137:泥棒!
――某グループチャット。
A「クソッ。今回もダメだった」
B「お前、また行ったのか?」
C「無理だって、止めとけよ」
D「あんなバケモノ軍団に勝てるわけがない」
A「お前らは悔しくないのか! 俺たち転売ヤーが甘く見られているんだぞ!」
C「別に」
B「だって転売は副業みたいなもんだしな」
D「転売なら別のアイテムでも出来る」
C「そもそも、発売三日後から通販始まるものを大量購入したって定価と変わらない値段じゃないと売れないだろ」
A「当日に欲しいってバカだっているじゃないか!」
B「いやお前、冷静になれって。俺たちが当日に買っても、客の手元に届くのは数日後だろ」
A「……見損なったぞ!」
C「あぁー、もうこいつウザい」
CがAを強制退去させました。
C「これでよし」
D「おい、大丈夫か?」
B「まぁいいんじゃないか? Aは捜索隊グッズに執着して、別アイテムの開店待ちにもこなくなったしさ」
D「それはそうだけど……あいつ、過激なことしなきゃいいんだけどな」
「ちゅっきん♪ ちゅっきん♪」
「ツララ! ガゴの中で踊るな。ツララ!」
今日はまた、一段と賑やかな出勤になった。
「ママー。白いフクロウさんが来たよぉ」
「あら。今日は二羽なのね」
「違うよぉ。自転車のカゴの中にも――」
そんな会話を聞き流しながら自転車を漕ぐ。
「じゃあ、本部に到着したらブライトとスノゥは子供たちを連れて五階の診察室へ。俺とサクラちゃんは、ニューヨークから頼まれたグッズの発送作業を行う。でいいね?」
「あーい!」
「ケッ」
「それにしても、まさか一晩でこんなに注文が来るなんて……オーランドまで」
昨日、新グッズ販売のことをメールでヒューさんに連絡したら、ぜひ欲しいとのこと。
じゃあショップの人にお願いして各種一個ずつ取り置きしてもらおうと一階に向かうと――そこでスマホに着信が入った。
――実はジェニファーも欲しいって言ってるんだ。それからブラッドやジョージのところもお子さんもね、ファンなんだって。
そして当たり前のようにオーランドからも連絡が入って、全種類欲しいと……。
他にも欲しがる知人がいるかもしれない――とは言われたけど、さすがに数が多すぎて確保出来ないことを伝えた。
名前が挙がった人たちは講習会にも参加していたし、まだ仕方がない。
ショップの店員さんに聞いてみたら、社長に確認するからと言われ、昨日の帰宅前に社長から「生産工場から直接運ばせたから発送手続きは君がやれ」と言われた。
「で……何、このダンボールの山」
「うっそぉ~! こ、これ全部なの?」
会議室に荷物があると言われて行ってみると、そこには二十箱近いダンボールの山があった。
開けてみると、全部ショップのグッズだ。あぁ、ぬいぐるみもあるから、箱が多くなったんだな――って、何個ずつ用意されてんだよ!
「あ、悟くん。箱に個数とか書いてあるわよ。えっと、SFサクラちゃん人形十二個入り……ねぇ、SFサクラちゃんって、何?」
「え? なんだろう……あぁ……ガスマスク装着してるサクラちゃんだ」
「えぇぇ!? ちょっとちょっと。どう考えたってかわいくないじゃない! あらやだ、本当だわ」
箱の中にあったのは、捜索隊のジャケットを着て、ガスマスクを装着したサクラちゃんのぬいぐるみだった。
これの製造にGOサインだしたの、誰だよ。売れると思ったのか?
あ、もしかして売れなさすぎて押し付けられたんじゃ。
「ねぇねぇ悟くん。発送ってどうやるの?」
「ん? 伝票を書いてダンボールに貼り付けてから、配送業者を……伝票がない……」
一階のショップに行けば譲ってもらえるかな?
サクラちゃんとショップへ向かう途中で、ツララとスノゥに出くわした。
「あらぁ、ツララちゃんどうしたの?」
「ん。今にぃにの検査なのぉ」
「一羽ずつだから、少し待っててねって言われて」
「悟にぃに、ツララ暇ぁ」
「暇ぁって言われても、待ってなきゃならないんだろう?」
「三十分以上はかかるだろうって言われて。ちょっと本部の中を散歩させてもいいかしら?」
だったら一緒にショップを見に行くかと聞けば、ツララは羽根を広げて喜ぶから連れていくことに。
「えっちょ、えっちょ。でんぴょー貰いにいっちょがなきゃ」
「いや、急がなくていいからな」
飛行訓練を始めて間もないのもあって、ツララはまだ飛べない。
ヴァイスの方は自力で浮くことが出来始めた。そろそろ秀さんに、ホバリングスキルの封印解除をお願いしないとな。
ツララの歩行に合わせてゆっくりとショップへ向かう。
エレベーターを出て、店まで十数メートルのところまで来た時だ。
「キャァーッ! ど、泥棒!!」
そんな悲鳴が聞こえた。
この声は、ショップの店員さん!?




