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9 狩り

初戦闘回です。

 地表を焼き焦がすような陽光が、蒼天から降り注いでいる。

 あちこちに散在する岩石や地面に敷き詰められた砂は、長時間熱せられたことにより、素手で触れれば火傷してしまいそうなほどに熱い。

 そして、それは俺の身につけている金属製の防具も同じだった。

 一応狩りの合間に<体感温度低下Lv1>のバフをかける<クールウォーター>というアイテムを飲んでいるので、耐えられないほどではないがそれでも密度の高い防具の内部は、流れ出る汗と籠もった熱気により、なかなか不快度の高い空間となっている。

 new worldでは発汗すらもリアルに再現されている。流石に運動することで体温が上昇したりはしないが、暑いところにいけば、自然と肌から汗がにじみ出る。

 最初はその技術に感動もしたが、慣れてくるとただただ不快で、鬱陶しいだけの要素だ。

 ────全くいたらんリアリティを追求しやがって。

 心中で制作スタッフに対し、毒突く。

 Lv2のバフをかける<アイススカッシュ>を飲めば汗をかくこともなく快適に過ごせるだろうが、このアイテムはなかなか値が張るため、狩りの度に購入すると出費が馬鹿にならない。

 ユウのサブ職業である薬師なら素材アイテムから生産することもできるが、そもそも必要な素材アイテム自体がそこそこ手に入りにくいものなので、俺達は仕方なくLv1のバフで我慢している。

 ここは、サイファーから北東へ30分ほど歩いた先にある岩石砂漠地帯だ。街に近い狩り場はプレイヤーも多く、狩り場の占領や順番待ちの割り込み、獲物の横取り等、トラブルの種も多い。そのため俺達は基本、他のプレイヤーと出くわすことのない外れのエリアまで遠出して狩りをしている。

 そして視線の先には、砂塵を巻き上げながら猛スピードでこちらに向かってくる集団があった。


「ユウ! 前方から<デザートウルフ>7体! 向こうもこっちに気づいている!」


 俺は、右後方4mの位置にいるユウに呼びかける。

 デザートウルフは黄土色の毛皮を纏ったオオカミ型のモンスターだ。

 こちらとの距離は20mほど。これだけ離れていれば、普通のモンスターにはまず発見されないが、デザートウルフは索敵範囲が広く、また4~8匹の群れで行動するため、手早く処理していかないと、1つの群れの相手をしている間に他の群れがやってきて、そのまま数に押し潰されるというようなことになりかねない。

 俺は両手剣を片手持ちにし、その切っ先をデザートウルフの群れに向ける。すると、俺の周囲に赤色のエフェクトが生じた。

 これはふざけているわけじゃない。<挑発>という自分へのヘイトを上昇させ、周囲のモンスターを引きつける歴とした戦闘用のスキルだ。

 デザートウルフは、素早い動きで俺との距離を詰めてくる。

 その距離12m......11m......10m。


「よし! 射程圏内に入った!」


 叫ぶと同時に俺は剣を引き、踏み出した右足に重心を乗せ、姿勢を低くした。

 new worldでは、使用するスキルをイメージしつつ、スキルごとに決められた予備動作をとることで、スキルを発動できる。1度発動すれば、後はシステムがプログラムされたモーションをプレイヤーの体で勝手に再現してくれる仕組みだ。

 別にスキルを使わなくても武器を振るって攻撃することで、ダメージを与えることはできるが、スキルを用いた攻撃に比べると、攻撃力も攻撃速度もかなり落ちる。

 俺は重心を右足に乗せたまま、防具と同じ黒色の刀身の両手剣を水平に振るった。デザートウルフとの距離はまだ遠く、当然剣は空を切る。

 しかし、その剣先の軌跡に光が宿った。光は三日月状の刃となってデザートウルフの群れに向かって飛ぶ。

 これが、俺が習得している唯一の両手剣用遠距離攻撃スキル<真空裂斬>だ。

 刃は群れの前列にいた2体のデザートウルフの体を捕らえ、蛍光レッドのHPバーを3割ほど削った。

 攻撃を受けたデザートウルフが仰け反ったことで、群れ全体の脚が止まる。


「今だユウ!」

「オーケー!」


 俺の呼びかけに応じて、すかさずユウもスキルを発動させた。

 ユウの持つ杖の先端が一瞬青く光り、続いてデザートウルフの群れの中心部により強い光が出現した。そして、光を中心に冷気の渦が発生する。

 冷気の渦は群れ全体を飲み込み、全ての個体のHPが4割ほど減少する。

 氷属性範囲魔法スキル<フリーズゾーン>。

 氷属性はデザートウルフの弱点属性ではあるものの、この魔法は元々の威力が低いため、与えられるダメージもそこそこだ。しかし、この魔法にはある追加効果がついている。

 冷気の渦が消えると同時に、3体のデザートウルフが俺の方へと向かってきた。だが、残りの4体は全身が凍り付き、動けないでいる。

 これこそがフリーズゾーンの追加効果だ。60%の確率で相手を<凍結>の状態異常にし、その場に拘束する。もちろん60%という確率では、全ての個体の動きを止めることはできない。だが、半分以上止めることができれば上出来だ。

