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お嬢様サイエンスクラブ誕生

 9月。

 その編入生、エリーさんを見た時、あたしは「お嬢様だ」と思った。言葉づかいもそうだけど、雰囲気が、お嬢様なのだ。


「皆様、ごきげんよう。アメリカから来ました、エリー・緑矢みどりやでございます。どうぞ、わたくしと仲良くしてくださいませね」

 エリーさんは、おだやかにほほえみながら言って、教室の皆を見わたした。

 エリーさんの瞳は明るいブラウンで、同じく明るいブラウンの髪は、巻いたようにキレイにカールしている。そして薄い褐色の肌はとても美しくて、エリーさんの美少女っぷりを引き立てていた。

 エリーさんはたちまち、クラスの皆にかこまれて質問ぜめにあった。

「その、しゃべりかたは誰に教わったの?」

「日本の小説やアニメを、たしなんでおりましたら、こんな言葉になりましたことよ。……わたくしの母がアメリカ人、父が日本人でございます。父はあまり日本語をしゃべりません。だから、わたくしは少し、おかしな言葉になっているかもしれませんことよ。ごめんあそばせ」

「お嬢様みたいね!」

「ハイ! ありがとうございます! わたくしを、お嬢様としてあつかってくださると、うれしゅうございます」

 

 クラスの皆はエリーさんを歓迎した。


 ★


「シュウちゃん、エリーさんは本当にお嬢様みたいだったのよ」

「いいなぁ……Bクラスは楽しそうで」

 東京平成高等学校商業科はAクラスとBクラスに分かれていた。成績が優秀な生徒だけがAクラスに入れるのだ。あたしと美紅とエリーさんはBクラス、シュウちゃんはAクラスだった。


「ハイ! 読書部は、ここでよろしいこと?」

 ……噂をしていれば! エリーさんが部室(生徒会室)にやってきた。

「知世様はどなたかしら?」

「わたしです……」

「オー! あの、おすすめ本の紹介は素晴らしかったことよ! 『トラえもん』は世界中で愛されているアニメでございますから。わたくしも『トラえもん』が好きですわ」

「エリーさんみたいな人でも、そんなアニメを見るのね?」

 と、あたしが言うと、エリーさんは

「『エリー』でかまわなくてよ。アニメは大好きですの。ただ、こんな言葉ばかり使っていると『アニメなんて見ないんじゃないか』と思われてしまいますわね。わたくしは特にSFアニメが好きなんですの。小説もSFが好きですわ」

「ワシは、エリーのお嬢様ぽい所が良いと思うぞよ。内面の美しさが、にじみ出ているようじゃ」

「まあ、うれしいこと! ……わたくしは本当は、お嬢様じゃなくてよ。でも、お嬢様のように、ふるまいとうございますの。そういう心がけを大切にしていることよ。自分と、お相手の両方をうやまう心なんですの。わたくしが、もしお嬢様のように見えるなら。そういう風にわたくしが、願っているからですことよ」


「ふむ。そういうわけじゃったか。ところで、この写真集はどうじゃ?」

 美紅は布教用の麗様の写真集を、エリーに差し出して、説明をはじめた。

「ワシのおすすめは、このページじゃ。そして、ここも」

「まああ! 素敵な殿方ですのね! アニメから抜け出たかのようですわ!」

「ふふふ、2.5次元俳優じゃからのー」

 あたしたちとエリーは写真集を見ながら麗様の話で盛り上がり、すぐに仲良くなった。


「この部室には、麗様の写真集がたくさんあるんですのね。そして、これは原書のSF小説ではなくって?」

 シュウちゃんは、よく英語で書かれた本を読んでいる。


「そうですわ。ここをSF研究部にしては、いかがかしら? 部費でいろんなものが買えてよ」

「ええっ!?」

「なんじゃと!?」

 あたしと美紅が同時に声をあげた。


「4人じゃ正式な部とは認められないのよ」

 シュウちゃんが冷静に説明してくれた。

「まあ、残念ですこと」

「5人、集まったら正式な部になれるの。これでも、この学校は部活動に寛容なほうなのよ? ……ところで」

 シュウちゃんは、まっすぐにエリーのほうを見ながら言った。

「エリー、入部希望でいいの?」

「もちろんですわ」

「ようこそ、読書部へ」

 そう言いながらシュウちゃんは拍手をし、あたしたちも拍手をしてエリーをむかえいれた。


「ありがとうございます。でも、SF研究部にすれば、パソコンを経費で購入出来るかもしれなくってよ。わたくしの執事に交渉してみてもよくって?」

「エリーは、お金持ちの令嬢なのかの?」

「ハイ! わたくしの家は裕福らしいんですの」

 シュウちゃんは

「経費は……難しいと思うわ……」

 と、困った顔をして言った。

「そうですのね? では『お嬢様読書部』なんて、いかがかしら。紅茶とお菓子をいただきながら、本の感想をお話ししましょうよ。お茶とお菓子は、わたくしが用意してよろしくてよ」

 あたしは

「そういうの、アニメで見たことがある! いいかも」

 と、はしゃいで言ってしまった。

 美紅やシュウちゃんも乗り気っぽい。

「もちろん、お嬢様言葉を使わなくても大丈夫ですことよ。優雅な時間を過ごすことにいたしましょう。……ボランティア活動もしていきたいですわ」

「ボランティア活動じゃと?」

「美しい心がけをたもつために、世の中のためになる活動をするんですの」

「うむ……麗様もボランティア公演をウーチューブで配信していたのー。ワシらも、ボランティア活動をやったほうがいいかもしれんの」

「それが、よろしゅうございますわ。美紅様」


 そして、エリーは少し何か考えてから言った。

「美紅様はゲームをして、乙女様は絵を描いているということで、よろしくて? 知世様と、わたくしはSF小説を読んでいる、ということになりますわね?」

「そうじゃな」

「わたくしは『お嬢様SF研究部』という名前がいいと思うんですの」

 あたしは

「あたしはSFを読まないし、なんだか難しそうな感じがしてイヤかな……」

 と言ってしまった。そうしたらエリーは言った。

「そうでしたら『サイエンスクラブ』はいかがかしら? 『お嬢様サイエンスクラブ』でよろしくって?」

 こうして、エリーの熱意に負けて、「読書部」は「お嬢様サイエンスクラブ」になったのだった。


 お嬢様サイエンスクラブの最初のボランティア活動は、学校のまわりのゴミひろいに決まった。さっそく翌日の放課後に、それを実行することにした。


 あたしは少しモタモタして、集合時間に遅れてしまった。

 エリーが右手をあげて

「乙女様! こちらですことよ!」

 と声をかけてくれた。見ると、お嬢様サイエンスクラブのメンバー以外の、女子や男子もいる。合計15人くらい……? エリーはうれしそうに、はしゃいで言った。

「乙女様! この方たちに声をかけたの! 参加してくださるそうなのよ!」

 あたしはエリーの積極性と行動力に圧倒された。

「エリー、すごいのね……」

 あたしがつぶやくと、エリーは元気に言った。

「乙女様だって、なんでも出来てよ? 自分の可能性を信じればいいだけ。よろしくって?」


 皆の協力もあって、学校のまわりは、すっかりキレイになった。


 そのあと部室に行くと、エリーは自信たっぷりに

「お嬢様サイエンスクラブは、正義の味方ですわ!」

 と言った。「正義の味方」はちょっとちがうと思うけど、「いいことをすると気分がいいな」とあたしは思った。



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