148:四足と二足の事情。
*今日は夜も更新します。
「中への案内は自分がします」
西区の最下層に到着すると、冒険者が六人待っていた。
彼らが隠しダンジョンを発見したメンバーで、ボス討伐担当チーム。
「中って、あなた隠しダンジョン側にも行ったことあるの?」
「あ……サク……あ、はい。俺ら、交代制だったんで」
サクラちゃんの問いに、案内を申し出た人が答えた。
メンバーは六人。うちひとりが案内役で、残り五人でボスを討伐する。
互いに無線でやり取りをし、タイミングを合わせてだ。
「すみません……俺らが欲をかいたばっかりに……」
「仲間を、頼みます」
「せめて……せめて……」
せめて亡骸だけでも。彼はそう言いたいんだろう。
当たり前だ、そんなの。
だけどそれは亡くなっていたらの話。今は生存を信じる時だ。
ボス討伐隊と別れ、俺たちは案内人――沢木さんと一緒に、隠しダンジョンへの扉が現れる地点へ向かった。
そこに到着するのに五時間。
向こうではまだボスが出現していないらしく、ひとまず休憩することになった。
「俺はやるぜ!」
「俺もやるぜ!」
「俺だってやるぜ!」
休んでいる間、シベリアンハスキーのハリーが分身を出して周囲を警戒してくれる。
分身を出す瞬間に魔力が消費されるタイプで、出しっぱなしにしたから疲れるなんてことはないらしい。
「なぁサクラ。あんたどうして二足歩行なん?」
「なんでって、むしろヨーコちゃんは何で四足のままなの?」
食事の準備をしている時に、サクラちゃんとヨーコさんがそんな会話を始めた。
そういえば、ヨーコさんはなんで普通の動物と同じように四足のままなんだろう。スキル持ちになると二足歩行が出来るようになるのに。
「なんでって、なんで?」
「えぇー……ヨーコちゃん、スキルを手に入れたら、後ろ足で立って歩けるようになるの、知らなかったの?」
「ボクはいつでも二足だけどね」
「鳥は黙ってて」
ピシャリと言われて、ブライトがとぼとぼ歩いて壁際に行ってしまった。そのブライトをカラスやハト、インコたちが慰める。
「俺も四足だぜ!」
「アタイは二足で歩いてるわ」
「ぼ、ぼく、走るときは四足の方が楽、だなって思いますっ」
「それはあるわよねぇ」
へぇ。案外、動物たちによって――いや、個々によって歩くスタイルは違うのか。
「サクラちゃんも走るときは四足だったね」
「そうね。後ろ足だけだと早く走れないもの」
「じゃあなんで歩くときだけ、後ろ足なん?」
「んー……手が汚れるから、かしら? だってご飯食べるとき、汚れちゃうじゃない」
え、そういう基準で普段、二足歩行なのか?
「汚れた手でご飯を食べると、ゴミや砂も一緒に食べちゃうでしょ?」
「そりゃそうだけど。これまでもそうだったんだし、気にせんやろ?」
「それがねぇ、気になってくるのよぉ。それに、お行儀だって悪いのよ。動物園に来てたお客さんも、子供にそんなこと言ってたわ」
後ろ足で歩く理由って、そういうこと!?
「あー、わかるわぁ。昔はほんっと気にもしなかったのに、なーんか『ジャリ』ってのが気になっちゃうのよねぇ」
「うんうん。ぼくも気になります」
「俺っ俺っ。ご飯前に前脚洗う! すっごく洗う!」
「ワイもやな。肉球の間まで洗うぜ」
へぇ。でも出先だとどうやって洗うんだ――と思っていたら、アイテムボックス持ちの人、動物たちが桶と水を取り出した。
水が注がれた桶に、動物たちが手をつけ洗っている。
「はい、ヨーコちゃん。四足でも別のいいのよ。歩きたい方で歩けばいいんだから。でもご飯の時はしっかり手を洗いましょうね」
「サクラ……ウチのために用意してくれたん?」
「他の子たちがそうしてたの見てたから、私も持ち歩くようにしてたの。私のためでもあるんだから」
そう言ってサクラちゃんも桶で手を洗い出す。
「悟くんも洗う?」
「俺はウェットテッシュあるから」
動物たちも衛生面を気にかけているんだな。
そうして食事を終え、ボス出現の報告があるまでここで休むことになる。
五時間ほど過ぎたころ、無線が入った。
「ボス出現だそうです。普段だとニ十分ほどで倒し終えるのですが、待ってもらいますか?」
「いや、十分で片付け終えるからスタートしてくれていい」
経験豊富な秋山さんの指示で、ボスの討伐が開始された。
寝ぼけ眼を覚まさせ、荷物を片付けていつでも動ける準備をする。
しばらくして、動物たち、特に犬たちが反応した。
「音っ。カチって鳴ったっ」
「このあたりだな」
「アタイには音しか聞こえなかったわ。よく場所まで……あ、なんかあの岩、不自然よ」
「そう、それは隠し扉を開くスイッチだ。スイッチ自体は五分で消えてしまうんで」
「じゃあ押す?」
と、猫のミーナが手を伸ばす。秋山さんが「開けてくれ」と言い、ミーナがボタンを――。
「と、届かない……ちょっとボブ! こっち来なさいよっ」
「わかったよぉ」
犬種はわからないがハリーと体格が似たボブが呼ばれ、ミーナの足場にさせられている。
ようやくスイッチに手が届いたミーナは、満足そうに笑みを浮かべてスイッチを押した。
地響きからの、ボタンのあった周辺の壁がスライドして扉が開く。
「五分です!」
扉は開いてから五分で閉じてしまう、ということだ。
すぐさま俺たちは扉の中へと入り、奥へと進む。少し進むと小部屋になっていた。
背後で扉が閉まる音がする。
「よし、ここに通信アンテナを設置します」
「了解。設置が完了するまでみんな、もうしばらく待機だ」
その設置は十分ほどで完了。通信機が使えるかの確認もし終え――。
「よし。それじゃあ各自、捜索開始」
「「はいっ」」
***********************
二足で歩けるから、職業訓練施設なんかではスキル持ちの動物に
二足歩行の練習をさせたりしています。
施設職員的には「二足歩行したそうだから」という親切心からだったり。
そこで歩き方を学んだ動物たちも「人間はご飯の前に手を洗っているから、その方がお行儀がいい」と思うようになり、結果、二足で歩いてなるべく手を汚さないようにしよう! となっている・・・そんな感じです。
でも急ぐ時には四足の方が早いので^^;
夜の更新は20:10です。




