14:サクラちゃんです。
「今でも使えるんですか?」
「どうでしょう?」
「少なくとも、んっしょ、私たちが帰るときにはまだあったわ」
「タ、タヌキ!?」
あの隠し通路の件を伊藤さんたちが報告するのに、保証人としてギルドへやって来ている。
受付スタッフの一言で、サクラちゃんの目が光った。
「レッサーパンダよ!!!!」
すかさず俺が小声で「そう言うことにしておいてください」と頼んだ。
訳アリだと伝えると、スタッフは苦笑いを浮かべて頷く。
「ほんっと、勘違いされることが多くて、困っちゃうわぁ」
勘違いしているのは君なんだけどな。
いつか真実に気づけるのだろうか……。
「んんっ。そういえば、すっごい話題になってますよ」
「え? 何がですか?」
「ライブ配信ですよ~。三石さん、実は強かったんですねぇ。今からでも遅くないですよっ。冒険者登録、しませんか?」
「いえ、結構です。それで隠し通路の件は?」
ワーウルフを倒せた程度で、強いなんて言えるのか?
あいつはレベル26、7の冒険者なら倒せる相手だってのに。
後発で救助に来てくれた秋山さんたちは、レベル80だ。うちのエースの赤城さんなんて、120を超えている。
そんな人たちの前で、ワーウルフ程度を倒せたってなぁ。
まぁ、武器を使わなくてもモンスターが倒せるっていうのは、経済的でいいかもとは思う。
だけど捜索隊を辞めるつもりはない。
俺のように……俺や母さん、父さんや後藤さんみたいに、ダンジョン生成に巻き込まれて助けを求める人がいるんだ。
俺はその時のことなんて、当たり前だけど覚えてないし、でも救助が来るまでの数日間は、地獄のような日々だったに違いない。
ダンジョン生成に巻き込まれた人たちだけじゃない。
一攫千金だろうが、世界の暮らしを安定させるための資源採掘だろうが、理由はどうであれ、ダンジョンで狩りをする人は今や必須な世の中だ。
みんなの暮らしを維持するためにやっていることなのに、ダンジョンに入るのは自己責任だなんて、そんなのおかしい。
助けを求める人がいるなら、助けに行くべきなんだ。
だから俺は行く。そのために捜索隊にいるのだから。
「あ、伊藤さん。そちらは終わりましたか?」
「三石さん。えぇ、終りました。一カ月間、ダンジョンの進入は禁止だそうです。この程度で済んだのなら、感謝すべきですよね」
「そうですね。悪質な場合は、一生出禁になりますから」
「それと富田の冒険者登録は、認められないそうです」
「みんなを巻き込んでしまったんだ。当然さ」
「あらぁ。せっかくスキルを手に入れたってのに、残念ねぇ。ところで富田さん、スキルって何を貰ったの?」
そうだ。聞いていなかったな。
スキル次第では捜索隊に――いや、お節介は止めよう。
「手に入れたスキルは二つあるんだ。こういうのって普通なんです?」
「あー、人によりけりですが、高確率で複数のスキルを手に入れたりしますよ。俺も三つですから」
「私も三つよ。多い人だといきなり四つってのもあるそうだけど」
さすがに四つ手に入れるって人は多くはない。
「そうか。二つで浮かれてたけど、普通なんだな」
「それで、何を貰ったの? ねぇ?」
「あ、うん。『遮音』と『幸運を手繰り寄せ』って、よくわからないスキル――」
「富田さん捜索隊で働きませんか?」
富田さんの件は、また後日改めてってことになった。
まずは妹さんの結婚式を済ませてからだ。
幸運系のスキルはいくつ確認されているけど、実際のところ、微妙なスキルのひとつだとされている。
なんせ任意に効果を発動させられないから、どうでもいいことに運を使うことがあるからだ。
それでも、運に縋りたい時が捜索隊にはある。
要救助者がいるのは右のルートか、それとも左か。詳細な位置がわからない時は、運頼みで探すしかない。
「富田さん、来てくれるといいなぁ」
「そうねぇ 。悟くん、今日のお仕事はもう終わり?」
「報告書書くよ」
「今からあぁぁぁぁ!?」
「そう。今から」
明日に後回しして、明日また出動がかかったら書かなきゃいけない報告書が溜まってしまう。
「大丈夫。報告書のほとんどは、AIに録画を読み込ませて作成されているんだ。俺たちはそれを見て、事実確認をするだけだから」
「AIが間違った内容を書いていないか、チェックするってことね」
「そう。録画記録を見ながらね」
その録画だって全部見るわけじゃない。AIの報告書でおかしな点があったらそこを指定すると、該当部分の映像が選び出されるから簡単だ。
といっても一時間ぐらいはかかるけど。
本部に戻ってさっそく作業を開始。
するとさっそく変な点を見つけた。
「悟くん。私の顔、NGってことになってるんだけど、どういうこと?」
「え?」
「視聴者さんのコメントでたびたび出てくるみたい」
「それって、サクラちゃんの帽子にカメラがセットされてたから、君の姿が映らなかっただけじゃ?」
「あぁ~、なるほどねぇ。それを勝手に視聴者さんが、顔出しNGって思い込んだのね」
顔出しNGという報告書内容を削除っと。
行きの道中で討伐したモンスターの数が二十一になっている。これも削除――いや、今回から残しておこう。
毎回、AIの報告書に討伐数が記載されていて、倒した覚えはないから削除してたけど……走ってるうちに蹴り飛ばしていたんだな。
「そうだ、サクラちゃん。カメラ起動してくれる?」
「え? いいけど。んー、んん。あら、私の捜索隊アカウントからカメラ起動すると、ライブ配信に繋がるようになってるみたい」
マジか……。これは今後もライブ配信させるつもりだな。
俺のスマホでライブチャンネルを開いて確認してみる。
確かに配信されてるな。うわぁ、スマホ弄ってる俺が映ってるよ。
[また出動!?]
[休む間もないじゃん大丈夫か?]
「あ、いえ、出動じゃありません。今は報告書を作成してまして。視聴者さんがサクラちゃんの顔出しNGだと勘違いしていらっしゃるようなんで」
「え? 待って悟くんっ。ま、待ってっ。毛づくろいするからっ」
[サクラちゃんの顔出し!?]
[毛づくろい? どゆこと?]
サクラちゃんの帽子を取って、そのカメラに彼女が収まるように構える。
「サクラちゃんです」
「や、やだ恥ずかしいっ。待ってって言ったのにぃ。もう、悟くんのバカぁ」
[[な・・・なんだってー!?]]