103:欲しい。
「一つの火炎放射器で倒せるモンスターの数は、せいぜい三体か四体だな」
鳥たちが留まれるよう、壁に棒を指したりもしてまわった。
火炎放射器を見てもらっていたけど、同じモンスターがずっと炙られ続けるわけじゃないから、死ぬまでに至る奴は少なかったそうだ。
油を使って燃やすなら、もっと防衛ラインから離れないと危険だし。
どこかいい場所はないかと走り回っていると……。
「こちら三石です。下りの階段を見つけました」
『モンスターの状況はどうですか?』
「まぁ、みっちみちですね。あと、階段の直ぐ真横に建物が見えます。半分壁に埋まっていますが」
居酒屋っぽいな。店の売り口に暖簾はなく、準備中と書かれた札がぶら下がっているのが見えた。
看板が掛けられた壁に人が立てるほどのでっぱりがあったので、そこで一休み。
「サクラちゃん、ブライト。小腹も空いたしここでご飯にしよう」
「凄いところで休むわね……大丈夫?」
「うーん……大丈夫かな」
「僕ぁ平気だけどね」
こちらに気づいて店舗の下でギャーギャー喚くモンスターがいる。だけど壁にへばり付いて歩けるタイプではなく、立ち上がって前脚を伸ばすだけ。まったく届きそうにない。
そのうち、何羽かの鳥たちが同じように羽根を休めに来た。
「周辺はどう?」
「モンスターしかいねぇ」
「こっちもっぽ」
まぁそりゃそうか。
ハトやカラス用に、サクラちゃんがヒマワリの種や乾燥トウモロコシを出してやる。
風呂桶――もちろん新品に水をたっぷり入れてやると、彼らも食事を堪能した。
食事をしつつ、一羽のカラスがスキルを使ってモンスターを倒す。それを見て他のカラスやハトも攻撃をする。
この子たちは攻撃スキル持ちばかりか。まぁ万が一のことを考えたら、攻撃スキルを持ってない子は自由に飛び回っていたら危ないもんな。
「ご馳走様っと。何分経ったかな」
「二十三分よ、悟くん」
「装置回収までまだ時間があるな」
設置用火炎放射器の放射持続時間は三十五分だ。だけど炎が消えてもしばらくは熱いから、すぐには回収出来ない。
あと十分ほどで火が消えるなら、プラス十五分して、二十五分後か。
「なぁダンナ。あの火がぼぉーって出る奴さ、階段にくっつけたらどうだ?」
「階段に?」
「あぁ。通路より狭いだろ?」
確かに。通路の幅は五メートルはある。だけど階段は二メートルぐらいだ。
「狭い方がまとめてこんがりできるッポね」
「そうね。いいんじゃないかしら、悟くん」
うぅん。階段は天井が少し低くなっているから、壁を走るにしても天井ギリギリのところじゃないと危険だな。
俺の身長百七十九センチ。階段幅二メートル。ここもギリギリだなぁ。
「じゃ、行って来る」
装置を回収して階段まで戻って来た。
「行ってらっしゃい、悟くん」
「無事に戻ってこいよ」
「下の階に行ったら、飛行モンスターがいないか見てきてくれよ」
装置を三つ抱えて壁走りを開始。
駆け足程度のスピードまで緩め、階段側へ侵入。階段中ほどに素早く三つをセットし下の階へ。
いったん下の階の天井に足場を変えようと思ったら、天井がなかった!
「マズいっ。オープンフィールドタイプかっ」
駆け足程度だったとはいえ、急には止まれない。
いや、止まったところで結果は同じだっただろう。
――落ちる。
下はモンスターだらけなのに。クソッ。
着地したのはモンスターの頭の上。このままモンスターの上を飛び越えて階段に――と思ったけど、気づかれて振り落とされた。
こんな……こんな所で……死んでたまるか!
「イン――」
インパクトを打とうとして、サクラちゃんの言葉を思い出す。
普通にパンチして、キックするだけでいいと思うの――。
そうだ。無駄に消耗するのは止めておこう。
ただ普通に殴って蹴るだけ。ただ拳を守るために硬質化だけは発動させておく。
生きて……生きて必ず階段へ!
何匹? いや何十匹倒した?
大丈夫だ。疲れはない。まだまだやれる。
ただ――こいつら見飽きた!!
見飽きたし、パンチとキックだけの応戦にも飽きてきた。
もっとこう、一度に何匹もバァーって倒せるスキルが俺にもあったら……。
一匹ずつちまちまやるのって、ダルい。
そんな風に思っていると。
「悟ーっ!」
「カァーッ」
「ポッポォー」
「ブライト、みんな!」
鳥軍団が階段から降りて来た。
「あぁ、それで戻ってこなかったのか。こんな構造だと天井ないもんなぁ」
「カァー。大空だぜ」
「凄いのね、凄いのねっ。ダンジョンの中に空があるなんて」
そうか。カラスやハトたちは、野生の頃にうっかりダンジョンに入ってスキルを手に入れたけど、みんな地下一階しか見たことがなかったんだよな。
ダンジョンはどこも、地下一階は洞窟っぽい構造になっている。
オープンフィールドは初めて見るのか。
「みんなっ。階段下のモンスターを蹴散らしてくれっ」
「「オッケー」」
ブライトたちのおかげで階段まで行くことが出来た。
そこから勢いよくジャンプして階段の壁に足をつき、なんとか上の階へと戻る。
「悟くん! もうっ、もう心配したんだからっ」
「ごめん、サクラちゃん。この下、まさかのオープンフィールドだったんだ」
「天井も壁もなくって、おっこちたんだろ?」
「その通りだよ、ブライト。お前たちが来てくれて助かったよ。やっぱり範囲攻撃はいいよなぁ」
ブライトのフェザー。カラスは竜巻を出していたし、ハト子さんは人間が両手を広げたようなサイズの火球を出していた。
ブライトは俺と一緒にダンジョンで救助活動をする際に、フェザーを使う機会も多かったせいか、ほとんど一撃でモンスターを倒している。
カラスとハト子さんはずっと地上にいたし、スキルを育てる機会がなかったから威力は低い。
だけど二羽が協力して同じ箇所に攻撃することで、各々一発ずつで蹴散らせている。
俺も範囲スキル欲しい。