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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
7章

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153/180

153:妖狐のヨーコさん。

「テントなんてどうするの、悟くん?」


 オープンフィールドで野宿になる可能性もあったから、事前に用意されたテントを出して広げた。

 これに五人を乗せて、氷の上を走れないか。


「もうすぐ曽我さんのチームと馬場さんのチームが三階に到着する」

「そうね。そしたら全員、ここから救助出来るわね」

「だが洞窟からここまで、徒歩で十五時間はかかるだろう。それも休みなしでの計算だ」

「え、そんなんかかると!?」

「悟は自動車並みの速度で走ってたからね。僕だってそうさ。本気で飛んでたから、階段のあった岩山からここまで、五十キロ以上あるだろ」


 歩くだけでも時間がかかるのに、下は全て氷だ。

 俺も転ばないよう気をつけたけど、ある程度勢いがついたらむしろ止まろうとするのが難しいぐらいだった。

 でも他の人に俺みたいなことをやれといっても、無理だろう。

 モンスターだって出る。普通に歩くより遅いかもしれない。


「みんなと合流するためには、ここの位置を教えなきゃならない。てことは、俺があの洞窟まで迎えにいかなきゃならないんだ」

「そ、そうね。ここじゃ本部とも連絡が取れないし、カメラを使って指示してもらうのも無理だもの」

「ど、どうするん? 早くこの人たち、病院に連れていかんと――あぁっ」

「ヨーコさん、どうした?」


 気を失っているひとりに駆け寄ったヨーコさんが、彼の頭に触れる。


「ダメ。頭ん中に『危険な状態』って声が聞こえとる。それから――『脈拍上昇』『至急、病院に搬送』って」

「十何時間も待っていられない。テントに五人を乗せて、紐で括って引っ張る」

「氷の上じゃ踏ん張りも利かないだろうし、引くのは難しいんじゃないか? それに悟のパワーで引っ張ったら、僕としてはマズいことになると思うんだけどね」

「マズいって何よ! そ、そりゃあ……危なそうだけど……でも他に方法が思いつかないし。そうだわ、私たちも手伝う。ね、悟くん」

「いやいやいや、無理だってサクラ。僕らパワー系スキルなんて持ってないんだからっ」


 やるしかない。もたもたしていたら、せっかく見つけた命が消えてしまう。


 階段を上り、そこでまずテントを広げておく。

 更に寝袋も用意。こちらは遭難した十二人分の用意があるから、二枚重ねにしてひとりずつ包む。

 少しでも弾力があった方が、氷の上を走る振動を抑えられるだろう。

 ひとりずつテントの中に横たえ、五人全員を入れ終えた。


「悟くん、あの人たちは?」


 サクラちゃんは階段下を見つめ、悲痛な声を漏らす。


「ご遺体は……後日、しっかり準備をしてもう一度来よう。今は生存者を優先させるんだ」

「……入れられないかしら。私のアイテムボックスに」

「え?」


 ア、アイテムボックスにご遺体を?

 聞いたことがない。亡くなった人をアイテムボックスに入れるなんて。

 生きているものは入れられない――ご遺体は生きてはいないけれど、人間だし。生き物だし。

 だから入らない――いや、入らないだろうとされている。


 そういえば、実際にやってみた人はいるんだろうか?

 でも……いいんだろうか。

 たとえ入ったとして、人をアイテムのように扱うなんて……許されることなんだろうか。


「やってみましょうよ、悟くん」

「いや、でも……」

「連れて帰って上げましょう。みんな一緒に」


 連れて……帰る。

 そうだ。アイテムじゃない。そんなのわかっていることじゃないか。

 大事なのは連れて帰る事。


 やってみなきゃわからないけど、可能なら連れて帰ろう。

 この五人と一緒に。


 既に包まれている人たちはそのままに、そうでない人たちを毛布で包み、サクラちゃんに任せた。

 サクラちゃんは無言でアイテムボックスを広げ、その口をご遺体を包んだ毛布に押し当てる。

 そしてご遺体は……消えた。


「これで連れて帰って上げられるわね」

「うん、そうだね」

「さ、それじゃあ生きてる五人を無事に地上まで連れて行ってあげないと」

「あぁ、急ごう。ヨーコさん、五人の容態は?」

「どんどん悪くなっとるばい。急がんとっ」


 あぁ、急ごう。


 テントをロープで結わえ、引っ張る――くっ。足が滑る。

 ブライトが言った通り、踏ん張りが利かない。

 だけど一度動き出せば――。


「ヨーコさん?」

「ウチも引っ張るけんっ」

「そ、そうよ! みんなで引っ張りましょうっ。ほらブライトもっ」

「いや、ブライトは上空から警備してくれ。モンスターの処理を頼む」

「そりゃもちろんヤルさ。けど大丈夫なのか? 怪我が増えたりするんじゃ」


 わかってる。わかってるけどこれしか方法が思いつかないんだよ。

 ひとりだったら俺が背負って走れる。五人を五往復して階段まで運ぶとなると、結局五、六時間はかかってしまう。

 だったら少し遅くてもいい。二時間ぐらいで五人全員を運べれば、あとは曽我さんたちと合流して。


「動けぇ。はよ動いてぇ」

「ヨーコちゃん……」

「ウチの……ウチの初仕事なんばい。せっかく見つけたのに、せっかく診断したのに、せっかく……こんな所で死なれたら、ウチ、なんのために捜索隊に入ったかわからんやん!」


 ヨーコさん……。


「絶対助けると! ウチが……ウチが助けるとぉぉぉっ!」

「ヨ、ヨーコちゃん!?」

「うわっ。眩しいっ」

「ヨーコさん!?」


 ヨーコさんが、光った。

 スキルが発動した時の光だったけど、それ以上にも光っている。

 な、何が起きたんだ。何が!?


 青白い光がヨーコさんを包む。

 い、いや、光じゃない。炎だ!?

 その炎が大きく膨れ上がり、そして眩しさが納まると……。


「ヨヨヨヨヨヨヨヨヨ、ヨーコちゃん!?」

「ひいぃぃぃっ。デ、デケェ」

「は、はは。なるほど……妖狐モードって、これのことか」


 青白く光る巨大な狐――妖狐のヨーコさんがいた。

 こりゃ象よりもデカいぞ。ダンプカー並みの大きさじゃないか?

 二本の尻尾まで入れると、その倍はありそうだ。

 そしてヨーコさんの左右には、人の顔ほどもある青い炎がひとつずつ浮かんでいる。


「え、な、何? なんでウチ、大きくなったん?」

「それが妖狐モードなんだよ。見た目が、妖怪の狐みたいになるってことじゃないかな。他にも何かあるかもしれないけど」

「ウチ青くなっとるううぅぅぅっ。ハッ!? こ、この大きさなら、五人を運べるんじゃない?」


 ……あぁっ!


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