122:聞いてない。
「聞いてない!」
「え、何を?」
「キャアァァーッ」
「フェザー! フェザァァァァーッ!」
ニューヨークでも最高難易度のダンジョン百階に行くなんて、聞いてない!!!!
オーランドにおんぶされて転移すると、いきなりモンスターが襲って来た。
オーランドがあっさり両断したけど、次から次へと続々現れる。
いや現れすぎ!
しかもどいつもこいつも強いモンスターばっかりだし!
なんだよ。ハンターレベル160推奨って!
ボク196だから平気――だって?
俺たちが平気じゃないんだよ!
サクラちゃんはオーランドの肩にしがみつき、ブライトは宙から必死にフェザーを撃ちまくっている。
俺は拳を強化して近づいて来るモンスターを殴った。とにかく殴った。
ストーン・ウェーブのスキルレベルは低い。
推奨レベル160のモンスターにはたぶん利かない。殴る方がマシだ。
「なんだ。案外楽勝じゃないか。じゃあ百十階にしようか」
「「やめろ!」」
「え、なんで?」
「なんででもよ! このおバカ!」
「サ、サクラちゃん!? え? ボク何か悪いことした? え?」
こんの、無自覚最強キャラめ!
「なんだ、君たち。疲れ切っているな」
「あ……社長……おかえりなさい……」
「もうダメ。私、今日はもう絶対動かない。絶対よ」
「さぁ、賛成だ。大賛成だね」
「……どうしたの、この連中?」
「オーランドさんに、高難易度ダンジョンの百階に連れていかれたんですって」
説明ありがとう、スノゥ。
地獄のようなダンジョン百階から無事帰宅して、ドッと疲れてしまった。
オーランドは「体が鈍るから」って、まぁたダンジョンへ。
今度は百二十八階に行くらしい。
おかしいだろあいつ!
あのダンジョンは百三十階まで発見されてて、階層全体はまだ把握されていないらしい。
更に下の階があるのかどうかもわからないと。
東京北区のダンジョンは九十四階の階段がつい先日見つかったばかり。
たいていのダンジョンは五の倍数で最下層がある。だから北区は百階までかって言われているけど、アメリカのダンジョン事情を聞くともっと下がありそうな気がしてきた。
百階への階段が見つかるのも、いつになることやら。
「社長の方のお仕事は?」
「ん? まぁ順調かな。大きな商談も決まったし。あ、そうだ三石」
「はい、なんでしょう?」
「お前、この辺りで銭湯、見なかったか?」
……は?
「潤、だからないって言っただろ。アメリカだぞ?」
「アメリカなんだから、なんでもあったっていいじゃないか!」
「諦めろ」
「進、お前は諦めが早すぎる!」
銭湯……銭湯、入りたいな。
ここの部屋、ジャグジーのおかげで風呂はあるんだけど、でも落ち着かないんだよ。
いくら高層ビルだからって、ガラス張りのところにジャグジーが置かれているんだぞ!
ブラインドも何もないんだ。何も、隠せるものが、ない!
「日本の銭湯とか、あるといいんですけどねぇ」
「あるといいなぁ」
「ないものはない」
金森さん、いじわるだ。
「僕ぁ水浴びできればそれでいい」
「私はゆっくりは入れればどこでも。泡がぶくぶくするのも楽しいわ」
「ジャグジーはジャグジーでいい。だがそれはそれ、これはこれ!」
わかる。
「よし! ニューヨークに銭湯を作ろう!」
「は? おい潤、やめろ。これ以上仕事を増やすな」
「明日は物件探しに行くぞ!」
「おい聞け。明日は午後からオフだったろうが!」
「ひゃっほー!」
え? 銭湯作るってどういうこと?
え?
はぁ……なんか今日は疲れた。いろいろと疲れた。
明日も講習会ないんだけど、何をしようかなぁ。
もうオーランドに着いて行くのは止めよう。
そうだ。新しく生成されたダンジョンってどうなったんだろう?
生成時の救助活動がどんなだったのか、明日、誰かにじっくり聞こうかな。
そして翌日――。
「そりゃまぁ、スタンピードを引率しているボスをぶっ倒すだけさ」
「いやまぁ、スタンピードを止める方法はそれしかないんでしょうけど、初動の救助活動がどうなのかなって」
ハンターギルド、『ブラッディ・ウォー』のビルの中には在籍メンバー用の食堂がある。
食堂というよりフードコートだ。
そこで、ギルドマスターのトム氏がいたので彼に話を聞いた。もちろん、この人もスタンピード制圧戦には参加したそうだ。
「救助はもっとランクの低いギルドが軍の連中と共同作戦で行っていたからな。俺の方はまったく知らん」
「そうなんですか」
「ボスをいかに早く見つけてぶっ倒すかが重要だからな。適正レベルのハンターが探し回るより、圧倒的力の差で蹂躙した方が早い。高レベルハンターが蹂躙した後から適正レベルのハンターが進んだ方が、安全なのさ」
まぁそれはわかる。
ふぅ。救助活動の意見交換で勉強できないかなって思ったけど、無理そうだ。
「そうだ、サトル。日本じゃ動物を使ったんだろう?」
「使ったと言うか、捜索隊に就職した動物たちが協力してくれたんです。まぁ仕事ですよ」
「動物愛護団体が抗議しないのか? 動物を働かせてよ」
「え? なんで反対するんですか? そもそも彼らは、仕事が欲しくて就職したんですよ?」
「え? 動物の方からそう言ったのか?」
秀さんの紹介ではあったけど、みんな野良生活じゃなく、ちゃんとした暮らしをしたいって願望があったんだ。
戦闘スキルを持っている連中は捜索隊に、そうじゃない連中は、スキルにあった部署に就職して貰っている。
「強制はしていません。アメリカでも、スキル持ちの動物自身に聞いてみたらいいんじゃないです? ちゃんと働きに応じた報酬を用意すればいいと思いますよ。あ、だからって――」
高難易度の下層に連れていくのはナシだ。
絶対、ダメ。




