114:日本語って難しい。
「いやいや、唐揚げは鶏肉じゃないか。ブライトのことじゃないって」
「だから鳥肉なんだろ? 僕だって鳥さ」
「いや、鳥じゃないんだって」
なんでわからないかなぁ。
帰宅途中、会社で鳥たちが騒いでいた理由をブライトに聞いたら「僕らを唐揚げにしたいのか!?」と、涙目で言われた。
なんでブライトたちを唐揚げにするんだよ。
たぶん美味しくないぞ。
「もうあなたたち、さっきからとりとりって。鶏肉食べたくなるじゃないっ」
「サ、サクラ、おめぇまで!? なんて野郎だ!」
「うるさいわねっ。だいたいあんたたち、会話が微妙にズレてるのよ! 悟くんの言ってる鶏肉は、鶏のことでしょ!」
「だからそう言ってるんだよ、俺は」
「に、にわとり!? いやいや、悟はずっと『とり』って言ってたじゃないか」
鶏はとりにくって言うだろ。
「なんだ、にわとりかよ……はぁよかった」
どこで誤解されていたんだ……あ、家が見えて来た。
帰宅して部屋に荷物を置いてリビングへ。
うぅん。香ばしいニオイだ。
「ただいま。唐揚げ、間に合ったんだね」
「みんなおかえり。スーパーまで直ぐだもの」
家からスーパーまで、車で七分ぐらいだもんな。いい立地だ。
「サクラちゃんとブライトたちにも鶏肉買ってきたから、みんなで食べましょうね――って、どうしたの、ブライト」
「あぁ、鶏肉のことを、鶏じゃなくって鳥だと勘違いしてたんだよ」
「まぁ!」
「ははは、そりゃ発音は同じだからなぁ」
「あ、父さん。ただいま」
「あぁ、おかえり」
車椅子に乗った父さんの膝の上には、ツララとヴァイスが。肩にはスノゥがいる。
ブライトとスノゥは、家の中ではなるべく飛ばないようにしていた。
理由を聞くと、飛ぶ時に羽根が落ちてしまうからだって。あと埃も舞う。
気を使ってくれているんだな。
「なぁ悟。上野のダンジョン内の建物って、そっくりそのまま残っているのか?」
「ん? どうだろう。元の建物のことがよくわからないから」
「でもそのままだと思うわ。救助の時フロアガイドの地図貰ってたけど、その通りに移動しても迷わなかったじゃない」
「けどさ、間にダンジョンが割り込んでたとことかもあったよな」
「そうね。ショッピングモールにダンジョンが割り込んでたけど、面積は少なかったじゃない」
父さんは彼らの話を聞きながら、何か考えているようだった。
建築家として気になったのかな?
「さ、ダンジョンの話はここまで。ご飯にしましょう」
「わぁーい。ごっはん♪ ごっはん♪」
「ごっはん♪ ごっはん♪」
「飯だ飯ー」
「ははは。ツララはサクラちゃんの物まねが上手だねぇ。ヴァイルは誰の影響かな? 貫禄のある男の子になるだろうなぁ」
「えへへ~」
父さんの膝の上でヒョコヒョコと踊っていたツララは、撫でられてご満悦だ。
それを見てヴァイスが、どことなく父さんにすり寄っているように見える。もしかして自分も撫でて欲しいってことなのか?
ヴァイスって……甘えん坊だった?
「そうそう。お父さんがね、みんなのためにテーブルを作ってくれたのよ」
「え、父さんが? っていうかブライトたちのテーブル?」
「あぁ。犬や猫もな、床に置いたご飯を食べると胃を圧迫してなのか、吐き戻ししやすいってネットにあったんだ。だったら他の動物もそうかなと思ってな」
食器の位置を少し高くしてやるといいらしい――というのもネットで見たらしく、それでブライトたちように食卓となるテーブルを作ったと。
まぁ五、六十センチほどの、小さな長方形のテーブルだ。足の高さも二十センチほどしかない。
なんとみんなの分の椅子まである。サクラちゃんの椅子には背もたれもあって、小さな子供でも使えそうだ。
犬猫も食器の高さは高い方がいいのか……。
「ね、父さん。そのテーブルさ、たくさん作れないかな?」
「あっ。本部住みの子たち用ね!」
「うん。食器は捜索隊の経費で買ってあるけどさ、テーブルがあるとみんな食べやすいかもと思って」
「アニマル隊かぁ。よし、父さんに任せろ。必要な数を用意してやろう。端材がいろいろあるからな、材料費はタダで作れるし」
職場で余った資材だからタダで使えるんだろうけど、普通はお金取られるんだろうな。
「ほぉら、お話してないでご飯でしょ」
「おっと、そうだった。母さんに怒られるまでに夕食にしよう」
俺たち三人はダイニングテーブルで。サクラちゃんとブライト一家は横に置かれた小さなテーブルへと着席に、みんなでいただきますをした。
夕食後、風呂にも入ってベッドで寛いでいるとスマホが鳴った。
「Hi、サトル。東京に四つ目のダンジョンはどうだ?」
「オーランド? どうと聞かれても、冒険者じゃないから探索はしてないし」
「What`s!?」
「オートマッピングのスキルで、上層階から順番に地図の作成をしているんだよ。冒険者が迷わないように」
「ナルヘソ」
ナ、ナルヘソ?
また変な日本語を覚えたなぁ。
「悟、実は昨日、ニューヨークにもダンジョンが生成されたんだ」
「え!? ニューヨークにも!?」
しかも昨日って……いや待て。なんか向こうの方で唸り声が聞こえてんだけど。
「オーランド、お前、今ダンジョン内か?」
「YES! 今、生成に巻き込まれた人の救出作戦中なんだ」
「きゅ、救出作戦って……電話なんかしてる場合じゃないだろうっ」
「大丈夫。ボクは休憩中だから。それよりさ、君たちはどうやってスタンピードの早期鎮圧を成功させたんだい?」
オーランドのその言葉で、ニューヨークで新しく生成されたダンジョンでも、スタンピードが起きていることがわかった。