119:日本とアメリカのダンジョン事情
「言い忘れていたが、お前らちゃんと夜まで起きてただろうな? 変な時間に寝ると、時差ぼけになるからな」
「大丈夫よ、社長さん。だって昨日は長い一日だったんだもの」
そう。長かった。
忘れていたんだ。日本とアメリカとでは時差があるってことを。
その時差と飛行機に乗っていた時間がほぼ同じ。
日本を十時頃に出発して、アメリカに到着したのは十三時間後。そして時差も十三時間。
空港に到着したのが、日本時間の夜十一時ぐらいだけど、アメリカ時間では午前十時。
まるで時間が巻き戻ったような感じだ。
時差に気づいたのは夕飯の時。ロバートさんに言われてからだ。
だから俺たちは、なんか眠いなと思いながらも「まだ昼だし」と寝なかった。
まぁ今となってはそのおかげで、アメリカでの夜をぐっすり眠ることが出来たのだけれど。
「ところで今日は登録者と顔合わせだけですか?」
「いや、捜索隊が日頃どんな仕事をしているのか、熱く語って聞かせてやってくれ」
……熱く。
「三石くん。熱く語る必要はないが、基本的なことは教えてやって欲しい。新人教育と同じだ」
「やっぱり熱く語らなくていいんですね」
金森さんはまともでよかった。隣で社長が不貞腐れているけど。
朝食のあと、さっそくエディ氏と一緒に会議室へと向かった。
「会議室まであるんですか、このビル。全フロア、ギルドの所有なんですか?」
「ハッハ。まさか。半分は別会社が入ってんだ。俺らはこのビルの上層を使っている」
「上の半分って、ダンジョンに行き来するのに不便じゃないです?」
「あ? そうか? まぁヘリでの移動が多いから、上の方がむしろいいんだけどな」
……ヘリ。
なんてブルジョア出勤なんだ。
「じゃあ、こっちのダンジョン前って、ヘリポートが?」
「あぁ。あるぜ」
「日本のダンジョン前は狭かったな。駐車場しかなかったし」
とオーランドも言う。
日本では、生成に巻き込まれて消えた土地がそのまま残っているわけじゃない。
直径数百メートルの土地がなくなってしまうけれど、ダンジョンを囲う壁は入口から半径百メートルという規定がある。
車や自転車、バイクを停めるなら十分だし、小さなプレハブ小屋も置ける。
さすがにヘリポートは無理だなぁ。
オーランドが狭いというぐらいだ。アメリカはもっと広々取っているのかな?
「じゃあ、どの階層にいるのかわからない連中を探すために、各階層に登録可能端末を設置しているっていうのか」
「そうです。冒険者カードをかざすだけで、端末に登録されます。それが通過した証拠になるので」
要救助者が何階層にいるのか。それを調べることで救助スピードを速めるという説明をしたとき、ハンターたちは驚いていた。
「アメリカにはそういった端末がないんですか?」
「ない」
「転送装置はある。各階にな」
「へぇ。日本だと五の倍数階にしかありません。あ、でも今後は各階に設置していくようですが」
そして驚いたのは、転送装置の使用料だ。
物価が違うとはいえ、日本だと一回使うのに二千五百円だけどこっちだと日本円にして約一万三千円だ。高い。
「でもアメリカじゃ端末がないんだし、どうするんだ……」
「あ、待ってください。えっと――」
朝食の前に、金森さんが資料を渡してくれてある。
ざっと読んだけど、端末設置のことが書かれていたはずだ。
あった。
「ATORA社の方で、今月から順次、端末の設置を行うそうです。これに関して――えっと、エディさん」
「おぅ。端末の設置にはATORA社のアメリカ支社から技術部員が来てくれる。だが彼らはスキルを持たない一般人だ。協力ギルドの方で、護衛のハンターを出して欲しい」
「端末は階段付近に立てるんだろう? 転送装置でササっと行ってササっと終わるんじゃないのか?」
「サトル、説明書いてあるか?」
「あ、はい。えっとですね――」
設置して、稼働させるためのパワー充電器と接続して、動くかどうか確認して、起動読み込みが始まって……一台につき三十分ぐらいは最低でも必要なようだ。
スキルを持たない一般の人がダンジョンで三十分も無事でいられるかどうか。
そう話すと――。
「無理だな」
「まぁ一、二階なら平気だろ」
「それ以下だと死ぬな」
「百階とかにも設置するんだろ? 高ランクハンターじゃないと、護衛もきついだろうな」
という反応が。
ただ、アメリカじゃ各階層に転送装置があるってことだし、設置に行くのは楽かもしれない。
おんぶに抱っこで運んで貰えるから。
「それとみなさん……これは全ハンター対象ですが、端末にアクセスするために専用のカードを作ってください。それらの作業は今後指示があると思います」
「ハンターカードじゃダメなのか?」
「エディさん、ハンターカードってどんな機能があるんですか?」
「ん? クレジットカード機能」
……え。それだけ?
「それだけだ」
「そ、そうなんですか……えっと……あ、資料にはハンターカードと統一するって書かれています。でも完全に作り直すみたいですね。そのクレジット機能と端末にアクセスする機能を併せ持つ、新しいカードに」
「となると、ハンターが一斉に再発行に来るのか。大混雑だな」
「まぁそこは地区ごとにやるようですよ。端末の設置が終わったダンジョン周辺から、という具合に」
でもまぁ、それでも大混雑するんだろうな。