120:オーランド行きつけの店。
「春はパトロール強化? なんで春なんですか、ミツイシ」
「えっと、高校を卒業するとスキルチャレンジをするためにダンジョンに入る人が多いんです。そしてスキルを手に入れた人の多くは冒険者になる。春は不慣れな冒険者が一番多い季節なんです」
捜索隊として注意すること、気をつける事、いろいろ話した。
アメリカと日本とじゃ、学校の年間スケジュールが違う。
入学式ってのはないらしいけど、それに当たる時期は九月。早い学校だと六月に卒業式で、そこから七、八月が長い休暇になるそうだ。
「でもこっちじゃ、特に決まった月がないな」
「そうね。年中って感じかしら」
「そうなんですか?」
「アメリカじゃ、ハンター資格は十六歳になってからだ。だから誕生日を迎えると、ダンジョンに入る奴が多い」
「町によっては、月一で護衛付きのダンジョンツアーなんてのもある。といっても、中に入るだけでその先には行かせないがな」
個人で中に入ると、スキルを手に入れた子が調子に乗って奥へ行き、そのまま亡くなる――なんてのも少なくはないらしい。
スキルが手に入らなくても、興味本位で奥へ行く子もいるそうだ。
「日本でもそういう奴ら、いただろ?」
「まぁ否定はしませんが、一応、監視の人がいますから」
一応、監視員がいる。公務員だ。
ただ二十四時間体制じゃないのは、お役所仕事所以だろう。
夜間は冒険者ギルドの職員が担当しているけど、交代時に一時、誰もいない時間が出来てしまうそうだ。
「こっそり中に入る人は、そういうタイミングを狙うんですよね」
「やるなら完全に二十四時間体制にしなきゃならねえんだろうなぁ」
「でも入口で監視するっていっても、その給料はどこから出るんだって話だよ」
そうなんだよなぁ。ギルドの人も言ってたけど、入場料を取る訳じゃないから、入口で入場監視するのってタダ働きみたいなものだって。
世間でも、自己判断で入っているんだからそこで死んでも自業自得だろって意見が多い。
入りたい奴は勝手にいれればいいんじゃないかって。
でもそうはいっても、いざ自分の身内がダンジョン内で行方不明になったら……。誰だって助けてくれという。
「わかるわかる。いるよなぁ、自分や身内に危険が及ばない時は大きな口を叩きやがるくせに、いざ我が身になると途端に掌返す奴」
「日本人って勤勉でマナーが良さそうなイメージだけど、あんまり変わらないのね」
「人間ですからね。あ……もうお昼ですね。今日はここまでにしましょう」
「おう。明日は捜索隊グッズの使い方を教えてくれ」
「はい、そのつもりです」
講習会は一日三時間。それも連日じゃない。
ほとんどの人はギルドの幹部の人で、そっちの仕事もあるから事前に予定を組んで講習を受けて貰っている。
明日の講習後は一週間なし。
その間に、俺もアメリカのダンジョンを体験しておこう。
「サトル、ランチに行こう。近くにいい店があるんだ」
オーランドに誘われてランチへ行くことになった。
サクラちゃんと……ブライトと……スノゥとツララとヴァイスも一緒にだ。
その時点で予想するべきだった。
普通の店じゃないってことを。
「んまぁ。ここって犬さんや猫ちゃんがいっぱい」
「鳥もいるぜ。なんだ、アレ。派手な色だなぁ」
「インコよ。知らなかったのあんた?」
「インコ? インコは知ってるだろ。あの小せぇヤツらじゃねえか」
ブライト。それはセキセイインコだ。
あれは……えぇっと。
「ブライト。あの子はベニコンゴウインコだよ。真っ赤で綺麗だろう。あ、君は白くて美しいよ」
「うぇ。お前、気持ち悪いな。そういうのは雌に言うもんだろ」
「はぁ……サトルくんといい、この人といい。ダンジョン生まれの子は、ちゃんと番を作れるのかしら」
「心配だ」
「えぇ、心配だわ」
……なんで俺までそこに名前があがるんだ。
ここはペットショップが併設された店で、ペット同伴可能。ペットの食事も可能だ。
犬猫はもちろんだけど、ちょっと珍しい類の動物までいる。レッサーパンダはいないけど。
じゃなくってタヌキ。
「ハーイ、オーランド。今日は珍しく、人間と一緒なのね」
「やぁ、コニー。日本の友人なんだ」
珍しく人間と……じゃあいつもはひとりなのか。
オーランドのお勧めメニューを注文して、運ばれて来た料理は俺とオーランド以外にもある。
なんかオシャレな肉料理だ。もちろん、生。
「ここには猛禽類や爬虫類を連れてくる人もいるからね。周りの人もあまり気にしないんだ」
「ふ、ふぅん」
「お花が添えられてるわ。かわいぃぃ」
「サクラちゃん、その花は食べられる花なんだよ」
「そうなの? でも食べないわ。もったいないもの」
そもそも動物として食べられるんだろうか?
サツマイモやリンゴは食べてるし、植物もいけるのか。
「そうだサトル。明日、講習が終わったらボクの家に来ないか?」
「え? 家って、あのビルに住んでるんじゃ?」
「あそこはホテル代わりさ。ちゃんと家がある。ここから車で一時間弱のところなんだ」
オーランドの両親は、ダンジョンで亡くなったって言ってたっけ。
「ボクの祖父が経営していた牧場でね。祖父は五年前に亡くなって、ボクは引き継いだんだ」
「おじいさんと一緒に暮らしていたのか」
「そう。今は人を雇って牧場運営している」
オーランドが経営者!?
オーランドは普段、来店時はぼっち。