117:自家用ジェット、飽きた。
まるでスイートルームのような飛行機の旅も、わくわくしたのは最初の数十分。
半日も乗ってると飽きる。
もうずーっと映画見てるしかやることがなくって……。
空港に着陸したときは、みんなで喜んだ。
その空港で――。
「Hi!」
「え? オーランド!?」
まさか迎えに来てくれたのか?
ま、まぁ、俺たち一応、友達? だし?
「オーランド」
「サクラちゃんブライト、スノゥ、ツララちゃんヴァイスくん。ようこそニューヨークへ!」
……俺たち、友達だったよな?
なんで俺の名前だけ呼ばないんだよ。
「あ、社長もようこそ」
「俺はついでか」
「ついでのついでに秘書の方もようこそ」
「日本語を悪い意味で使いこなしていますね」
だから俺は!?
「やぁやぁ、どうも。私、ロバートです。ニホンゴ少しいけます」
「あ、お気遣いなく。翻訳機がありますので。みなさん、これを装着してください。イヤホンタイプの翻訳機です」
ATORAで販売している翻訳機らしい。
イヤホンのスイッチを押しながら話すと、話した後に指定した言語で翻訳したものが音声で流れる。聞き取るときは特に何もせず、近くで聞こえた会話を自動翻訳して骨伝導イヤホンで流してくれるって代物だ。
今回、サクラちゃんやブライト、二羽の雛用のも作られている。スノゥはスキルであっという間に英語をマスターしたから必要ない。
「では、ブラッディ・ウォーの本部ビルへご案内します」
「サクラちゃんやブライト一家用の、専用スペースも用意してあるよ」
「まぁ、そうなの? なんだか申し訳ないわ」
「息子と娘には指一本触れさせねぇからな!」
「あなた。そこまで警戒しなくても大丈夫よ。何かあれば私がアイス・フィールドでマイナス40℃にするから」
サラっと怖いことを言う。でも夏場は彼女のアイス・フィールドのおかげで、電気代が節約出来たって母さん言ってたな。
アイス・フィールドの温度調整は可能で、簡単に言うと現在の気温より低く出来る――ものらしい。
まぁブライトたちは寒い場所に生息するシロフクロウだから、俺たち人間が「肌寒い」と感じるぐらいでちょうどいいって言うしな。
スノゥのスキルがなければ、屋根裏部屋はガンガンにクーラーを利かせないと辛かっただろう。
って、オーランドが俺のことには何も触れないまま、車まで来たんだけど!?
おい、オーランド!
「あ、サトルもついでのついでのついでにようこそ」
……ワザと!?
そして車と言ったが、実際にはバスだ。
いや、中身はバスとは思えないほど豪華な造りになっている。
まさかプライベートバス!?
ここにもソファーがあるぞ、おい!
「飛行機での旅は長かっただろう。お腹すいてないかい? ネズミ食べる?」
「チュチュ! チュチュ食べるぅ~」
「食ってやってもいいぞ!」
「もう解凍もしてあるんだよ。スノゥとブライトはどう?」
「ありがとう、オーランドさん。でも私はいいわ」
「僕も今回は遠慮するよ。飛行機の旅が退屈で、お腹も空いていないんだ」
……俺はお腹空いた。十三時間近くも、絶食だったからな。
「オーランドくん。わるいがテイクアウトが出来る店に寄ってくれないか。我々も空腹でね」
「雛がおやつを食べれないのに、我々大人が食べるわけにもいかず、全員、何も食べていないのです」
そう。社長と金森さんも食べていない。水分補給だけだ。
「OK。マクドでいいかい?」
「OKだ。アメリカのマックは飲み物のサイズがバカでかいからね。三石、気をつけるんだぞ。迂闊にLサイズなんて頼むと、大変なことになるからな」
あぁ、なんかそんな話聞いたなぁ。
「サトル、心配しなくていい。ビックマックは日本のものと同じサイズだ」
何故かオーランドが真顔でそう言う。
「こんな大きいのを予想しただろう? さすがにそんなバカデカいバーガーなんて、売ってるはずないだろう」
「いや何も言ってないし。そもそも五十センチのハンバーガーとか、誰も想像しないから」
「……え、なんで? 日本人って、アメリカのバーガーを巨大って思っているんじゃないのか?」
むしろなんで日本人がそんな風に思っていると、思った!?
ジュースのサイズだけだから!
「はぁ……ボクが思ってた日本人と違う」
「違ってて悪かったな」
そしてバスは本場のマックへと向かう。
そういえば……バスでドライブスルーって、ありなのか?
注文口も受け取り口も、バスだと邪魔なんじゃ?
そう思っていたら……。
「モバイルオーダだ、サトル。何食べる? ビックマック?」
「アメリカのマックには、ビックマックしかないのか?」
「はっはっは。面白いことをいうな。そんなわけないだろう」
スマホでオーダーし、マックに到着したらロバートさんが注文した商品を受け取りに行く。
あれ?
支払いは?
「オーランド、お金は?」
「ボクのおごりだ」
「そ、そうなのか。えっと、ありがとう」
そう言うと、何故かオーランドは顔を赤らめた。