141:事実とは違う。
「三石アニマルチームは、上野のパトロールを頼む」
アニマルチームって……俺、人間なんですけど?
朝のミーティングを追え、本日のパトロール担当の発表のあとに勤務開始。
ツララのスキル訓練は、ヴァイスとタイミングを合わせるため再来週からってことになった。
それまで二羽はスノゥ指導の元、飛ぶ練習を行う。
捜索隊のトレーニングルームはそこそこ広さがあるし、マットもある。安全に練習出来るってわけだ。
スキルの方は秀さんに、もう一度封印して貰っている。
本人が「解こう」としなければ大丈夫だろうって。
「じゃあ父ちゃんはお仕事に行くから、母ちゃんの言うことを聞いていい子にしているんだぞ」
「いってらっちゃい、父ちゃん」
「ケッケッ。さっさとお仕事いけよ」
「秀さんの封印を解くんじゃないぞ、二羽とも」
「あーい」
「ケッ。わかってらぁ」
いつものようにサクラちゃんを背負って自転車で上野に向かう。
渋滞があっても自転車なら関係ない。まぁスピードは出せないけど。
信号待ちをしていると――。
「ママァ、あのお兄ちゃんぬいぐるみをおんぶしてるよぉ」
「あら。かわいいわねぇ」
ぬいぐるみじゃないんだけどね。
「ちょっと見てあの人っ」
「え、もしかしてアレ?」
アレって何? 誰の事だ?
あ、俺か。うん、俺を見てるね。
「マジか。あれがトラックを片手で止めた男か」
「え? トラックを持ち上げたんじゃないのか?」
「違うだろ。トラックを片手でひしゃげさせたんじゃなかったか?」
だ、誰のことを言っているのかなー。
あ、俺ですね。俺ですよねぇー。
なんか事実と違わなくないか!?
「ふふ。悟くん、有名人ね」
「いや、なんかあらぬ誤解をされているようなんだけど」
「そうかー? だいたい合ってると思うな、僕は」
「トラックを持ち上げたり、潰したりはしてないから!」
「そうなの? 悟くんならやれそうだけど」
「うんうん。僕も同意見だね」
この二人はいったい俺をどんな目で見ているんだ。
信号が青になって発進。
上野ダンジョン前の駐輪場に自転車を止め、入口へと向かった。
「あれ? 猫がいる」
「にゃ! 三石さぁーん。お疲れ様にゃー」
「お疲れ様」
と返事はしたものの、この子誰だ?
「ATORAアニマル派遣に配属されたんにゃー」
「そ、そうなんだ」
「あら、あなた秀さんの紹介で来た子よね」
「にゃーにゃー」
あぁ、そうか。だから俺のことを知っているのか。
ごめん。俺の方は全然覚えてないや。
「にゃーのスキルは観察と絶対方向感覚と見破りにゃ。戦闘も人助けもできにゃいから、ここで受付のお仕事を任されたにゃ」
「なんか聞いたことのないスキルだな。どんなスキルなんだい?」
「観察は――」
観察する対象を決めると、それに関わること、関わろうとするものがよく見えるようになるらしい。
よくわからない……。
「あ、そこの人! ちゃんと入口の端末に、カードを登録するにゃよっ」
「あ、えっと。猫?」
「入口の監視員にゃ! 今月からみーんにゃ、中に入るときは端末にカードをかざす決まりにゃ」
「そ、そうだっけ?」
「そうにゃ! さっさとカードをかざすにゃ」
今まで俺と話をしていたのに、いつ見てたんだ?
もしかしてスキルの効果なのか。
呼び止められた人はカードを忘れてきたのだと話す。
こうなると冒険者なのかわかったもんじゃない。
が、同行していた仲間の人が、彼は冒険者だと証言した。
「捜索隊の者です。確認をとっても構いませんか? ギルドに顔写真を送ればすぐに照合出来ますので」
「あ、はい。普段から持ち歩いてないもんだから、忘れてきてしまって」
「持ち歩かないんですか?」
「やー、ほら。今まではパーティーの誰かひとりでも登録してたらよかったじゃないですか。それで」
「そうですか。行っていいですよ、でも次回からはちゃんと持ってダンジョンに入ってください。予備期間を過ぎたら、罰金になるようなんで」
「マジですか!? え、通っていい?」
照合を拒否しないってことは、この人は冒険者だってことだ。
入り口での冒険者カード登録が義務になって一カ月も経っていない。この人と同じような理由でカードを持ち歩かない人は結構いるんだろう。
ギルドの人に伝えて、面倒だろうけどしばらくはカード登録の徹底を口頭で伝えてもらう方が良いだろうな。
たいていはダンジョン帰りにギルドへ寄るだろうし。
「猫さん、仕事の邪魔して悪かったね」
「うんにゃ。ニャーも同じような対応をしなさいって、教えられたにゃ。ニャーの見破りは嘘を見破るスキルにゃから、嘘つく奴はすぐわかるにゃ」
「ほぉ。便利なスキルだなぁ。でもそれ――」
警察が欲しがりそうだ。
そのうち警察からもATORAに派遣要請が来たりしてな。
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アニマル隊小話・・・
アニマル隊の中には、初期に就職したアニマル隊が町に求人の噂を出して
それを知って捜索隊に直接来た子たちもいます(現在進行形で増えている)
そういう子たちは悟を知りませんが、初期部隊の子たちが
悟のアクスタを飾って信奉しているため、「この人が救世主!」だと信じています。
でも神様とかそういう概念ではなく、尊敬する人、立派な人、ボス! 大好き!
そんな感じです。




