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はい、こちらダンジョン捜索隊~自分はレッサーパンダだと言い張る相棒の♀タヌキが、うっかり記録用録画を配信してしまった件。  作者: 夢・風魔
6章

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134/181

134:よちよち、またな。

「よちよち、いい子いい子ねぇ。ちょんな顔ちて泣いちゃメッなの。メッ……ぐす。ぅ、うわあぁぁぁぁん」


 ジョン・F・ケネディ空港に、ツララの泣く声が……響かない。

 まぁこれだけ大勢の人間がいたら、シロフクロウ一羽の声なんて喧騒に負けるだろう。


 そのツララは今、オーランドの顔面前にいる。彼が持ち上げ、目線を合わせているのだ。

 ツララはまだ羽根の生えそろっていない翼で、オーランドの顔を抱え込んでわんわん泣いていた。

 オーランドの頭の上にはブライトが止まり、髪の毛を咥えて引っ張っている。足元にはヴァイスがいて、すねを突いていた。


「二羽とも、やめなさい。オーランドくんが痛がってるでしょ」

「いいやスノゥ。こいつは痛がってないぜ」

「そうだぜ母ちゃん。こいつはニヤけてんだぞ」


 ニヤついている? そうか? いつもの無表情に見えるけど。

 ただ、ツララを遠ざけないで自分の顔の前で抱き上げているあたり、確信犯だろうなとは思う。

 フクロウは意外ともふもふしていて、気持ちいいらしい。


 十一月も下旬に差し掛かろうとするこの日、俺たちはやっと日本へ帰ることになった。

 結局ひと月半……より少し長い日程でアメリカに滞在したな。

 はぁ。早く日本の和食が食べたい。


 アメリカにも和食の店はあったけど、なーんか高級感があって落ち着かなかったんだよな。

 

「みんな、またニューヨークに遊びに来て。冬のニューヨークはシロフクロウにとって快適だと思うよ」

「雪に覆われたニューヨークを見て見たかったわぁ。ね、あなた」

「いいや、僕は見たくないね! 特にオーランドは! あイタッ」

「ツララだっていつかは巣立っていくのよ。あなたがそんなんで、どうするの」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ。ツララァ、父ちゃんとずっと一緒にいような?」


 なんて見苦しい父親なんだ。

 ほら、注目の的になっているじゃないか。


「パパァ。ぬいぐるみさんがお喋りしてるよぉ」

「あ、あれはぬいぐるみじゃなくって、本物だよ。きっとスキル持ちのフクロウさんだね」

「スキル持ちのフクロウさん! わぁ、ボクもあれ欲しいなぁ」


 なんて親子の会話も聞こえてくる。ペットじゃないから買えないし飼えないけどね。

 その会話が聞こえたヴァイスは「バーカバーカ。人間のクソガキバーカ」と、日本語で言っている。日本語なら彼らに理解出来ないとわかっているからだ。


 ところで、オーランドのやつ。

 また遊びに来てね――というのを、サクラちゃん、ブライト、スノゥ、ツララ、ヴァイスにだけ言っているのはどういうこと?

 いや別にさ、来てくれって言われなくても全然平気だけどさ。寂しくないし。

 ほんと、平気。


「おーい、搭乗準備出来たぞー。離陸時間に出なきゃならないんだ、わちゃわちゃしてないで、さっさと乗れ」

「は、はい。ほら、みんな行くぞ」

「は~い。金森さぁん、どこのゲートかしら?」

「こっちだ。案内してやるからついてきなさい」

「金森、ほんと仕事スイッチ入ってないと、その辺のガラの悪いおっさんだよな」

「まだ三十八歳だぞ。おっさん言うな」

「じゃ、オーランド。ツララは貰っていくからな」


 と、俺がツララを抱きかかえる。

 またな――と言おうとしたとき、オーランドが俺のコートの袖を掴んだ。


「サトル」

「な、なんだよ」


 無表情? いや、真剣な眼差し?


「サトル。次、ニューヨークに来た時にはボクと――」


 ボクと? な、何が言いたいんだ。

 一瞬、背中に悪寒が走った。


「ボクと……ボクとどっちが早く自由の女神のてっぺんまで登れるか、勝負をしよう」

「…………は?」

「あ、もちろん自由の女神は貸し切ってやるから、他の人の迷惑にならないようにするさ」

「いやそうじゃなくて、なんで勝負?」

「その前にターミナルから島まで泳いで渡ろう。どっちが早く泳ぎ切るか、そこでも勝負出来るしね」


 いやなんで!?


「思い出したんだ」

「思い出すって、何を」

「ネットで初めて君を見て、君に興味を持った理由をさ」


 俺に興味を?


「同じダンジョンベビー。同じ日に生まれた……あ、時差の関係で数字的な意味だと違うけど。とにかく、どちらが強いのか、知りたかったんだ」


 いやいや、どう考えたってお前だろ。


「だから勝負したい」

「俺はしたくない」

「じゃ、また」

「話聞けって」

「あ、もうみんなゲートに行ったよ」

「なんだって!? あ、ほんとに誰もいない!?」


 嘘だろ。置いていかれる!?

 その時、スマホが鳴った。メッセージの着信だ。

 そこには「七番ゲートに来い」という金森さんからのメッセージがあった。


「ハハハ。急げサトル」

「お前が変に溜めるからだろう!」

「またな、サトル。みんなの写真待ってる! 新しいアニマルたちの写真や動画もよろしく!」

「……そっちこそ。牧場やおばあさんのこと、捜索隊メンバーのこととか送れよ!」


 手を振ってから七番ゲートへ向かう。

 途中で振り返ると、オーランドの姿はまだそこにあった。


 またな、オーランド。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なんやかんや有りましたが、将来オーランドと悟くんは気の置けない友人になる予感がしますね。いつかオーランドにも一緒にダンジョンに潜れる、悟くんにとってのサクラちゃんみたいなパートナ…
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