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15:スレッド+悟くんのお家

捜索隊の華 サクラちゃん追っかけスレ


名無し

 タヌキ?


名無し

 タヌキだな


名無し

 むしろタヌキ以外になにがあるんだ?


名無し

 人間じゃねえええのかよおおおおお


名無し

 この瞬間いったいどれだけの奴らが失恋したんだ?


名無し

 人語を喋るタヌキ!?


名無し

 動物もダンジョンでスキルを貰えるんだよ

 動物の場合はスキル以外に知能が人並みに高くなって喋れるようになる


名無し

 あんまりだあぁぁぁぁぁぁ


名無し

 これはこれでアリだと思う


名無し

 ケモナー誕生


名無し

 初めまして、失礼します。

 サクラちゃんのことはタヌキじゃなくってレッサーパンダってことにしていただけませんか?

 理由はわかりませんが、本人はレッサーパンダと思っているので。

 よろしくお願いします。


名無し

 誰?


名無し

 スレ初心者?


名無し

 wwwwww

 礼儀正しwww


名無し

 レッサーパンダ?

 は?


名無し

 あ、すみません。初心者です。

 タヌキっていうとサクラちゃん怒るので。


名無し

 悟くん?


名無し

 はい。


名無し

 ご降臨!?


名無し

 仕事に戻ります。サクラちゃんの件、よろしくお願いします。


名無し

 ほんとに本人か?

 社員ナンバーは!?


名無し

 マジか!?

 マジ本人?


名無し

 レッサーパンダと思い込んでいるタヌキ・・・かわいいじゃん


名無し

 俺はこれからもサクラちゃんを推す


名無し

 悟ーーーーwwww


名無し

 返事がない

 ただのくぁwせdrftgyふじこlp






「あら、悟くん。何してたの?」

「報告書の最終チェックだよ。さ、終ったし提出して帰ろう」

「悟くんはひとり暮らしなの?」

「いや、両親と暮らしてるよ。そういえばサクラちゃんはどこに住んでるんだ?」


 動物園……なわけないか。

 でもタヌ――レッサーパンダ一匹じゃアパートは借りれないだろうし。


「私はここの十五階にある仮眠室に住ませてもらってるの。ご飯も用意してくれてるし、テレビも見放題。快適なのよぉ」

「え、仮眠室って……」


 寝るだけの部屋だ。冷蔵庫はあるけど、テレビはない。休憩室か待機室で見るんだろう。

 家じゃないのか……。


「お風呂がないのがちょっと残念だけどね」

「サクラちゃん、お風呂はいるのか?」

「まっ、失礼ねぇ。女だもの、入るに決まってるじゃない」


 いや男だって風呂には入るけど?


「不思議よねぇ。ただのレッサーパンダだった頃は、お風呂なんて興味なかったのに。カピバラたちがお風呂に入ってるの見て、何がそんなにいいんだろうって思ってたのよ」

「スキル持ちになって、やっぱり変わった?」

「変わったわ! すっごくいろいろ! まずこうしてお喋りできるようになったでしょ? 人間の文字も読めるようになったし、人間の言葉もわかるようになったわっ」

「そ、そう」


 興奮気味なサクラちゃんは、その後、部長室に行くまでずっと喋り続けていた。






「あの、あの、悟くん。本当にいいの? ねぇいいの?」

「いいよ。上がって。ただいま父さん、母さん」


 都心から自転車で一時間の距離に自宅がある。こじんまりした一軒家だ。

 

「おかえり、さと――きゃぁぁーっ。サクラちゃんよ、生サクラちゃん!」

「え? なんで母さん、サクラちゃんのことを」

「だってライブ見たものぉ。――あとスレッドも」


 後半は俺にだけ聞こえるよう、ぼそりと耳元で囁いた。

 スレッド……掲示板みたいなあれのことかな?


