46 ユウ
*****************************************************
拝啓 カズキ様
このメールが届いているということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。
このメールは時間指定機能により、私の死後、自動で送られるようになっています。
もしかしたら、死んだ人間からメールが届いたと大層驚かせてしまったかもしれません。
時間指定機能がプレイヤーの死後も機能すると知ったのは、私自身つい最近のことでした。
......うん。一応遺言みたいなものだし、ちゃんとした文体で書こうと思ったけど、違和感凄いからここからは普通に書くね。
俺自身new worldをクリアすると決めて最初のボス戦の前に、遺言を書き始めるのは後ろ向きだなぁとは思ったけど、現にこうしてカズキに届いているわけだし、用意しておいて良かった。
わざわざこんな形でメッセージを残したのは、カズキにお願いがあるからなんだ。
メールの後半に、俺の両親に当てた手紙が書いてある。実家の住所とか電話番号も一緒に書いておくから、もしカズキが生きて現実に帰れたら、俺の代わりに両親に内容を伝えて欲しいんだ。
面倒臭いお願いしてごめん。でも、こんなことを頼めるのは、カズキだけなんだ。
それにしても、俺ってどんな感じで死んだのかな?
まあ、俺のことだから、ドジ踏んで、馬鹿な死に方してそうな気もするけど。あんまりかっこ悪くない最後だったらいいな。
念のために言っておくけど、俺が死んだことをカズキが気に病む必要はない。
攻略は死と隣り合わせだ。
死ぬかもしれない。それを覚悟した上で、俺は現実に帰るために、攻略に参加するって決めたんだ。死んでもいいだなんて思ってはいないけど、たとえどんな終わり方だったとしても少なくとも俺は、攻略に参加したことを後悔はしていないと思う。
これからもカズキはゲーム攻略を続けるのかな。俺はカズキが何で攻略に参加しようと思ったのかは知らないけど。別に戦うのが怖くなったら、街にこもっていい。どんな道を選んでもいいから、俺はカズキに生きて欲しいと思っている。
俺はカズキがどこで暮らしているのかも本名も知らないけれど、それでも親友だと思っているからさ。
......こういうのってどう締めればいいのかな。
まあとにかく、カズキは当分こっちには来ないように。
俺は残念ながら、志半ばで死んでしまったけど、カズキはちゃんと現実に帰って、そこで後悔のないように生きてくれ。
それじゃあ、7、80年後くらいにまた会おう。
*****************************************************
俺へのメッセージは、そこで終わっていた。
────ユウ!
思わず目を瞑る。
そうしなければ、溢れそうになる涙を抑えられそうに無かった。
そこで一旦文章は切られ、また別のメールに続いていた。
おそらくこの先は、両親へ当てたメッセージが綴られている。両親に当てた個人的な文章を読むのは抵抗があったが、読まなければ伝えることもできない。
俺はウィンドウを操作して、次のメールを開いた。
*****************************************************
父さん。母さん。
生きて現実に帰れなくてごめんなさい。
現実に帰ったら、今までのことちゃんと謝ろうと思ったんだけど、俺は死んでしまったみたいだから、親友のカズキに代わりに俺の言葉を伝えて貰います。
まず最初に、俺は現実に帰るために、自分の意思でこのゲームを攻略することを決めました。決して誰かに唆されたわけではありません。
だから俺が死んだことについて、カズキに責任はありません。むしろ、カズキは最初攻略に参加することに反対していました。どうかカズキに恨み言を言うようなことはしないで下さい。
後、タメ口は照れくさいので、こっちはあえて敬語でいきます。
本題に戻ります。
俺は今まで周りの親切に酷く無関心でした。
引きこもっている俺に、毎日ご飯を用意してくれたり、服を洗濯してくれたり、気遣って声をかけてくれたり、そういった親切を当たり前のことと考え、その有り難みを理解しようともせず、逆に自分の中に渦巻く不平不満ばかりに目を向け、周りに当たり散らしてばかりいました。
もし、生きて現実に帰ることができたなら、今まで俺が与えて貰ったものを少しずつ返していこうとも思っていたのですが、残念ながらそれはできませんでした。
今までずっと、俺はやらない理由ばかり探していたように思います。
