129:だが断る。
「サトル。一緒に行かないか」
「断る」
「……何故?」
何故かって? 自分の胸に聞いてみろ、オーランド。
捜索隊独自アイテムの使い方の説明をしたり、応急処置の仕方を教えたり。連日、講習会を開いたらまた一週間の休みに入った。
その初日。
ギルド『ブラッディ・ウォー』のビル内にあるカフェで朝食を摂っていると、オーランドが来た。
即答だ。断るに決まっている。
「オーランドと一緒だと、命がいくつあっても足りないわ!」
「そうだそうだ! 僕らはお前と違ってか弱いんだぞっ」
「か弱くはないわ」
「うん。か弱くはないな。僕が悪かった」
「父ちゃん虐める、めっ!」
頭を上下に振って威嚇しているような仕草をするツララ。
オーランドは何故かそのツララを撮影していた。
ちなみに、先日のダンジョンでの一件――野郎に抱っこされるより、女性に抱っこされた方がいいねってヤツ。
黙っといてやろうと思ったら、サクラちゃんの方が話してしまった。
だがスノゥは表情を変えず「私もよ」と。
ヤキモチを焼かないのかと思ったが、人間の女性は浮気相手にならないらしい。
うん。まぁ、そうだよな。うん。
「君たちは何か誤解している」
「何かって、何だよ」
「今日は資源の採掘班の護衛で、新しいダンジョンの十二階に行くんだ」
「「だったらそれを先にいえよ」」
俺とブライトが同時にツッコミを入れる。
肝心な部分を言わないで、何でも何もないだろう。
「だから行こう」
「なんで「だから」が続くのかは謎だけど、まぁやることもないしいいけど」
「よし。サクラちゃんとブライトの昼食は用意してあるよ」
「俺のは?」
「……え?」
「いやいい。自分で用意するから」
何事も動物優先なんだよなぁ、こいつ。
カフェの人に頼んで、ホットサンドを用意してもらった。それをサクラちゃんのアイテムボックスに入れてもらう。
そこから車でダンジョンまで移動。
「あれ? エディさんも一緒なんですか?」
「あ? 俺いちゃダメ? ダメなの?」
「い、いや……いいんですけど」
この人、ギルドの副マスターだったじゃん。そんな立場の人でも護衛依頼を受けるのかなって思って。
あと、ダンジョン行くのにリムジンってどういうことだよ!
「いやぁ、便利だなぁ。オートマッピング」
エディさんはそう言いながら、俺が右手に持つ紙を覗き込んだ。
ここのダンジョンは、まだ地図が作られていない。
まぁ生成されて一ヶ月にも満たないダンジョンだし、当然と言えば当然だ。
それでも十二階に資源があることがわかったのは、ビルが突き刺さっていたからだとも言える。
ビルの窓からアッサリ見えたからだ。資源用オブジェが。
そしてビルのおかげで階段を探さなくても、楽に下の階に行けるっていうね。
という話をすると。
「よく考えろ、サトル。転移装置を置けば、どっちの方が楽になると思う?」
「……あぁ、そうですよね」
「そうそう。それまで俺たち採掘班は、非常階段を上り下りしなきゃならないんだ」
そう話すのは『ブラッディ・ウォー』の資源採掘班だ。
アメリカじゃ、資源の採掘・回収もハンターに任せてある。まぁ正しくはハンターギルド、だけど。
採掘班の中にもスキル持ちいて、だけど戦闘スキルじゃない人たちだ。それとは他に、スキルを持たない人も所属していた。
採掘された資源は国や企業が買い取ってくれる。
ここが日本との違いだ。
日本の場合、採掘した資源は一度国が買い取り、種類によってはそこから企業に売却される。
採掘スタッフは国の下請け企業みたいなものだ。冒険者も資源を拾ってくることがあって、それはギルドが買い取り、まとめて国に送るそうだ。
冒険者ギルドの職員の話だと、買取価格はそう高くはないという。
まぁ資源の買取価格が上がれば、光熱費の値段が今より高くなるから仕方ない。
ただ、企業が直接買えるようになれば少しは安くなるんだろうけどなぁ。
「ねぇ。ここでは何が採れるの?」
「あぁ。それを今から調べるんだ」
「「え……」」
知らないで採掘しに来たのか!?
「おっと。モンスターだぜ」
「片付ける」
「待ちな、オーランド。せっかくだ、サトルに俺のスキルを見せてやろう」
そういえば、彼のスキルのことは何も知らないな。
オーランドは回復が出来る魔法剣士タイプだけど。
黒人でスキンヘッド、筋骨たくましい肉体。
イメージとしては格闘タイプ!!
「さぁ、行こうか。出てこい、ロック・エレメント」
エディがそう言って壁に手を着く。
その壁から現れたのは、岩で出来たゴーレムだった。
「よぉし。蹴散らせ!」
「ゴッ――」
ゴーレムが岩の拳を振ると、襲ってきたモンスターは吹っ飛んでしまった。
「っしゃー! お、逃げるのはなしだぜ。――ロック・バレット!」
長細い岩が宙に現れ、モンスターに向かって飛んでいく。
魔法タイプか!?
あの筋肉はなんのために!?




