131:タダより安いものはない。
「いやぁ、助かったぜサトル。オートマッピングとお前さんの組み合わせは、最高だな」
資源階層のマッピングをすべて終えると、エディさんからお小遣いをもらった。
いいのかなって思っていたけど、社長が「お、やったな!」といい金森さんは「問題ありません」と言ってくれたので受け取ることに。
これでサクラちゃんにお金を出して貰わず、職場や母さんたちのお土産を買える。
「オープンフィールドになっている荒野の方にも資源があったのは幸運でしたね」
「あぁ。思ったよりも資源量が多い。まぁビルに潰されたのがどのくらいかわからないし、採掘量は少なく見積もる必要があるけどな」
「ギリギリを攻めるわけにもいきませんしね。そこで規定オーバーの採掘をすれば、あそこがスタンピードのスタート地点になってしまうわけですから」
「そうなると採掘班が真っ先にやられちまうからなぁ」
そう。スタンピードは突然始まる。
スタート地点になる階層に、いきなりわっと湧き始めるからその場にいた人が逃げるのは無理。
よっぽど高レベルの冒険者が護衛にでもついていなければ、まず、助からないとさえ言われている。
だからスタンピードが発生しないよう、採掘量には最新の注意を払っているんだ。
「社長。上野ダンジョンはどうなんですか? ショッピングモールで潰された階層に資源とかは」
「そういう報告はないな。まぁ潰れたのは地下二階から九階だしな。こっちとは規模が違う」
上野はダンジョン八階分。ニューヨークの方だと三十階分だ。三倍以上の規模が違う。
社長の話だと、上野は地下十三階を発見。ほとんどの冒険者が、十四階への階段を探している。
十四階の適正レベルは35から40。レベル35でも三人以上のパーティーだと、生ぬるいそうだ。
階層+レベル20ぐらいが適正となると、東区のダンジョンよりは難易度が高く、北区よりは温いってぐらいかな。
講習が休みの日はこうして、誰かしらにダンジョンへ連れていかれたりオーランドの実家へ行ったり。
何度か救助要請が入って助けにいくこともあったが、どれも浅い層ばかりで難なく終わった。
技術部の端末設置もとんとん拍子に進み、この一ヶ月でひとつのダンジョンは百二十階まで設置終了。
来週から別のダンジョンでの設置に取り掛かるそうだ。
「アメリカ中のダンジョンに端末を設置するのって、何年掛かるんですかね」
「そこまでは掛かりませんよ。各州で同時作業を始めましたので」
「あ、そうなんですか」
「端末の設置自体はそう難しくありません。手順通りにやるだけなので、魔導装置に詳しくない者でも可能ですから」
と金森さんは話し、一般から募集した人にやってもらっているんだとか。
もちろん護衛のハンターもいるし、各階層に転移装置があるので行き来するのも楽。
一日四、五階層に取り付けるだけで、アメリカの平均日当の二倍ぐらいを支払っているんだとか。
「まぁ、それでも全てのダンジョンに設置し終えるまでに、もう二カ月ぐらい掛かりそうですが」
「日本のダンジョンにも、各階層に転移装置が欲しいですよねぇ」
「その方向で進めていますよ」
お、それは有難い。
各階層に転移装置が出来れば、当然、行きだけでなく帰りだって楽になる。
帰りが楽ってことは、万が一の時にも引き返しやすくなるってことで、遭難者が減ることに繋がる。
俺たち捜索隊の出動件数が減るだろうけど、それはいいことだ。
「でもよ。なーんでこれまで、各階層に装置を設置しなかったのさ」
「いい質問ですね、ブライト。転移装置を各階に設置したほうが、下の階層にも行きやすくなります。わかりますね?」
「あぁ。わかるぜ」
お仕事モードの金森さんが続ける。
「行きやすくなるってことは、気軽に行けるようになるということ。気軽に行けるってことは、適正外の冒険者がちょっと背伸びして『行ってみるか?』となりやすくもなる」
もしかしたら自分たちの実力でも行けるんじゃないか?
と考え、気軽い下の階へ行ってしまいがちになる。
これまでは次の階層に行くまで徒歩だったから、その間に自分たちの実力を知ることも出来た。
でも各階層に気軽にいけるようになれば、実力を測る前に高レベル帯の階層に行ってしまう。
「行った先で、わずか一体のモンスターによって全滅するなんてことも起きかねない。いや、実際そうだったんですよ」
「そうだったって?」
「実は日本でもひとつだけ、各階層に転送装置が設置されたダンジョンがあります」
え? 初耳だ。知らなかった。
「今から十年前に全階層に設置されたのですが、直後からの行方不明者数、死亡者数が前年の十倍を超えましてね」
「うわっ。そりゃヒデぇや」
「そのダンジョンは大阪にあるのですが、今では入口で入場者のレベルを確認し、装置使用時もギルドスタッフが監視しているのです」
「それでな。日本では冒険者レベルに応じた階層までしか選択できない装置の開発をしているのさ」
例えばレベル10の人だと、最上階から適正レベル10の階層とその一つ下の階層までしか転移出来ないようにするとか。そういうシステムを作ると言っている。
転送装置を起動するのに冒険者カードが必要になる。
「だからな。アメリカのハンターカードみたいに、クレジットと紐づけしてな」
「転送装置を使う際に、その利用料をカード決算出来るようにしようと」
「これまではなぁ、ひとり分の料金でタダ乗りしてたのもいただろう? 抱っことかさ、おんぶで」
「まぁ俺たちもそうやって救助者を運んでいましたし」
「うちの社員はいいんだよ。冒険者のタダ乗りがダメなわけ。だからさ、装置に重さを感知させる機能も付けてさ」
冒険者カードに登録されている体重より、明らかに重いとタダ乗りがいると認識して、重さに見合った料金を引き落とす仕組みにするんだと社長が鼻息を荒げて言う。
その場合、俺たち捜索隊はどうなるんだ?
「うちの社員証で転移出来ます。社員証の場合重量超過でもタダですから」
と金森さんが。
よかった。タダ乗り出来て。




