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5 回線

『共通模試で学年1位だった? その程度のことで喜ぶな。兄さんがお前と同じ歳の頃は全国3位だったぞ』

『部活動をやるのはお前の勝手だが、成績を落とすことは許さんぞ。兄さんのように、進学に有利になるほどの実績を残せる才能もないんだ』

『合格した? 第一志望に受かることなど最低条件だ。兄さんのように首席合格できなかったことを恥じろ』

『198人中24位だと? 兄さんはテニスをやりながらでも、1位以外を取ったことがないぞ。部活をやっていないお前がこの程度の成績でどうする?』


 今まで生きてきて、親から褒められた覚えがほとんどない。

 聞かされるのは兄さんはもっと......兄さんだったらという言葉ばかりだ。

 勉強、スポーツ、人付き合い、あらゆる才能を持って生まれた紛れもない天才の兄貴。俺がどんなに努力しても兄貴と比較され、失望される。

 だとしたら、俺は一体何のために努力しているのだろうか。

 絶対に敵わない。並ぶことすらできず、認められることもないのなら、一体今まで何のために俺は必死で......。


 

 

 目を覚ますと、茶色い木製の天井が目に映った。

 身を起こし、後頭部を掻きながら嘆息する。


「......嫌な夢見ちまったな」


 俺はもうあの世界に戻らなくていいんだ。

 他のプレイヤーにとってはどうかしらないが、俺にとって今の状況はそう悪いものではない。




 半周年記念アプデ(あれ)から、半年が経った。

 しかし今も、俺達はこのnew worldに囚われたままでいる。

 すぐに事態が解決すると考えていた大多数のプレイヤー達も3日も進展がなければ、今の事態が尋常ではない。そして、半周年記念アプデの文面が事実ではないかと考えるようになった。

 しかし、その時には既に500人ほどのプレイヤーが死亡していた。

 たった数日の間にこれだけの犠牲が出た最大の要因は、やはり危機感の欠如だろう。犠牲になったプレイヤーのほとんどは、半周年記念アプデの内容を信じず、これまで通り、街の外で戦闘を行い死亡している。

 だが、それも無理からぬ話だ。現実とは違い、この仮想空間では死に実感を持つことが難しい。

 new worldでは、HPが0になったプレイヤーのアバターはその場で消滅し、幾ばくかの経験値と所持金をロストした上で宿屋などのリスポーン地点に戻される。

 無論、半周年記念アプデ以降HPが0になったプレイヤーがリスポーン地点で復活することも新たにプレイヤーがログインしてくることもなくなったが、所詮はその程度だ。現実の状況など確かめようもなく、ましてやあんな簡易的な通知によるデスゲーム開始宣言では、死に対する意識が希薄になってしまうのも当然と言えた。

 とはいえ、大勢のプレイヤーがnew worldからログアウトできなくなっているのは紛れもない事実だ。

 以前俺がユウに説明したように、半周年記念アプデの文面が嘘であるならば、外部からプレイヤーの装着しているVダイバーを引き剥がせば、事態は解決するはずだ。しかし、そうなっていないということは、現実でもVダイバーを取り外せない事態が起こっているということになる。

 さらに半周年記念アプデから3日が経った頃、突如としてネットワーク回線を切断されるプレイヤーが続出した。切断された時間には個人差があり短くて数秒、長くて30分ほど。そして、多くのプレイヤーは1度回線が復旧した後、数十分から数時間のインターバルを経て、もう1度回線を切断されている。

 おそらくこの時に、現実の俺達の体は病院などの介護施設に搬送されたのだろう。

 電気信号の出力が引き上げられる条件はゲーム内で死亡した場合、外部からVダイバーの取り外しや破壊が試みられた場合、そして1時間以上のネットワーク回線切断、またはVダイバーのバッテリーが40%を切った場合だ。つまりネットワーク回線を切断しても、1時間以内に病院に運び込み、回線を接続し直せばプレイヤーの脳が破壊されることはない。バッテリーについても、満タンまで充電すれば15時間は持つため、搬送中にバッテリーが40%を切るということはまずないだろう。最もそのバッテリーのおかげで、電源ケーブルを引き抜いても電気信号の出力を致死レベルまで引き上げることが可能なのだろうが。

 とはいえ、住んでいる場所によっては1時間以内に病院に運び込むことが難しいプレイヤーもいるはずだ。寝たきりのプレイヤーを介護するとなるとそれなりに設備の整った病院でなくてはならないし、搬送の最中に突発的な渋滞に遭遇することもありえる。

 だから大半のプレイヤーは、一旦持ち運びが可能なモバイルルータを使って回線に接続し直し、搬送完了後は病院の業務用ルーターから回線へ接続するという手順を経ているはずだ。これなら回線が2度切断されたことや数秒という短い間隔で回線が復旧していることにも説明がつく。

 だがこれも逆に言えば、そうせざる負えない事態が現実で起きているということの証明になる。

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