118:かみ合わない。
「あぁ、オーランドか。あいつは最近、おかしいんだ」
「いやいや、違うってトム。おかしいんじゃなくって、人間っぽくなっただけさ」
ハンターギルド『ブラッディ・ウォー』の本部ビルは、捜索隊の本部ビルより大きかった。
いや、うちは企業のビルだぞ? ここはギルドだぞ?
なんでうちより大きいんだよ。
そこのギルドマスタールームに案内され、ちょっとオーランドのことが気になって尋ねてみた。
「オーランドはな、日本から戻って来て人助けをするようになったのさ」
「人助け?」
「そう。おかしいだろ?」
副ギルドマスターのエディ氏は「人間っぽくなった」と言い、マスターのトム氏は「おかしくなった」と言う。
「アメリカにはご存じの通り、捜索隊のような救助を目的とした会社組織はない。なんだったったら、遭難するのも死ぬのも実力不足が招いたことだと言って探したりもしない」
「といってもな、身内や顔見知りが救助に向かったりはするんだ」
「それをだ。オーランドの奴はダンジョンで危なそうな奴を見かけると、助けにいくようになったんだ。おかしいだろ?」
「いや、おかしくないですよ。いいことじゃないですか。それと顔を赤らめることに、何の関係が?」
「人を助けると、お礼を言われるんだ」
まぁ大抵の人はそうだ。助けられたらお礼を言う。
最近、例外案件があったけれど。
「あいつは、人からお礼を言われることに慣れていないんだ。けど、あいつなりにお礼を言われて嬉しいみたいなのさ」
「あら、それで顔を赤くして照れてるの? やだ、かわいいじゃない」
「けど真顔で顔だけ赤くしてやがったな」
「あれ? ブライト、お前、オーランドに連れられて部屋に行ったんじゃ?」
「あ? あいつの傍にいるとな、吸いやがるんだ!」
ブライト吸いか。そういや前に日本に来た時もやってたな。
「まぁ今日のところはゆっくり休んでくれ。明日、捜索隊支部に登録してるメンバーを紹介する」
「じゃあ三石たちは自由行動だ。俺は仕事の話があるから、これでな」
「あ、はい。お疲れ様です、社長」
到着して早々、仕事か。大変だな、社長。
いや、金森さん……。
仕事の話だとかいいながら、社長、思いっきり欠伸してるし。
社長と金森さんは、三日だけニューヨークに滞在する。その間に捜索隊以外の仕事の打ち合わせなんかもあるらしい。
飛行機の中でも爆睡してたけど、やっぱり忙しい人なんだな。
「なぁ、サクラちゃん」
「なぁ~に~」
「なんか今日ってさ、やけに一日が長いと思わない?」
「そっ。そうなのよ! 私もそれ思ってた! いつになったら夕方になるの? もしかして飛行機の中で一日過ぎてたんじゃない?」
出発したのは午前十時頃。
半日以上かけてニューヨークに到着したのに、ここでは太陽が出ていて、窓から下を覗いけば多くの人が生き返っている。
もしかしてこれは――白夜!?
「サクラちゃん、知ってる?」
「何を?」
「外国ではね、一日中ずっと太陽が出ている時期があるんだって」
「そうなの!? じゃあこれがそう?」
アメリカに白夜なんてあったっけ?
「じゃあこれから何日もずーっとお昼が続くのね……こんなに明るくっちゃ、眠れないわ。ね、オーランド」
ここは俺たち用に用意された部屋で、部屋と言うかもうマンションだ。
リビングに寝室は三つ。ジャグジー付きのバスルームもあった。
そのリビングのソファーに深く腰を掛け、向こうでツララたちと遊ぶオーランドに声をかける。
「ここの窓、カーテンはないようだけど。どうやって部屋を暗くするの?」
「あー、リモコンを操作すれば――」
オーランドがやってきてカウンターテーブルの上に置かれたリモコンのスイッチをつけた。
え、それエアコンのヤツだと思ってたけど、違ったのか?
彼がリモコンを操作した後、ウィーンっという音が窓から聞こえて来た。
お、おおおぉ。
なんかブラインドみたいなのが自動で下りてくる!
おぉ、おおぉぉ、お……。
「おいオーランド。真っ暗になったじゃないかっ」
「え、暗くしたかったんじゃ?」
「そうじゃない。サクラちゃんはどうやって暗くするのか聞いただけだって」
「そうよ。聞いただけよ。でもこのぐらいなら真っ暗じゃないわよ、悟くん」
「え、暗いよ。スマホ、スマホっと。うわあぁっ」
スマホの画面を点けて明かりの代わりにしようとしたら、ギラリと光る点がひとつふたつみっつよっつ……。
あ、これ……サクラちゃんたちの目が反射で光ってるのか。
「いいからブラインド開けろって、オーランド」
「はいはい。そうだ。今夜のディナーはどうする?」
「ディナー?」
ディナーって、晩御飯のことだよな。
「晩御飯って、さっき食べたじゃん。ハンバーガー」
サクラちゃんやブライト一家は、ここへ到着してすぐに食べた。
「え? 何を言っているんだ、サトル。さっきのはランチだぞ」
「オーランドの方こそ何を言っているんだ。どう考えても晩御飯だろ」
「は?」
「え?」
「ランチでもディナーでもなんでもいいわ。食べられるならなんだって一緒よ」
と、サクラちゃんが言う。
それを聞いて俺とオーランドが顔を見合わせ「「それもそうか」」と納得した。