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1:22歳の誕生日。

「ハッピーバースディ!」


 いつものように出勤して、いつものように待機室のドアを開けると、クラッカーのゴミを被った。


「三石、二十二歳の誕生日おめでとう。プレゼントは特にない」

「赤城さんたち、今出動中で、代わりにおめでとうって言っておいてって頼まれたの。おめでと、三石くん」


 誕生日……あぁ、そうか。


『五月十八日。今日は地球上で初めてダンジョンが生成された日です。世界各地で、最初のダンジョン生成に巻き込まれ、命を落とした人々への追悼式典が――』


 待機室に置かれたテレビから流れてくる音声で、今日という日の意味を思い出す。

 今日は俺の誕生日であり、そして突如世界にダンジョンが出現した最初の日でもあった。


「二十二歳になった感想は?」


 感想、と言われても。

 誕生日なんて、生きてさえいれば誰にでも必ず訪れるわけで。


「えっと……ありがとうございます」


 必ず訪れる日だとはいえ、祝ってくれる人がいるのは嬉しいことなのかもしれない。

 だから毎年、お礼を言う。


「……薄い」

「もっとこう、わーいって喜んでもいいんだよ?」

「佐々木ぃ。三石に限らず、男がわーいなんて喜ばないって」

「まぁ三石のリアクションが薄いのは、今にはじまったことじゃないし」


 俺にだって感情はある。ただ、普通の人より起伏が小さいだけ。

 あとは、感情をどう表現すればいいのかわからないってのもある。

 これは、特殊な環境・・で生まれたから仕方がない。


「さぁさぁお前ら、もうすぐ始業時間だぞ。散らかったゴミを片付けろ」

「あ、部長、おはようございます」

「あの件、三石くんに話すんですよね?」


 あの件?


「あぁ。三石、ちょっと来い」

「え、あ、はい」


 な、なんの件だろう?

 先日の出動で、要請のあった捜索対象以外を救助したことについてかな。

 確か「頼んでもいないんだから、要請費用は払わない」って言ってるそうだし。

 それとも、定期パトロール時に迷い犬を見つけて連れ帰った件かな。

 あれも飼い主が救助費用を払わないと言ってたな。放っておいても犬だから自分で帰ってこれるんだって言って。


 後藤部長に連れて行かれたのは機材室。

 そこには――


「どうだ? サイズ調整の方は」

「あ、部長。たぶん大丈夫です。いいよな、サクラちゃん」

「えぇ、バッチリよ。耳を出す穴の位置もピッタリ。まぁ贅沢を言えば、もっとかわいい帽子がよかったかしらぁ」


 なんで……なんで……。

 リアクションの薄いと言われる俺だけど、さすがに固まってしまった。


「あの、後藤さん……なんでタヌキが?」

「おい、バカ。それは禁句――」


 後藤さんがそう言った瞬間、帽子を被ったタヌキが立ち上がって前脚をバンザイした。


「私はタヌキじゃないわ! レッサーパンダよ!! 見てわからないのっ」

「いや、どう見てもタヌ――」

「ちょーっと来い、サトル


 また後藤さんに連れられ、今度は廊下に出た。


「サクラに話を合わせてやれ。あれは本気で自分をレッサーパンダと思っているんだから」

「……え」

「まぁいろいろあるんだよ。とにかくだ、お前、今日からサクラとコンビを組むように」

「……え」


 いや、なんで?

 この『株式会社ATORA捜索隊』は、ダンジョン内で行方不明になった人や遭難人の捜索、救助を目的とした民間企業だ。

 捜索隊のメンバーは、大抵数人のチームで動いている。

 俺も入社した当初は、二人の先輩と行動を共にしていたけど――半年もしないうちにひとりになった。

 別に先輩が勤務中に死んだとか、そんなんではない。

 特殊な環境で生まれた俺に、ほとんどの人がついてこれないからだ。

 俺の場合、ひとりで行動する方が効率がいいという結論が出た。


 それなのに今更?


「あの、移動速度が……」

「心配するな。サクラは早い。タヌキは走るのがそう早くないとはいえ、スキル持ちは別の話だ」

「はぁ……」


 人間の言葉を喋っているって時点で、スキルは持っているってのはわかるけど。

 本当に大丈夫なんだろうか。


「神速のスキルを持っているのさ」

「うわ、いいスキル貰ってるなぁ。うぅん、なるほどぉ」


 神速とは、どんな悪路でも素早く動けるスキルだ。

 ダンジョン内は階層によって構造が違い、走りやすい階もあれば走り難い階もある。

 神速があればそれらの影響をまったく受けず、早く走れるってことだ。


「それにアイテムボックスもある」

「え、それも凄くいいスキルじゃないですか」


 アイテムボックス。小さな木箱を召喚するスキルで、箱の中は小さな別空間になっている。

 小さいといっても、大型コンテナひとつ分に相当するからかなりの量を持ち運ぶことが可能だ。


「あとな」

「はい?」


 後藤さんが俺の肩に腕を回し、ガシっと首をホールド。


「お前は記録用の録画がヘタくそなんだよ」

「あ……あぁー……すみません」


 いつもカメラがずれてるだの、画像がブレてるだの、電源を押し忘れているだの、よく怒られる。

 あのタヌ……レッサーパンダは、俺専属の撮影係らしい。


 どうやら俺に拒否権はないようだ。


現代ダンジョンものです。

続きも読んでもらえると泣いて喜びます(´;ω;`)

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