時は好奇心でダンジョンに入る子供が後を絶たず、探しに入った大人たちも戻ってこず……何十人と死人を出したからな」
十五年前? オレ二歳だから、生まれるよりずっと前だ!
「子供の躾問題だってなって、十八歳未満のダンジョン侵入禁止になったのはそれが原因だものね。うちの市に限っては、子供が侵入した場合は親にも責任があるとして子供の生死に関わらず、罰金百万円だもの」
「なんとしても隠さなきゃな……」
ん? パパさんママさんどうした?
オレの顔に何かついてる?
次の日、パパさんとアキラ、それにタケルが車に乗ってお出かけした。
でも直ぐに帰って来て、タケルはなんか怒ってた。
「アキラッ、アキラッ。遊ぼうっ。何して遊ぶ?」
「……ハリー。お前のスキルって何?」
「スキル? さぁ、わからないぞ!」
「わからない? なんでだよっ。いいスキルだったらダンジョンでお金稼いできてくれたら、パパもママもお前を飼っていいって言うのにっ」
お金ってなんだろう? アキラやタケシが、時々ママさんにお金頂戴と言ってるけど。お金って、何?
スキルがあればダンジョンでお金がもらえる?
「アキラアキラ! お金ってなんだ? ダンジョンでお金もらえるのか? オレのスキルって――」
「ああぁ、もううるさい! お前がスキルをもらったって、誰にも自慢出来ないんじゃ意味ないよ!」
オレ……アキラの自慢にならない?
「ハリー。お前さ、自分で勝手にダンジョンの中に入ったことにしてよ。オレたちがダンジョンに入ったこと、みんなには内緒。わかるか?」
「わかるぞ! アキラとタケシはルールを破ったから悪い子なんだな! 嘘つきも悪い子だぞ! ママさんがいつも言ってる!」
「オ、オレが悪い子っていうの!? ハリーがオレをっ」
「こ、こんな時だけ私の名前を出すんじゃないわよっ。う、嘘ってのはね、ついていい嘘と悪い嘘があるの。あんたが一匹だけでダンジョンに入ったっていう嘘が、ついていい嘘なのよっ」
お、怒られた!?
なんで?
「もういいよママッ。パパ、夜になったら行こうっ」
「あぁ、わかった。お前がいいならそうしよう」
「そうね。早い方がいいものね」
みんなでおでかけ!?
暗くなったらどこに行くんだろう。いいな。オレはいつもみたいにお留守番かな。
そう思っていたけど違った。
今日はオレも連れて行ってもらえるんだ!
やったぜ! やったぜ!
車に乗っていっぱい移動して、疲れて眠ってしまって。
目が覚めたら広い原っぱと隣に川のある場所だった。
ここで遊ぶのか!?
やったぜぇぇーっ!
あ、大きな声出したら怒られるから小さな声で。
「やったぜぇ」
「何かいった?」
「やったぜって言ったぞ」
「……ハリー。ボールを投げるから探すんだぞ。いっぱい投げるからね」
ボール拾い! 大好きだ!
うわぁ、本当にいっぱい投げてる。えっと……三個まで数えられたけどそれ以上あった! わかんない!
嬉しくて車から飛び出し、ボールを探しに行った。
暗いけどでも見えるぜ!
えっと、こっちの方に……あった! まずは一個目!!
「アキラ、ボール見つけたぞ! ボー……あ、あれ?」
車が……見えなくなっていた。
オ、オレ……オレ迷子!?