引きこもっているだけじゃ何も変わらない。部屋から出て前に進まなければならない。頭では分かっていても、周囲の視線が怖い。また、何かの拍子に恥をかくかもしれない。そう考え、いつか、またいつかと行動を先延ばしにし、引きこもり続けていました。
当然時間が何かを解決してくれることはなく、それどころか今更復学しても勉強についていけない。かといって今の俺の学力で卒業できる高校に転校したところで、まともな進学先も就職先もないと、やらない理由はどんどん積み上がっていきました。
それらのやらない理由が、行動しないただの言い訳という自覚はあったことから、日に日に自己嫌悪の思いは強くなり、次第に自分に期待することもできなくなって、いつしか本当に自分にできることなどないと考えるようになっていきました。
いや、今にしても思えばできないと思い込もうとしていたのかもしれません。
未来に希望を持って努力し、それでも求めていた結果を得られなかったら、深く傷つくことになる。でも、初めからできないことにしておけば、少なくともそれ以上は傷つかないで済むから。楽だから。
俺は自分の無能を盾にして、努力することから、人生と向き合うことからずっと逃げていました。そして、そのことを認めるのに、こんなにも時間がかかってしまいました。
何一つ褒められるところの無かった息子でごめんなさい。
それでも自分で言うのもなんですが、最後の方はちょっとだけがんばりました。
この仮想世界に閉じ込められている間、今までの自分の人生や現実のこと、これからのことについてたくさん考えて、そして、これまでの人生の十分の一にも満たないほど、ほんの僅かな時間ですが、俺はこの理不尽な現実と戦いました。現実に帰るために、自分の理想のために、本気で命を賭けて。
だから、たとえどんな最後だったとしても、悔いはあっても後悔はしていないと思います。
こんな親不孝者の俺を今まで支えてくれて、思ってくれて、ありがとうございました。
何一つ成し遂げることのできなかった人生だけど、俺はあなた達の息子に生まれて良かったと思っています
榊祐
*****************************************************
メールの最後には、ユウの実家の住所と郵便番号、電話番号が書かれていた。
ユウが俺に託した、今までの人生の後悔と両親への謝罪と感謝が込められた遺言。
あいつもずっと悔やんでいた。
人生と向き合えなかったことを。現実に立ち向かえなかったことを。
でも、自分の弱さを認めてやっと未来に向かって歩き始めることができたのに────奪われた。理不尽に。
『何一つ褒められるところの無かった息子』
────本当にそうか?
『何一つ成し遂げられなかった人生だけど』
────違う!
確かにニートだったあいつは、世間から見れば立派な人間じゃなかったかもしれない。
でもお前は......俺の命を救ってくれたじゃないか。
気づけば、目からこらえたはずの涙が溢れていた。
キングが自爆すると誰よりも早く気づいていながら、自分の身も顧みず、俺を助けてくれた。
もちろん、死ぬ気は無かっただろう。俺を助けて、自分も生きるつもりだったはずだ。それでも自分の防御力では、逃げ遅れれば死ぬ可能性が高いことは分かっていたはずだ。
にも関わらず......俺を助けるために、自ら死地に飛び込んだ。
────普通出来るか!? そんなこと!
あのボス戦で、誰もが戦意を喪失し逃げ惑う中、あいつは生きるために、たった1人でキングに立ち向かった。
死の恐怖を必死で押さえ込みながら懸命に立ち向かうその姿が、俺やサキ達に勇気を与えた。そして、最後にはあいつの叫びが、大勢のプレイヤーを動かした。
ユウがいなければ、俺達は全滅していただろう。ユウがいなければ、俺は女の子達を見捨てていたはずだ。
あいつは大勢の人間の命を救ったんだ。凄いことを成し遂げたんだ。
ステータス上の強さだけじゃない。あいつこそ、正しい心を持った本物のヒーローだ!
頬を伝った涙が机に落ちる。
机の上の拳を、俺は更に強く握りしめた。
────伝える! 俺が! ユウの両親に、ユウの残した言葉を!
あいつが最後の瞬間まで、どれだけ気高く生きたかを!
「......ってぇ、生き残ってやる」
決意とともに呟く。
1度では足りずもう1度、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で俺は呟いた。
「ぜってぇ......ぜってぇ......死んでもっ.....死んでもっ......生きて現実に帰ってやる!」




