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101/121

101:その頃、別の場所では。

 スタンピード討伐が開始される少し前。


「食品フロアの固定カメラ設置完了!」

「現地ドローン、現着しましたっ」

「映像チェック。ご遺体が映らないか確認しろっ」


 ATORA捜索隊本部六階指令室。

 スキルを持たない社員が、科学の力で現場をサポートする戦場でもある。


 ダンジョン生成は頻繁に発生するものではない。指令室にいる社員の半数以上が、今回初めてダンジョン生成対策を行う。

 先ほどまではマニュアル片手に、緊張からも司令室はピーンと糸が張り詰めたような雰囲気があった。

 だが、発見された生存者は無事救助出来、重傷者は既に地上に運ばれ治療を受けている。

 徒歩での移動が可能な生存者も、冒険者に護衛されて地上を目指していた。


 上層にはまだスタンピードは到着していない。

 あれは不思議なもので、スタンピードの先頭が到達していない階層は普段と同じ。異常湧きも発生しない。


「鳥部隊! 地下二階の様子は!?」

「ポッ。みんな、そっちはどうポッポ?」


 スキル『以心伝心』を持つハトの白鳥しらとりは、同じハト仲間に言葉を飛ばす。

 嘴で話しているが、実際はテレパシーのようなものだ。


『白鳥さん、一番は特に問題ないわ』

『二番。モンスターはいるけど、普通の数だぜ』

『さんばーん。こっちも普通っポ。レベル40の冒険者で十分』

『四……異常、なし』


 ・

 ・

 ・


 スタンピードの発生。その報告がもたらされてすぐ、冒険者ギルドは連絡のつく冒険者を全員、生成されたばかりのダンジョンへと向かわせた。

 スタンピード討伐のためでもあるが、同時に、レベルの低い冒険者には地下二階をくまなく歩き回り、三階への階段を見つけるためだ。

 ショッピングモールが階層を貫いているため、三階、四階へと下りることが出来る。だが本来ある階段からスタンピードが上って来ることも警戒しなければならない。


 彼ら冒険者にハト軍団がつき、リアルタイムで状況報告を可能とした。

 カラスとインコの軍団も冒険者に同行し、周囲の警戒、状況報告を行っている。こちらは冒険者のスマホ経由だ。


「二階にスタンピードは来てなさそうッポ」

「よし。まだ上には来ていないな。そのまま地下三階への階段を探すよう伝えてくれっ」

「了ッポ」

「配信準備完了です!」

「これより三分後に配信開始! 後藤さん、こちらの準備出来ました」

『ご苦労――』






 ダンジョン内。映画館フロア――。


「よぉし、野郎ども! 現場の映像配信を開始するぞ! いいか、お茶の間に死体を映すなんてことはあってはならん!」

「え、配信って……俺ら配信デビューするのか!?」

「え、待って待って。お化粧直ししたいっ」

「ちょっ。髭剃ってきてないのに!」


 通路の先ではスタンピードの先頭を押し返すため、たばこやの秀さんのスキルを使って少しずつ前進が始まっていた。

 集まった冒険者、捜索隊の数は百を超えている。上の食品フロアにもほぼ変わらない人数が集結し、さらに、これからも増え続ける予定だ。

  

 後藤は拡声器スキルを持つ者の力を借り、声を届ける。


「いいか! お茶の間にお前たちの死体を映すんじゃないぞ!」


 それは、死ぬな――という意味でもあった。

 それが理解出来ない者などいない。


 ある者は鼓舞するように吠え、ある者は笑顔で応え、ある者は祈るように目を閉じる。

 ここから長い戦いが始まった。






 場所は変って東京西日暮里駅――


「急いでください、大牧先輩!」

「ま、待ってくれ。ひぃ、人だらけっ。多すぎて目が回るぅ」

「目ぇ回してないで、早く行きますよ!」


 上野駅周辺で発生したダンジョン生成により、東北からの新幹線は埼玉県の大宮駅までしか運行されていない。

 そこから普通列車に乗り換え、西日暮里駅へと到着したのは――。


「ま、待ってくれ富田。切符、切符どこに入れたっけ?」

「あぁ、もう先輩! 鞄の内ポケットに入れてたでしょっ」

「え? ……おぉ! あったあった。よく見てるなぁ」


 あなたが忘れっぽいから見てたんですよ――と、富田は口に出しては言わない。

 東北の各県から集まった捜索隊の救援部隊は、総数十五名。

 人手不足は各県で深刻だったが、給料面などの改善でようやく人員に余裕が出て来たばかり。

 新人をダンジョン生成の救援に行かせるわけにもいかず、だからといってベテランを総動員させるわけにもいかない。

 結局少ない人数しか送りだせなかったが、良いスキルを持ったメンバーが集められている。


 彼らは駅を出ると『回送』と表示されたバスへと向かった。

 そのボディを叩き、運転手がドアを開ける。


「どうしましたか?」

「上野まで乗せてください!」

「は?」


 運転手は首を傾げるが、彼は――富田は話を続けた。


「俺たちは東北の捜索隊の社員です。上野で生成されたダンジョンでの救援活動にきましたっ」

「この人数なんで、タクシーではちょっと。会社の方に連絡していただいて、なんとか送っていただけませんか? もちろん貸切の料金は会社の方でお支払いしますので」


 と、先輩捜索隊員も加わって説明する。

 運転手は突然のことで驚いたが、彼らが着るジャケットには確かに『ATORA』の文字があった。

 そして運転手は――……いや、運転席の窓際には、サクラちゃんのアクリルキーホルダーがぶら下がっていた。


 自然と運転手の胸が高鳴る。


「こ、こちら回送中の磯部ですっ。い、今、東北の捜索隊の方が来て――」


 自分はこれから捜索隊を乗せ、突然現れたダンジョンでの救助活動に貢献する!

 盛りに盛った妄想を胸に、運転手は後方ドアの開閉ボタンを押した。


「会社からの許可は下りました! さ、乗ってください!!」


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