116:おやつは300円まで。
「えっちょ、えっちょ」
「おやつは三百円までだぞ!」
「さんびゃくえーん」
どこでおぼえたんだ、おやつは三百円までって。
ツララとヴァイスがごねた結果、スノゥ含めて一家も一緒に行くことになった。
まぁニューヨークに行っても、ダンジョンに入る時にはいつも通り留守番なんだけどさ。
父さんと母さんは、急に家が静かになるから寂しいと言ったが、ツララたちに「初旅行ね」と言い、旅行を知らない二羽に意味を教えると、ツララもヴァイスもうきうきで旅行の準備をしている。
母さんが二羽用に作ってくれた小さな鞄に、お気に入りのハンドタオルや手作り枕を入れては出し、また入れては出す。その繰り返しだ。
間違っても「おやつ」は入れていない。
フクロウは完全な肉食で、食べるのは肉のみ。
獣医さんのお勧めで冷凍うずらやヒヨコ、あとマウスだったりする。
そんなものを鞄に入れて持って行けるわけがない。空港で止められてしまう。
だから飛行機の中ではご飯を我慢してもらうしかない。
まぁ今でも一日二回の食事で足りているし、獣医さんの話だとそろそろ一日一回の食事でもいいって話だ。
家を出発するまでにしっかり食べてもらえば、アメリカまでもつだろう。
そのために、今日は夕食を少なめにする。
「ツララちゃん、ヴァイスちゃん。今日は早寝するのよ」
「はーい。お荷物入れたら寝るのー」
「寝るぞーっ」
ツララたちが鞄に入れたハンディタオルは、後で取り出して綺麗に畳んでやらないとな。
荷造りはサクラちゃんもやっている。こちらはちゃんと服を着ているし、着替えが必要だ。
サクラちゃんは干し芋をおやつに持って行くが、機内では食べないと言っている。
「だってツララちゃんたちが食べれないのに、お姉さんの私が食べるなんておかしいでしょ?」
「その理屈だと、俺も機内でおやつを食べちゃダメってことか」
「当たり前じゃない! 一番お兄さんなんだから、ダメに決まってるでしょっ」
怒られた。
普段より早くベッドに入り、目を閉じる。
アメリカかぁ。
ハワイとグアム、オーストラリアなら家族旅行で行ったことがある。でもアメリカ本土は一度も行ってない。
ニューヨークって、物価が物凄く高いって聞くしなぁ。
でも持って行ける現金には上限があるし。節約生活しないとなぁ。
「キャッシュレス決済にすればいいじゃない。私はアメリカでも使えるキャッシュレスのアプリ入れたわよ」
「い、いつの間に……」
「僕も入れたぞ」
「私も入れました」
「いれたー」
「お前はスマホ持ってないだろ」
え……サクラちゃんもブライトもスノゥも、キャッシュレスに対応しているのか。
もしかして俺だけ現金派?
「悟、お前一ヶ月以上滞在するかもしれないのに、現金だけでどうにかしようと思ったのか?」
「無理に決まってるじゃない。もう、出発当日になってそんなことぉ」
「おばさま、大丈夫よ。悟くんのお金の世話は私がするわ」
「ごめんなさいねぇ、サクラちゃん。もうぽやぁっとしてるんだから、悟はぁ」
ぽやぁって……。
はぁ。でも早いうちにアプリとか入れておくんだった。今からやっても大丈夫かな?
母さんの車で空港に向かう間にネットで調べてみたけど、面倒くさくなってしまった。
アメリカにいる間は、サクラちゃんに養ってもらおう。はぁ……。
空港に到着したら、専用ゲートへと向かう。
普通の飛行機に乗るのなら、周辺の乗客に配慮してケージに入れなければいけない。貨物室じゃないだけマシなんだろうけど。
だけど今日乗るのは――。
「来たな三石。荷物は彼らに預けてくれ」
「お、おはようございます、社長」
「おはようございまーす、安虎社長さん」
「ひっこーき! ひっこーき!」
「ツララ、こいつは飛行機じゃねーぞ」
社長のプライベートジェットでアメリカに渡る。
それを知ったのは今朝だ。急に電話でそんなこと言うから驚いてしまって……。
空港でチケットを渡すと聞いていたのに、まさか専用機だとは。
「言ってなかったか?」
「聞いてませんよ」
「そうか。俺の飛行機でアメリカに行くぞ。ほら、言っただろ」
あー、うん。今言ったね。
「だからわたしが三石くんに伝えるって、あれほど言っただろ。自分が伝えるって聞かないからこんなことになるんだ」
「金森さん、いつも大変ねぇ」
「あぁー、ほら。サクラにまで同情されてる。あー、わたしかわいそうっ」
そう言いながらも、金森さんは俺たちを飛行機へと案内してくれる。
ゲート前でパスポートのチェックを受け、それから飛行機内へ。
え……ソファーがある。テーブルも。
「悟くん、見て! この飛行機、ベッドがあるわ!!」
「え? どこっ。うわぁ、本当だ」
「椅子がたくちゃんのお家みたーい」
「これが飛行機? おっちゃんの話と違うぞっ」
ツララとヴァイスは、父さんに飛行機のことを聞いたようだ。
俺もこんな飛行機、知らない。
こ、これが金持ちのプライベートジェットなのか。