144:みんなのセンス。
「今日からお世話になるたい」
「んまぁ~っ。お父さん、キツネよっ。喋るキツネ。かわいいわぁ、綺麗だわぁ」
「はぁ~。北海道からトラックで? そりゃまた、長旅だったねぇ」
二日に渡って捜索隊専属の獣医さんにいろいろ検査をしてもらい、エキノコックスの心配もないと診断。
だが本部ビルのマンション階に空きがなく、アニマル隊も大勢いることでキツネのスペースも取れないってことでうちに来ることになった。
サクラちゃんには「レッサーパンダなんてウチ、見たことないけん! ちょ、ちょっとタヌキに似てるからそうかなぁって思っただけばい。だから、ごめん」と話し、和解することになった。
素直に謝罪されれば、サクラちゃんもそれを突っぱねるわけにはいかない。元々優しい子だし、素直に受け入れてくれたみたいだ。
「それで、お名前は?」
「え? な、名前?」
「おや、名前はないのかい? 動物園ではなんて呼ばれたか覚えてる?」
「おじ様。その子、野生の北キツネなのよ。だから名前がないのね」
「んー、そうかぁ。じゃあ悟」
父さんが俺を見る。
この流れは、あの流れか。
「名前、考えてやりなさい」
「やっぱり」
「ん? 何がやっぱりなんだ?」
「なんでもない。はぁ、何か考えとくよ」
「名前! ウチにも名前がつくと? どんなやろ。どんなやろ。うふふ」
二本の尻尾をぶんぶんして、そんなに嬉しいのか。
真剣に考えないとなぁ。
ご飯はサクラちゃんと同じ物でいい。
ペットショップでの注文量を倍にしないとな。
寝床はとりあえず、サクラちゃんと一緒。
父さんが今度、キツネ用のベッドを作ると言っている。まさか自分で設計からするんじゃないだろうな。
「じゃあじゃあ、小物もいろいろ買わなきゃね。ブラシ、必要でしょ?」
「サクラちゃんと共同で使えばいいんじゃないか?」
「何言ってるの悟! ブラシは家族間でも共有しないのよっ。まして女の子なんだから、ちゃんと自分用のが欲しいに決まってるでしょ! ねぇ?」
「そうね。私たちってある時期になったらたくさん毛が抜けるもの。自分用が欲しいわ」
「そ、そうなん? ウチはよくわからんけど」
「「そうなの!」」
母さんとサクラちゃんに詰め寄られ、キツネの方がたじたじだ。
こりゃ今度の休みは買い出しだな。
「スキルは変化と、他は?」
「よくわからんと。変化は、なんか出来るようになったけんわかったけど」
「野生だもの、今まで冒険者ギルドにも行ってないんでしょ?」
「え、でも冒険者に言葉を教えてもらったんだろ?」
と聞くと、キツネが顔を背ける。
え、違うのか?
「こ、こっそり後をつけてただけなんよ」
「あぁ……教えてもらったんじゃなく、聞いて覚えただけなのか」
「そ、それでウチの名前って?」
……キラキラした目で見ないで欲しい。
「キツネなんだし、ツネっていうのはどう? 何かのドラマで見たの」
「な、なんかパっとしない名前やね」
ツネ……なんかおばあちゃんみたいな名前だ。
「なんかばーさんみたいな名前じゃねえか」
ブライト……そこは黙っておこうよ。
「そうかしら?」
「ばーちゃん。ばーちゃんなの?」
「お、お姉さんはおばーちゃんじゃないのよ」
ツララに言われてキツネは耳を垂らしてしまった。
たぶんツララはおばーちゃんが何なのかわかってない。
「じゃあキネ。キネさんならいいんじゃない?」
「それもばーさんっぽいぞ」
「もう、うるさいわねぇ。ブライトは黙っててよ」
ツネもキネも、ブライトが言う通りおばあちゃんっぽいと俺も思うな。
「あらあら。悟くん、早く名前を決めてあげないと」
「うんうん。早く、早くっ」
スノゥまで心配しだし、キツネは助けを求めるように頷いている。
そう言われてもなぁ。良い案が降って湧いてこないんだよ。
キツネ……キツネと言えば九尾の狐か。まぁ二本しかないけど。
妖狐……妖狐ねぇ。
よう……。
「ヨーコ。ヨーコさんはどうだ?」
「ヨーコ?」
「そう。狐の妖怪、妖狐でヨーコ」
「ヨーコでヨーコ? 何言ってるの、悟くん」
「まぁ元ネタはよくわかんねぇけど、ツネとかキネよりは全然マシだな」
散々な言われようだな。
「あなたはどうなの? 悟くんが言った名前でよさそう?」
「ウ、ウチ? ウチは……ヨーコ……ヨーコがいい!」
「それじゃあ、決まりね。スキルのことは明日、鑑定してもらった方がいいみたいね」
「鑑定? それって何がわかると?」
野生だったからか、その辺の事情は何も知らないようだ。
その晩、屋根裏のシロフクロウエリアでダンジョンのこと、捜索隊のこと、冒険者ギルドのこと、そしてスキルのことをヨーコさんに話した。
屋根裏はとても……とても寒かった。
名前考えるのって難しいよね。
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