エピローグ
4月3日。あたしたちは麗様のウーチューブ・トークイベントを見るために、お嬢様サイエンスクラブの部室に集まった。
トークイベントの前にエリーが紅茶をいれてくれた。
あたしは落ちこんでいて、思わず言ってしまった。
「あたしたち、努力したよね。なのに、誰にも認められなくて、岸は捕まって……」
「いいえ、乙女様。わたくしたちは、やりとげましたわ。りっぱに、やりとげましたわ!」
とエリーは、はげましてくれた。
「乙女、麗様を見て元気を出そうぞ」
美紅は、そう言いながらモニターのスイッチを入れた。「月白麗スペシャル・トーク・イベント」の画面が映し出される。
「待ちきれないのぅ~!」
美紅は、はしゃいでいた。あたしたちは静かに、はじまるのを待っていた。
午後1時。麗様のトークイベントがはじまった。
「今日は僕のイベントに集まってくれて、ありがとうございます。学生の皆さんは春休み中ということでね、気軽に楽しんでいってください」
それから麗様は、最近は簡単な料理をしていること、友達が飼っているウサギのことなどを話した。
「僕は休日は、おいしい物とかでエネルギーをもらっています。皆さんも、休める時はしっかり休んで、勉強・お仕事を頑張ってくださいね。最後にプレゼントがあります」
「プレゼントじゃと?」
「生まれてはじめて曲を作りました。聞いてください。タイトルは『君たちの物語』です」
麗様はギターを弾きながら歌いはじめた。
それは科学室にある ちいさなクラブで
お嬢様だと思ってた君も 戦っていたんだ
そんな君たちの物語 僕は歌う
曲が終わると、スタッフの人らしい拍手の音が聞こえて、そしてトークイベントの配信は終わった。
「これって……まるで、あたしたちのことみたい」
と、あたしはつぶやいた。シュウちゃんは言った。
「わたし、麗様に手紙を書いたの。『お嬢様サイエンスクラブは正義のために戦っています。麗様が支えです』って書いた。勘違いでもいい。この曲は、わたしたちへの曲だよ」
それから、シュウちゃんは静かに泣きながら言った。
「わたしも本当は怖かったんだ……」
美紅はシュウちゃんをなぐさめようと
「シュウ……ちゃん……」
と言いかけたけど、泣きだしてしまった。
エリーは
「わたくしたちは……正義の……味方……」
と言いながら泣いた。
推し俳優とゲームを中心に回っていた、あたしたちの世界。
……おかえりなさい。
そんな世界が愛しくて愛しくて、あたしも泣いた。