110:見えてきた終わり。
スタンピードのボスを倒して四時間経過。
ようやく……ようやく終わりが見えて来た。
終わりといっても、実際にはモンスターがゼロになることはない。
ダンジョン内は常に一定の数が生息している。それ以下になれば必ずどこかに湧いてくるからだ。
「じゃあどうやってスタンピードが終わったって、判断するの?」
「階段だよ」
「階段?」
食事休憩のため、乱戦地帯から少し離れた場所へと来ていた。
「平常時には、モンスターって階段を上ってこないだろ?」
「えぇ、そうね。上って……あっ」
階段を上ろうとするモンスターがいなくなれば、スタンピードは終了だ。
だから今は、階段のところをわざと空けてある。
「ふぃ~。やぁっと一息付けるぜ」
「お疲れ、ブライト。ツララたちは?」
「子供たちはショッピングモールだぜ。さっき無線で聞いた。ぐっすりおねんねさ」
ボスの登場が早かった――といっても、なんだかんだと二十時間以上は経ってるからなぁ。みんな疲れてるし、眠くもなるさ。
まだまだ赤ちゃんといってもいい月齢なのに、ツララもヴァイスもよく頑張ってくれたもんだ。
「さぁ。あともうひと踏ん張りだ。頑張ろ――」
「あー、いたいた。サクラちゃん、だったわよね。ジェネラルスケルトンと戦ってたの」
そう言って女性の冒険者がやってきた。
「えぇ、そうです」
「スキルの覚醒した自覚は?」
「あるわっ。きっと何かあるの!」
「んなっ。サクラお前ぇ、ズルいじゃねえか!」
「だってあんた、他の鳥さんたちと別の場所で雑魚処理してたじゃない」
「はいはい。ここで口喧嘩しないで。それでね、私、鑑定スキルを持ってるの。だから何のスキルを手に入れたのか見れるのよ」
なんだって!?
鑑定スキルはレアな部類なんだけど、スキル持ちがここにいたのか。
ただ鑑定スキルで分かるのは、スキル名だけ。
スキルの中にはパっと見だと、なんのスキルなのかわからないものもある。冒険者ギルドで装置を使って調べるやつは、その効果や発動条件も調べることが出来る。
まぁ名前だけで内容がわかるものもあるから、鑑定してもらって損はない。
「あの、俺もスキル覚醒したんですけど、一緒に鑑定してもらっていいですか?」
「もちろん。じゃ、ひとりずついくわね。まずはサクラちゃん」
「ドキドキしちゃう~」
「んー…………。あ、このスキルは知ってるわ。スキルは『見えざる鎧』。防御系のスキルで、全身を包み込む目に見えない魔法の鎧を付与するものよ。一定ダメージを無効化するの」
「凄い。いいスキルじゃないかサクラちゃん」
ヘイト取って敵を魅了し、ダメージ無効まで。小さな体で最前線に立てるスキルだぞ。
けど……サクラちゃんはどこか浮かない顔だ。
「あの……このスキルって、本人限定のものよね?」
「えぇ、最初はね」
「え、最初?」
「スキルレベルが上がっていくと、任意の相手にも付与できるようになるわ。私の知り合いがこのスキルを持っててね。彼、今じゃ十人ぐらいまで付与出来るの。彼の話だと――」
どうやら最大で十人なんじゃないかって話をしているようだ。
というのも、使い始めて数日で自分以外の人にも付与出来るようになり、三ヶ月ほどでその人数は十人になったと。
「でも彼、冒険者になって七年なのよね。そのスキルを手に入れたのは二年前なんだけど、それからもう付与対象は増えてないって」
「そうなのね! 十人……もっと多かったらいいのに」
「何言っているんだサクラちゃん。十人って凄い人数だぞ。確かにこの現場を見てると少なく感じるだろうけど、普段は四人から六人のパーティーが多いんだ。十分な人数だよ」
「そ、そうね。贅沢言っちゃダメよね。私……攻撃は出来ないけど、みんなを守る事は出来るのね!」
「あぁ。それに攻撃だってさ、開発部が作ってくれたものがあるじゃないか」
ヘイト管理して魅了して、みんなを守って。
先頭に立ち、ファイア・ロッドで攻撃する。
最強布陣じゃないか。
浮かない顔をしていたのは、誰かの役には立てない――そう思ったからだったのか。
「あっ。悟くん、悟くんのスキルは?」
「はいはい、今から見るわ――――えっと、これは知らないスキルだわ。『ストーン・ウェーブ』。名前からだと、岩を波のように?」
「やっぱりそんな感じか。あ、実際に使ったんで、スキルの効果自体はなんとなくですがわかっているんです」
「そうですか。でも後日、ちゃんとギルドで鑑定してくださいね。はぁ~、まさか十八人もスキル覚醒したなんて……羨ましい。私もジェネラルに触っとくんだった」
じゅ、十八人も……。
「このスタンピード自体、発生理由が変だし、何か他と違ったのかしら。まぁスタンピード中は確率アップって話は聞くから、それかもしれないけど」
「あ、そうなんですか」
「あくまで噂レベルだけど、ここまでスキル覚醒した人が多いと、その噂も信じちゃうわよね」
「でもだからってスタンピードを故意に引き起こすわけにもいきませんしね」
「あったりまえよ! 今回はスタンピードでの犠牲者が出なかったけど、本来なら――。たぶん発生源が上層階だったからでしょうね」
もし下層の方から始まっていたら、高レベルのモンスターが上がって来ていたはずだ。
そうなれば甚大な被害が出ていたに違いない。
幸運だったんだ。今回のは。
スキルの名前がわかったところで、俺の方はやることは同じだ。
拳を地面に打ち付けて、範囲攻撃の練習にいそしむ。
扇型や、俺を中心に波紋のように広がる形にしたりと、いろいろ試してみた。
結果――直線や扇型に広がるヤツが使いやすいことが判明。
そもそも俺ひとりが囲まれる状況がないしなぁ。
大ジャンプしてモンスターの真っただ中に飛び込まない限り……。
「ふんぬぅーっ」
「サ、サクラちゃん。何しているんだい?」
「スキルを使ってるのぉ。どうやったら発動するのかしら」
「あー……スキルってさ、イメージが大事じゃないか。あと気持ちとか」
「気持ち?」
んー、防御系スキルだからなぁ。
「守りたいっていう気持ちとかさ」
「守りたい……やってみるわ! んんーっ」
あ、サクラちゃんが光った。出来てる出来て――ん?
なんで俺も光っているんだ?
「はぁ、やっぱり無理みたいぃ。ギルドで詳しく鑑定してもらわなきゃダメね」
「……いや、たぶん成功してるよ」
「え? そうな……悟くん、うっすら光ってるわ。どうしたの?」
俺が光っている――というより、光の膜につつまれている感じだ。
これ、サクラちゃんの『見えざる鎧』じゃないかな?