13:チャンネル登録者数。
――[すげー]
――[無事に生還おめでとー!]
――[おめでとうだけど、あの五人には罰を受けてもらいたい]
――[妹の結婚式かぁ。俺も去年、妹が結婚してて。危うく式場がダンジョン生成に巻き込まれるとこだったから、少しだけ気持ちわかる]
――[ダンジョンで式上げなくてよかったな]
――[だからって他人に迷惑かけていい理由にはならん]
――[その通りだ]
「お疲れ様でした。無事、地上へ到着です」
転送陣を使って、無事に全員、地上へ出すことが出来た。
左手を失った人は、まだ意識が戻らないまま。
既に到着していた救急車に、今乗せるところだ。
「本当に……本当にありがとうございます」
涙ながらにそう訴える富田さんの腕には、金色に輝く板状のもの――金のインゴットが握られていた。
重さからして一キロ未満だろう。それが二枚あった。
金の相場は今、一グラム一万二千円ほど。ダンジョンから出るようになって、以前より相場は落ちている。
それでも、産出量が多いわけではないし、高価であることにかわりはない。
一枚は富田さんが。残り一枚を四人で分けるそうだけど、富田さんは自分が受け取る一枚も、後々、自分で稼いだお金で四人に返すそうだ。
それがいい。きっとそれが、四人を巻き込んだ罪の償いになるだろう。
「にしても、ネームドといい箱の中身といい、確かに彼らは運がいいんだろうな」
「そうですね。半分は悪運ですが」
「そうか? ネームドは誰でも狙ってる獲物だ。それを引き当てたんだから、幸運じゃないか?」
「倒せる実力がなかったっていう点を除けばだけどな」
橋本さんの言う通りだ。倒せる実力があれば、大幸運だったろう。
「あの、捜索隊の方」
「はい?」
救急隊員が俺たちの所へとやって来た。
気を失ったままだった人の意識が戻ったそうで、俺たちにお礼がしたいとのこと。
「行ってこい。救助したのはお前たちだ」
「俺たちは先に本部へ戻ってるから」
「え、あ――」
い、行ってしまった。先に戻るなら報告書も作ってて欲しいな。
「じゃあ二人で行きましょうか、悟くん」
「あぁ」
救急車まで行くと、あの冒険者が救急隊員と話をしていた。四人も一緒だ。
こちらに気づいて起き上がろうとし、隊員に止められる。
「そのままで。輸血をしたからって、すぐに良くなるわけじゃありませんよ」
「じゃあ武田。俺たち、ギルドに今回の件の報告に行ってくる」
「あぁ、伊藤。全部押し付けて悪いな」
四人がいなくなって、残ったのは俺とサクラちゃんと彼の三人だ。
「すみません……ご迷惑をおかけしました。本当に……本当にありがとうございます」
「はい。他の四人からも同じこと言われてました。お礼は受け取ります。仕事だから救助するのは当たり前ですが、お礼を言われるのは嫌ではありませんので」
「悟くん、そういう時にはね、嬉しいって伝えるのよ。嬉しいんでしょ? 悟くん」
「……そうなのかも?」
――[悟くん、かわいい]
――[いやマジ表情かわんないなこの人]
――[嬉しいって思ってないんじゃね? あいつら見つけた時も淡泊だったし]
「この手じゃもう、冒険者は無理ですね……」
「そうかもしれません」
「悟くん、そういう時には嘘でも『そんなことないです』って言ってあげるものよ」
「そうかな? 変に期待を持たせて、あとになって本当のことを知る方が残酷だと思うけど」
――[いやそうかもしれないけどさー]
「でも、他の仕事なら出来るかもしれませんね」
「え、他の?」
「あなたのスキル次第ですが。うち、人手不足なんで」
「え? え? それって捜索隊にスカウトするってことなの? え?」
「別に、そういうわけじゃないよサクラちゃん。うちは元冒険者って人がほとんどだから」
現場での捜索や救助活動が出来るのは、スキル持ちに限定されている。
うちではスキルを持っていない人も働いているけど、技術部とか事務、現場活動中の隊員をサポートする後方支援の人たちだけだ。
捜索隊員は冒険者と違って、自由に狩りが出来るわけじゃない。救助活動のうえでモンスターの討伐が必要なら倒す。その程度だ。
そして勤務中に拾ったドロップ品は会社に提出し、支給されるのは相場の一割しかない。
残りは会社の研究機関に回されたり、運営資金になったりする。
つまり俺たちはサラリーマンってわけだ。
都内のサラリーマンの平均収入より、ほんの少し多くはあるけど、命がけにしては安い――というのがスキル持ちの意見になっている。
「俺でも……俺でも役に立てるかな?」
「さぁ、どうでしょう。まぁ仕事が見つからなくて困るようなら、選択肢のひとつにしてもいいんじゃないですかね?」
「そうか……うん、ありがとう」
「じゃ。どうぞ、行ってください」
後半は救急隊員の人に告げ、救急車の後ろドアを閉めるために手を掛ける。
「そうだ」
思い出して、身を乗り出す。
「どうかしましたか?」
「はい。無事、生きていてくださって、ありがとうございます。それじゃ」
それだけ言うと、ドアを閉めた。
「あ、サクラちゃん。録画止めていい……ん? どうした?」
なんかお祈りポーズみたいな仕草のまま、サクラちゃんが俺を見つめている。
「悟くぅ~ん」
「え、何? 何だよ?」
――[悟くんが笑った!]
――[えぇぇーっかわいいんだけどぉ]
――[もう真顔wwww]
――[笑えんじゃん。めちゃいい顔だったぞ]
――[生きててありがとうとか、俺も言われたい]
「悟くん。かわいいわぁ~」
「な、何で!? 待って、サクラちゃん、よじ登るなっ」
「うふふ。悟くんの笑った顔、みんなにも見てもらいた――イヤアァァァーッ」
「ど、どうしたサクラちゃん!?」
サクラちゃんはスマホの画面を、こちらに向けた。
映しだされていたのは、株式会社ATORA捜索隊の公式チャンネル。
「チャ、チャンネル登録者数が……二十万人突破しちゃってるうぅぅぅぅぅっ」
――は?
うちの公式チャンネルなんて、マニアック好きが千五百人いたかどうかだったはずじゃ。
「ご、後藤さん? 聞こえますか後藤さん?」
『おう。チャンネル登録者数な……この短時間に百倍以上増えたぞ』
……えぇ。