「上がって、上がって」

「あ、でも……あの、足を洗わないと……」

「あら、礼儀正しいのねサクラちゃん。悟、タオル持って来てあげなさい。あ、お風呂まで抱っこしてあげたら?」

「その方が早いね」

「きゃぁぁーっ。また抱っこおぉ」


 風呂まで連れて行って、風呂桶にお湯を入れてやる。


「温度はどうなんだろう?」

「す、少し温いと嬉しいわ。そうそう、これぐらい」


 三十度ぐらいか。結構低いな。

 風呂に入りたい、というサクラちゃんを我が家に連れて来た。

 帰りに八百屋でサクラちゃんの晩御飯と明日の朝ごはんを購入し、母さんに渡して夕食の時に盛りつけてくれるよう頼む。


「悟、悟。サクラちゃん、お泊りするの?」

「うん」

「きゃぁーっ。嬉しいわ。こんなかわいい子が家に来てくれるなんて」

「母さーん。どうした? そんな楽しそうな声だして」

「あら、お父さん。聞いてよ、サクラちゃんが家に来てるのよ」


 リビングの隣は父さんの部屋がある。


「お父様? ご挨拶しなきゃ」

「気にしなくていいのに。父さん、サクラちゃん入るよ」

「おぉ、おぉ。どうぞどうぞ」


 一般家庭のスライドドアより少し大きなそれを開け、足元のサクラちゃんを見た。

 驚いているようだ。

 無理もない。


 父さんはリクライニング式の介護用ベッドに寝たっきりだ。

 しかも自分でデザインしたオプション機能モリモリの、父さん曰く、変形しそうなベッド――だ。

 点滴も繋がっているし、重病者のように見えなくもない。


「こんばんは、悟くんのお父様」

「いやぁ、よく来たね。ゆっくりしていきなさい。サクラちゃんはお酒を飲めるのかい?」

「父さん、サクラちゃんに晩酌させないでくれよ。明日も仕事なんだから」

「お、お酒!? ごめんなさい、お父様。お酒は飲んだことなくって……」

「はぁ……残念だ。息子のこいつも父親と一緒に晩酌してくれないし」


 良い歳した大人が不貞腐れないでほしい。

 リビングに戻って、父さんがなぜあんな状態なのかサクラちゃんに話した。

 そのことに関して、父さん自身隠すつもりもないし。


「二十二年前、俺が生まれて後藤さんと奥さんが、母さんの産後処理をしてくれてた時に、モンスターが襲って来てね」

「え?」

「後藤さんはスキルを貰ってたけど、でも手が離せなくって。それで父さんが囮になって、遠くに引きはがしたんだよ」

「お父様はスキルを?」


 首を振る。父さんも母さんも、スキルを手に入れてない。

 当然、父さんはモンスターを倒せず……戻ってこなかった父さんは死んだんだって、その時母さんは思ったそうだ。

 だけど三日後、自衛隊の救助隊が来て、先に瀕死状態の父さんが発見されていた。


「生きてるのが不思議なぐらいの傷だったそうだ。で、下半身不随にね」

「そんな……」

「でも父さんは生きてるだけで喜んでるよ。生きて、生まれて来た我が子を抱けたから、自分は幸運なんだって」


 そのせいで二十歳を過ぎた今でも、父さんが隙あらば俺の頭を撫でようとする。

 迷惑だ。 


「ま、上半身は動くし、ペンも持てる。あの人、住宅の設計図を引くのが仕事だから、案外困ってないみたいなんだよ」

「一級建築士ってやつ?」

「そうそう。よく知ってるね。この家も父さんが図面を引いたんだ。自分が動きやすいようにね」


 だから一階の部屋は全部スライドドアで、しかもサイズが大きい。


「悟くんのお父様って、逞しいのね」

「あぁ。俺もそう思うよ」


 自慢の親だ。



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― 新着の感想 ―
こんばんは。 悟パパ格好良いですな…こういう人を『素直に尊敬できる人』と呼ぶんでしょうね。
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