107:昇竜●!
――[ん?]
――[何してんだ?]
――[サソリを取り囲んでたのに、片側にみんな移動してる?]
サソリの弱点は腹。胴の底になる部分だ。
だけど腹の底に潜り込むわけにはいかない。いつプレスされるかわからないし、それ以前に高さ一メートルほどしかない腹の下に潜り込むんだ。姿勢という意味で攻撃しにくい。
ならどうするか。
「いいか、息を合わせろ!」
「「うーっす」」
「せーのっ」
サソリの右側面に並んだのは、俺や後藤さんと同じ格闘系スキル持ち。中には蹴りスキルを持つ人もいる。
総勢十二名。
タイミングを合わせ、サソリの横っ腹を――殴る! (+蹴る)
――[へ?]
――[殴った?]
――[蹴ってるのもいるけど]
――[片側から一斉に殴って……おお!]
――[サソリの体が横にぶれた!]
くっ。失敗だ。殴る角度が水平過ぎて横滑りさせただけだ。
蹴りの人とアッパーカットタイプのモーションなら上に向かって力が加わるけど、普通に殴ったんじゃ横移動させるだけ。
よし。俺も蹴り上げよう。
「もう一回だ! 下から上に突き上げろっ」
「「おーっ!」」
「せーのっ」
右足のつま先を硬質化させ、力いっぱい蹴り上げる!
――[う、浮いたぁぁぁ!?]
――[これ、ひっくり返そうとしてるんじゃね?]
――[いやでもこれ、垂直に浮いてるだけじゃ……]
しまった! 真っ直ぐ蹴り上げ過ぎた?
クソッ。せっかく浮いたのに。
いや。まだ間に合う。
胴の端っこにもう一撃加えられれば――
両足に力を入れ、拳を突き上げ垂直跳び!
「インパクト!!!」
バキャッっという音と共に、サソリの体が――。
「あああぁぁぁぁぁ、しまったあぁぁぁっ」
――[悟くん!?]
――[何やってんの悟君っ]
――[高速回転しとるやんけwwww]
――[あのサソリ、今めちゃくちゃ目が回ってるんだろうな]
――[物理的に眩暈を起こさせる作戦?]
――[物理眩暈wwwwwww]
力を入れ過ぎて、サソリを空中で回転させてしまった!?
こ、これ、上下どっちの向きで着地するんだ?
「悟、お前何やってんだっ」
「い、いや。半回転させて仰向けにさせようと思ったんですよっ」
「たぶん今の時点で四、五十回転してるだろうなぁ」
「いやぁ、よく回る回る」
「半回転とは」
総ツッコミを全身で浴びつつ、宙を舞い、高速回転するサソリを凝視。
落下してくる。
「落ちてくるぞぉーっ」
「周囲、気をつけろっ」
初期位置から少しずれ、サソリが土煙を上げて着地した。
どっちだ?
仰向けか、うつ伏せか。
どっちなんだ!
土煙が晴れ、そこにあったのは――。
「腹天!!」
「殴れぇぇーっ。ボコボコにしろっ」
「うおおおおおぉぉぉぉぉっ」
蛍光ブルーの筋が入った黒光りする背中とはうって変わり、薄いグレーの腹が上を向いている。
カサカサと足を動かしもがくサソリは、尻尾やハサミを使って起き上がろうとしていた。
「尻尾とハサミを切り落とせ!」
「もしくは動きを止めてください!」
関節を攻撃すれば落とせるかもしれない。だけどそもそも皮膚が硬いんだ、関節を狙っても一撃で切り落とすのは無理だろう。
俺の言葉を聞いて、冒険者が動いた。
彼らがどうやるのか、見ている余裕はない。
奴が起き上がる前になんとかどてっ腹に穴を空けたい。
カサカサする脚の隙間から腹の上に飛び乗る。
――[ひっくり返った!]
――[これ運だろww]
――[仰向けかうつ伏せか、確率は半々だしな]
――[お、水スキル?]
――[水かけ?]
――[あー、そういうことか。氷スキルの凍結強度を増すために濡らしたのか]
――[へぇ、そういう使い方も出来るのかスキルって]
――[これで毒尻尾と邪魔なハサミの動きを止められた]
――[ボコせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ]
――[いや凄い絵面だな]
――[サソリの腹の上で男たちが一斉に腹パンを繰り出す光景]
――[かかと落としもいるけどなww]
「うおおおぉっ。インパクト!」
腹にワンパン打ち込むと、その部分がベコっと凹んだ。
『キシェエエェェェェェェッ』
「うわっ」
腹が大きく跳ね上がったせいで、上に乗っていた俺たちも一緒に跳ねる。
あぁクソッ。せっかく上ったのに落ちてしまった。
もう一回――。
「キャーッ。悟くん!」
「ん? サクラちゃ――邪魔っ」
声がして振り向くと、骨がいた。
スケルトンだ。
頭蓋にインパクトを打ち込むと、一発で木っ端みじん。
普通のモンスターはこうなんだよ。そう考えるとあのサソリがどれだけ頑丈かよくわかる。
「あぁぁっ。サソリが元に戻ってしまった。またひっくり返すところからかよぉ」
「悟くん、大丈夫だった?」
「サクラちゃん。大丈夫って、何が?」
サクラちゃんは富田さんに肩車されていた。その富田さんは右手に杖を持ち、左手はサクラちゃんのベストを掴んで落ちないようにしてくれている。
「三石さん。さっきのスケルトン、あれユニークモンスターですよっ。腕が六本あったでしょ!?」
「え……そう、だっけ?」
目の前にいたから構わず殴ったしなぁ。そういえば背丈が俺より大きかったかも?
殴り飛ばしたスケルトンは、頭を失ったせいでバラバラになっている。腕が六本あったなんて、もうわからない状況だ。
「あら……なにかしら、これ」
「サクラちゃん、何か落ちてた?」
「ううん。そうじゃなくって……えっと、これって、ダンジョン生成に巻き込まれた時みたいな……」
「おい悟! もう一回やるぞっ」
「あ、はい! 富田さん、少し下がっててください。危ないですから」
「わ、わかりました」
もう一度、サソリをひっくり返す。
それにしても、なんか体がほかほかするな。
「行くぞっ」
「「おーっ!」」
拳を硬質化――今度はアッパーカットの姿勢で振り上げるぞ。
――[もう一回!]
――[ひっくり返すんだ!!]
――[ちょ、悟くん足元見て!]
――[小型がっ]
『三石くん、足元!』
「え?」
佐々木さんの声がして足元に視線を向けると、地面から小型のワームが顔を出していた。
粘液を吐こうとしているのがわかった。
だからなのか、俺は条件反射で振り上げようとした拳を――振り下ろした。
ワームが顔を引っ込める。
振り下ろした拳は止められない。
そして――。
拳を地面に打ち付けたのと同時に、地面から杭のような棘のような、いや、岩ドリルが飛び出した!?