104:現着
「はい。オープンフィールドでした。――そうですね。イメージとしては西区の十五階みたいなのです」
壁で囲われているのかはわからないし、俺も焦ってたからしっかり観察までは出来ていない。
でも、地面は芝生のようだった。
「ブライト。下の階で何か構造物とか樹木とか見た?」
「んー、僕は見てないなぁ。カンキチとハト子はどうだい?」
「オレも見てないなぁ」
「私もよぉ」
「鳥たちも見てないそうです。だだっ広い芝生エリアなのかもしれません」
と本部の方へと伝える。
今は設置した火炎放射器を起動させ、階段の中でモンスターを火葬しているところだ。
時々鳥たちが階段入り口正面の方に飛んでいき、Uターンして階段の中へ向かってスキルを放っている。ちょとダメージを与えると、倒れやすいからだ。
『三石、聞こえるか?』
「あ、はい。どうしましたか白川さん」
『そのオープンフィールドに、スタンピードの主が出現していないかブライトたちに確認してもらうことは出来ないか?』
「スタンピードの……そうか! 聞いてみます」
スタンピードの主が出てくるのは、スタンピード中のモンスターを一定数倒してからだと言われている。
具体的な数はわからない。
ただ主を目にするのは発生から数日後だとされている。
スタンピード中はバカみたいにモンスターが湧いて、通路はギッチギチ状態。
人間側も、モンスター側も、前進するのは容易なことじゃない。
「みんな。下の階層に行って、スタンピードの主を探してくれないか?」
モンスターを何匹倒せばボスが出現するのか――それは具体的にはわからない。こればっかりは検証するわけにもいかないからな。
「いいぜ」
「休憩はあの階段上のコンクリで出来るしな」
「オッケーぽっぽ」
オープンフィールドの場合、階段は大きな箱で覆われた構造物の中にある。地下道への入り口みたいな感じだ。木造だったりコンクリートだったり、土だったりと、その材質はいろいろ。ここはコンクリートだった。
コンクリートなら上部が平らなので、休憩スペースとしても使える。飛行モンスターがいなければだが。
「飛行モンスターがいるかもしれない。必ず集団行動をするように」
「僕、カン太、八兵衛で行こう」
「オレ、ハト子、ピジョットンだな」
「んじゃ残りのワイ、ブラック、レイで行こうぜ」
鳥たちは三チームに分かれて下層を飛び回ることになった。
ブライト以外は、発信機付きベストを着ている。カンキチの発信機だけコンクリートの上に置き、三チームが戻って来る場所の目印にする。
「本部。カンキチの発信機を階段上に置いていかせるんで、方角の誘導をお願いします」
『了解。戻ってくるときは、動いていない発信機の所に誘導すればいいのね』
「そうです。よろしくお願いします、佐々木さん」
これで迷子防止になる。
火炎放射器のスイッチを切って飛びやすくすると、彼から一羽ずつ階段通路へと入って行った。
「俺も、少しでも数を減らそう」
「どうするの、悟くんっ」
火炎放射器を再起動させる。すると炎に炙られて、モンスターの足が一時的に止まる。
ほんの少しだけ、モンスターの行列に隙間が出来た。
そのタイミングに合わせて、居酒屋の看板の出っ張りから飛び降りる。
「さ、悟くん! んっもう! ガオォーッ」
「サンキュー、サクラちゃん」
サクラちゃんが威嚇でモンスターの注意を惹きつけてくれたおかげで、着地後にすぐ狙われずに済んだ。
サクラちゃんの威嚇、かなり範囲が広くなってるな。それにこの辺りのモンスターは、サクラちゃんより格下ってことになる。
「私も戦うわ! あ、そうだっ。技術部さんから貰ったあれがあるわ」
技術部から貰った?
また武器になりそうなものでも作ったんだろうか。
モンスターを殴りながら上にいるサクラちゃんを見ていると、アイテムボックスから取り出したのは木の棒。
ぼ、棒? どうするつもりだ、サクラちゃん。
「えいっ。えいっ」
「……え?」
サクラちゃんが棒を振ると、その先から濃い紫色のキラキラした粉のようなものが飛んでいく。
その粉を被ったモンスターが……苦しみ始めた。
待ってそれ、毒霧!?
「うふふ。これね、トレントの幹から作った魔法ステッキなの」
「待ってそれなんて物騒な魔法のステッキ!?」
「大丈夫よ、悟くん。魔法はステッキを振った方角にしか飛ばないから」
そう言われて、よかったとは素直に言えない。
トレントは毒霧じゃなく、睡眠霧だったのになんで?
と思ったら、サクラちゃんのステッキが次に出したのは白い粉。
それに触れたモンスターが凍る。全体ではなく、粉に触れた部分のその周辺が。
だけど粉は大量に舞っている。結果として頭部はほとんど凍ってそのまま死ぬことになった。
「サ、サクラ……さん?」
「これね、何の粉が出るかはランダムなのぉ。凄いでしょ? 技術部のおじさんたち、凄いもの作ってくれたわぁ」
技術部の人、サクラちゃんにあれをあげたんだよな?
サクラちゃん個人に?
なんで……俺にもくれなかったんだよ。
ちょっとしょんぼりしながら、その悲しみを拳に乗せてモンスターをぶん殴る。
途中、佐々木さんからの通信で下の階に行った鳥たちから、ボスはまだ見つかっていないという報告が入った。
それからどのくらい殴り続けていただろうか。
気づけば俺たちを――居酒屋周辺に溜まっていたモンスターの数が減っていた。
まぁ階段からは這い上がって来るから、後ろの数は一向に減ってないけど。
放射器の燃料もとっくになくなってて、もう随分前に消えている。
『悟。おい、そっちはどうだ?』
「え? あ、はい。今階段の所にいます。俺とサクラちゃんで、階段から上がって来るモンスターを一掃しているところです」
『人を送る隙間はあるのか?』
「隙間……まぁ少しなら」
『よし
不吉なこと聞いてくるなぁ、後藤さん。
『はぁ……ひとりで行ったまま戻ってこないから、少し心配しただろうが』
「あ、すみません。装置をくっつけるいい場所探してたら、いい場所を見つけたもんで」
『そこに人を送れるか?』
「人……」
後藤さんとの会話の最中も、押し寄せてくるモンスターを殴る蹴るで蹴散らしている。
囲まれてはいるけど、モンスターと俺との間に隙間が出来ていた。
三、四人なら大丈夫かも?
でも。
「どうやって送るんですか? ツララもヴァイスもいないし、川口さんとの握手も上書きされているはずでしょう?」
『あぁ。だから今、川口と握手したものを送ってる』
え、どうやって?
『そろそろそっちに着くころだ』
「え?」
どうやって!?
「ピヤアァァァーッ」
ピヤー?
声のした方角に視線を向けると、炎がこっちに向かって飛んで来たああぁぁ!?
と、鳥? 火の鳥!?
モンスターを薙ぎ払いながら飛んで来たのは、手のひらサイズの火の……インコ!?
「待たせた。わたしはオカというものだ」
「……ど、どうも。三石悟です」
オカさんがパタパタと飛びあがると、途端に川口さんが現れた。
やって来たのは赤城さんと白川さん、青山さん。それから――。
「うわあぁぁっ。かか、囲まれてるっ」
「富田さん!?」
え、なんで富田さん?