100:赤城さんの幸せ。
「秀さぁぁぁぁぁんっ」
「んあ? あにゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」
何を驚いているんだ、秀さんは。
生存者、それから赤城さんたちとも合流でき、無事に後退を開始した。
だが秀さんが絶対領域を展開したまま動いていない。いや、動けないのだ。動くとスキルの効果が消失するタイプだから。
それで俺が全力疾走し、秀さんを抱えた後は壁走りで引き返す。
「ほっ。到着」
「ぐにゃ、にゃ、みにゃあぁ」
「秀さん、どうした? なんか猫みたいになって」
「俺ぁ猫なんだよ! な、なんて無茶苦茶な走りをしやがる人間なんだ」
「スキルだよ、スキル。秀さん、来てくれてありがとう。おかげでみんな、地上に上がれるよ」
ここにいる人たちは救えた。
救えなかった人も、もちろんいるだろうけど……。
ショッピングモールでも、あちこちに遺体はあった。身元のわかる物だけ回収して、あとは布を被せて来ただけだ。
遺体の回収をしている余裕はなかったから。
どのくらいの人が巻き込まれて、どのくらいの人を救助出来たのか。
もちろん、下層にまだ取り残された人がいるかもしれない。
「終わっちゃいねえぜ」
「秀さん?」
「このスタンピードを止めねぇ限り、終らねえよ」
そうだ。スタンピードが発生している限り、これ以上の捜索活動も出来ない。
放っておけば地上にも出てくるだろう。
ひとまず、生存者を地上に送り届けないと。
「三石くん。川口さんが来てくれた。生存者を全員地上へ送れる」
「本当ですか、赤城さん。よかった」
「今、食品フロアに冒険者が集められている。スタンピード討伐の開始だ」
「了解です」
スタンピード中は、ダンジョン内のモンスターが異常湧きする。
普段はひとつの階層に決められた種類のモンスターが一定数湧いているが、スタンピード中はそのルールがなくなる。
湧く数の上限もなくなり、ずっと湧き続けるんだ。
スタンピード中のモンスターを一定数倒すと、軍勢の中にボスが湧く。そのボスを倒せば、異常湧きが止まる仕様だ。
異常湧きが止まれば、あとは数を減らすだけ。通常の数まで減らせば、普段通りのダンジョンになる。
ここは新しく生成されたダンジョンだし、もしもこれまでの常識が通用しない……となれば、スタンピードの止め方を他に模索するしかない。
だけどまずはわかっている方法からだ。
過去に発生した外国で起きたスタンピードで甚大な被害を出したのは、ダンジョンベビーを故意に誕生させようとしたときだ。
その時は、最下層付近のモンスターが地下一階から湧き出した。しかも尋常じゃないスピードで。
だけどそれ以外のスタンピードでは、中層辺りの階層あたりのモンスターが湧いている。
このスタンピード、特に強いモンスターもいない。
なら通常のスタンピードと同じ――そう思いたいな。
『捜索隊のみなさん、聞こえますか? これより冒険者との共同殲滅戦を行います』
『ショッピングモール地下一階の食品フロアを待機場とし、地下二階を主戦場とします』
『モールの社長には許可を頂きました。店内にあるものは全て消費してもいいそうです』
「ほんと!? あのね、あのね、美味しそうな芋菓子があったのぉ」
とサクラちゃんが嬉しそうに言う。
芋菓子……動物が食べて大丈夫なのか?
司令部からの説明はこうだ。
この階層の、さっきの十字路を防衛ラインにし、三方から来るモンスターを撃破し続ける。
体力や魔力を消耗した人は食品フロアまで下がって休息をとり、回復したらまた下の階へ。
食料はある。上の階にキャンプ用品店の店舗が入っているからと、それも持って下りて既に休憩スペースは準備出来ていると言う。
『スタンピードの討伐作戦は、短くとも三日は続きます。長期戦ですので、無理のない範囲で休憩を挟んでください』
『関東だけでなく、近畿関西東北からも冒険者が到着しています。交代要員は十分ですので、本当に無理はしないでくださいね』
よかった。時間の経過とともに支援の輪も広がっている。
「となると、十字路までまた引き返さないとな」
「ならいい方法があるぜ」
そういって俺に抱っこされたままの秀さんが、お腹を揺らした。
「ほぉりゃ! 絶対領域!」
「よし、一掃しろっ」
スタンピードの最前列で、秀さんが絶対領域を展開。
冒険者が素早く領域内のモンスターを殲滅。そして領域外のモンスターを、防御系スキルを持つ人たちで押さえる。そしたら秀さんがまた、彼らの足元で絶対領域を展開。
これを繰り返して、確実に二百五十センチずつ進む作戦だ。
一気に攻撃魔法で殲滅する手もある。
だが数メートル先のモンスターまで一瞬で消し去っても、すぐに後ろから押し寄せてくるからほとんど前進出来ないだろう。
秀さんの絶対領域なら安全だし、十字路まではこれで進む。十字路で三方向に分かれ各個撃破……というやり方だ。
「出来ればもう一つ先の十字路まで進みたいな」
「おう、いいぜ赤城の旦那」
「じゃあボクが秀さんを抱っこして行こう」
「いや、抱っこはしなくていいんだが」
「いやいや。秀さんもお疲れだろう。僕が抱っこするよ」
赤城さん、嬉しそうだな。
しかし赤城さんのこの行動で、秀さんのスキルは更に真価を発揮することになる。
「つまり絶対領域を展開するためには、両手を突かなきゃいけない――という条件さえクリアしていれば、何も地面じゃなくてもよかったと」
「……だからってなんで、野郎の胸に手をつけなきゃならねえんだ」
秀さん吸いをしようとした赤城さんを押しのけるため、両手をついたとき……絶対領域が展開した。
そのまま赤城さんが動いても、絶対領域は展開したまま。
秀さんが動かなければそれでいい――てことらしい。
こうして赤城さんは秀さんを抱っこしたまま、領域展開ごと移動して布陣を広げることになった。
順調に前進を開始したとき――。
後ろから後藤さんの声が聞こえた。
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祝100話目!
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今日明日でどのくらい書き溜め増やせるかわかりませんが
12、13、14,15は更新予定です。
16日は・・・わかりません><