 フリーズゾーンの効果を受けなかった3体のデザートウルフが、俺に向かって飛びかかってくる。与えたダメージはユウの方が大きいにも関わらず、俺を狙ってきたのは挑発によるヘイト上昇があったからだ。

 俺は自身の体格ほどもある両手剣の刃を寝かせて、その後ろに身を隠し防御態勢を取る。


「ユウ!」


 そして、デザートウルフの攻撃を受け止めると同時に<シールドバッシュ>を発動させた。防御態勢のまま両足で地面を蹴り、突進をかける。

 シールドバッシュは攻撃力はほとんどないが、前方の敵に体当たりをして、態勢を崩すことができるスキルだ。そして、その効果通り、体当たりを受けた3体のデザートウルフは吹き飛び、地面に横たわる。

 続けて、その頭上にボーリング球くらいの大きさの六角錐の氷塊がいくつも出現し、態勢を崩したデザートウルフ達に降り注いだ。

 <フリーズレイン>。フリーズゾーンと同じ氷属性範囲魔法に属するスキルだが、こちらは凍結の発生確率が20%と低い代わりに、威力が高めに設定されている。

 氷塊の直撃を受けたデザートウルフのHPバーが一気に減少し、その全てが真っ黒に染まった。

 視界右側のメッセージログに、経験値とドロップアイテム獲得のメッセージが表示される。

 HPを失ったデザートウルフの体は、瞬く間に色素を失い、次の瞬間ガラス細工のように砕けて消滅した。

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 凍結状態が持続するのは7、8秒ほど。既に自由になった残りのデザートウルフ達が、こちらに迫ってきている。俺は再び防御態勢を取って、攻撃を防いだ。

 こいつらもさっきと同じやり方で倒せればいいのだが、new worldのスキルは、リキャストタイム制で、1度スキルを使うと、個別に設定されたリキャストタイムが経過するまで、同じスキルを使用することはできない。

 だから今度は別のスキルを使う。

 俺は両手剣を引き、上半身を左に大きく捻った。

 このスキルは、防御態勢からは繋げられないので、この予備動作の間は俺の体は無防備になり、1、2秒だがデザートウルフの攻撃をモロに受けてしまう。

 だが、問題ない。俺の防具は、全防具カテゴリーの中で最も防御力に優れた<重金属鎧>だ。複数とはいえ、通常モンスターの攻撃を数秒食らった程度では、HPは2割と減らないし、おまけにこの防具には<スーパーアーマー Lv1>の特殊効果がついている。そのためダメージによって仰け反り、動作がキャンセルされるといったこともない。

 俺はそのまま剣を水平に振り、まとわりついていた4体のデザートウルフを全て切り払った。しかし、これで終わりではない。右足を軸に体を独楽のように回転させ、間髪入れずに2撃目3撃目を当てる。2回転したところで、体は動きを止めた。

 これが両手剣用範囲攻撃スキル<大車輪>だ。

 連撃を受けたデザートウルフは、それぞればらばらの方向に吹っ飛んでいく。そして、その内1体のHPが0になり消滅した。

 あの個体は、最初に真空裂斬の直撃を受けてHPを減らしていた2体の内の1体だ。ちなみもう1体の方は、先ほどのフリーズレインで既に倒されている。

 残りは3体。同じスキルを当てているので当然だが、どの個体もHPは1割を切っている。


「ユウ! 右の2体頼む!」


 両手剣を地面と平行に構え、俺は両手を後ろに引いた。そして強く足を踏み込み、ダッシュ攻撃スキル<鉄穿牙>を発動させる。

 両足で地面を蹴り上げると、俺の体はロケットのように加速した。一瞬にして数mの間合いを詰め、その勢いのまま、まだ態勢を立て直している最中のデザートウルフに向かって、両手剣を突き出す。

 剣先がデザートウルフの胴体を捕らえ、後方へさらに大きく吹き飛ばした。そして、デザートウルフの体は空中で崩れ去り消滅する。 

 ユウの方へと振り返ると、丁度地属性範囲魔法スキル<ロックスピアー>によって、地表から出現した岩の槍が、2体のデザートウルフを貫き、HPを0にしたところだった。

 メッセージログが更新されると共に、甲高い金管楽器のファンファーレが鳴り響く。

設定小話 No.1

○両手剣スキルの解説1

大車輪

両手剣用範囲攻撃スキル。

左に引いた剣を振りながら2回転するスキル。

最後は剣を左から右に振り切るため、後方180°は2連撃だが、前方180°に対しては3連撃となる。

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