108:サクラちゃん視点。
――格闘系スキル持ちたちがサソリを囲み始めた頃。
「富田さん、これ使って!」
「こ、これ? どうやって使うんだいサクラちゃんっ」
「ファイア・ボールって唱えながら振るの! 火の球は杖を振った向きに飛んでいくから気をつけなさいっ」
ファイア・ロッドは彼に手渡した。
彼は戦闘系スキルを持っていないから、彼に持たせるのが一番だと思って。
私は富田さんの頭の上から魅了でモンスターの動きを止めることに徹する。役割分担ってやつね。
「えっ、やだ何あれ!?」
「ど、どうしたのサクラちゃん!?」
「すぐそこに骨が湧いたのっ」
「ほ、骨?」
「そう、骨よ! スケルトンってモンスターよ! しかも腕が六本もある。凄いわぁ、絡まないのかしら」
六本の腕は盾が二つ、残りは剣を握ってる。あんなの動かしてたら、私ならぜーたい絡まっちゃうわよ。
それにしてもあのスケルトン、なんだか大きいわね。大柄な青山さんよりもっと大きい。
あのお髭のおじさん、名前忘れちゃったけど、光る紐の――あ、あのおじさんよっ。こっちに来てたのね。
献身だったかしら、あのスキルのおじさん。あの人も大きいものねぇ。でもスケルトンはあのおじさんよりも少し背が高かった。
「マズい。あれってネームドなんじゃ?」
「え、そうなの!?」
「い、いやわからないけど。でも普通のスケルトンと全然違うだろ? そういうのって、ネームドモンスターの特徴じゃなかったっけ?」
「い、言われてみたら……キャーッ。こっち来てるわっ。と、富田さんっ」
「うわあぁぁぁ――痛っ……くない?」
振り下ろされた剣のさきっぽが、富田さんの腕を掠めた――ハズなんだけど、無事?
あ、光の紐! 私にもくっついてる!
「大丈夫か」
「おじさん、助けてくれたのね。でもおじさんの方は大丈夫なの?」
あ、ポーションたっくさん持ってるんだったわ。おじさんにかけてあげなきゃ。
「あぁ、これぐらいは大丈夫だ。しかしまさかネームドモンスターまで出ているとは」
「やっぱりあれ、ネームドモンスターですよね?」
「あぁ。あれはジェネラ……ジェネラルスケルトンだ」
ポーション一本で大丈夫かしら。おじさんの頭からどばどばーってかけてみたけど。
「サ、サクラちゃん!? な、なんでこの人にポーションをぶっかけてるんだ?」
「このおじさんはね、献身ってスキルを使うのよ。ほら富田さん、あなたの腕に光る糸が絡まってるでしょ?」
「え? あ、本当だ。献身ってもしかして、他人の怪我を身代わりになって受けるって自己犠牲スキルですか?」
「あぁ。継続回復のスキルもあるが、間に合わない時はポーションを掛けてもらう必要もある。おい、ジェネラルスケルトンだ! 応援を頼むっ」
んまっ。おじさんの声、凄く響くわね。
おじさんの声を聞いて何人かが応援に駆け付けてくれたわっ。
みんなでかかれば、骨なんて!
「富田さん、右よ! ゴブリンだわっ」
「ファイア・ボール! ファイア・ボール!!」
「私たちはヨワヨワコンビよ。ネームドなんて倒せっこないから、せめてみんなの邪魔をする雑魚を倒すの! こっちみなさいっ」
私がチャームで動きを止める。
「ファイア・ボール! ファイア・ボール!!」
富田さんが杖の力を使ってゴブリンを倒す。
私も何か……アイテムボックスにないかしら。トレントの杖以外に、もう少し範囲の狭いものが。
でも私の手じゃ、細いものか小さいものしか持てないわ。
あぁ……どうして私には攻撃出来るスキルがないのかしら。
もどかしいわ。
「くっそ。骨の癖にっ」
「六本の腕で同時に攻撃してくるから、なかなか決定打を入れられないっ」
「腕を切り落とせ! それが無理なら武器を叩き落とすんだっ」
あっ。これだわ!
サクランボサイズのビリビリ弾!
「これでも喰らいなさい! えいっ」
ビリビリ弾でジェネラルスケルトンを痺れさせれば、武器を落とすはず!
落とす――あ、ら?
「サクラちゃんっ。電撃系はスケルトンには利かないっ」
「え? そ、そうなの富田さん?」
「だって骨だから! 焦がすほど強力な電撃ならいいけど、ビリっとする程度じゃ利かないんだよ!」
そんなっ。
あっ。でもビックリしたのかしら、ジェネラルスケルトンが後ずさりして――!
「キャーッ。悟くん!」
ジェネラルスケルトンが、悟くんの方に!?
「ん? サクラちゃ――邪魔っ」
ええぇー!?
パ、パンチ一発でジェネラルスケルトンを、ただの骨にしちゃった……。
で、でも武器をいっぱい持ってたし怪我してるかも。
「悟くん、大丈夫だった?」
「サクラちゃん。大丈夫って、何が?」
はぁ。大丈夫そうね。
「三石さん。さっきのスケルトン、あれユニークモンスターですよっ。腕が六本あったでしょ!?」
「え……そう、だっけ?」
見てなかったの!?
まったくもうっ。抜けてるんだから――ん?
「あら……なにかしら、これ」
「サクラちゃん、何か落ちてた?」
「ううん。そうじゃなくって……えっと、これって、ダンジョン生成に巻き込まれた時みたいな……」
「おい悟! もう一回やるぞっ」
「あ、はい! 富田さん、少し下がっててください。危ないですから」
「わ、わかりました」
そう。これって――。
「サクラちゃん、俺……もしかするとスキルを――」
「富田さんも!? 私もよっ。私も初めてスキルを獲得した時みたいに、体がほかほかするわっ」
新しいスキルなの!?
「これは……スキルの覚醒反応!?」
「え? ひ、髭のおじさんも!?」
「もってことは、君もかい?」
「ま、待ってくれ大塚さん。オレもスキルの覚醒反応がっ」
「私もよ。でもなんのスキルかわかんない」
え? え? どういうこと?
こんなに一度にスキルが覚醒するものなの?
ジェネラルスケルトン一体で、こんなに?
幸運過ぎない???