表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/47

45 フレンドメール

 その後は、ずっと夢の中にいるような気分だった。自分が自分でないような、まるで画面越しにコントローラーで、自分の体を操作しているようなふわふわとした感覚。

 キングの自爆の後、ボス部屋中央の地面がガラガラと崩れて、さらに下層へ降りるための階段が発見された。エドが少し降りてみたところ、メッセージログに『ダンジョン:<黄泉の穴>を発見しました』というメッセージが表示されたらしい。

 new worldでは街やダンジョンを訪れると、初回限定でその名前がメッセージとして表示される。

 だが、黄泉の穴を探索しようとする者は誰もいなかった。爆発に巻き込まれて死んだプレイヤーはユウ以外にも何人かいたらしい。それまでの盛り上がりが嘘のように、ボス部屋は静まりかえっていた。

 街まで自分の足で戻る気力のある者はおらず、皆俯いた様子でメニューウィンドウを操作し、帰還の水晶を実体化させ、1人また1人とダンジョンから脱出していった。

 俺も周りと同様に帰還の水晶を使用し、シスルへと帰還した。

 転移する直前、ミキヤとサキがこちらに向かって走りながら何かを言おうとするのが見えた。待っていればすぐに2人とも転移してきただろう。しかし俺はそうせず、虚ろな足取りで宿屋の自分の部屋に戻った。

 部屋に入ってすぐにメニューウィンドウを開き、武器と防具を除装する。そして無造作に、ベッドに倒れ込んだ。

 もう......何も考えたくなかった。




 ────今何時だ。

 1度日が落ち、昇ってまた夜になったのは記憶しているが、この部屋には時計がないので正確な時間は分からない。その疑問はメニューウィンドウを開くだけで解消できるだろうが、そんな気力は残っていなかった。

 真っ暗になった宿屋のベッドの上で俺は仰向けになり、何をするでもなくただ虚空を見つめ続けていた。

 ────ユウが死んだ。それも俺を庇って。

 倒したモンスターの自爆。new worldではまだ発見されていないが、ゲームでは稀にある要素だから気をつけろと以前、ユウが言っていた。

 所謂初見殺し。

 とはいえ、全くヒントが無かったわけではない。

 ボスモンスターの死体は通常モンスターと違い、しばらくの間その場に残るが、普通とどめを刺した瞬間に、経験値獲得とボス戦クリアのメッセージが表示されるようになっている。

 だが、あの時はいつまで経ってもメッセージが表示されなかった。

 加えてブラストリザードは、爆発性の鉱物を好んで捕食するという設定だ。あれほどの巨体を持つキングなら、通常のブラストリザードより遙かに多くのエネルギーを体内にため込んでいてもおかしくはない。

 気づける要素はあった。どうして、せめて後5秒早く気づけなかったのか。

 いや、本当は分かっている。

 俺はあの時、自分の力に酔っていた。

 new worldに囚われた6万人のプレイヤーの中で、限りなく頂点に近い実力を得た自分に昂揚していた。

 ほんの些細なミスが、この世界では死に繋がる。この世界がいかに残酷で理不尽であるかをあの瞬間、俺は忘れてしまっていた。

 そして、その慢心がユウを死なせてしまった。

 ────俺がユウを殺した。




 俺には現実に帰らなくちゃならない理由がある。

 だが、そのことをどれだけ頭で考えても、立ち上がる気力は湧いてこなかった。

 もうどうでもいい。このゲームがクリアされようが、攻略組が全滅して永遠にこの世界に囚われることになろうが、どうでもいい。

 しばらくして突然『ピッピッピッピッピッコーン』と小うるさいアラーム音が、頭の中に響いた。

 この音には覚えがある。

 メールの受診音。それもインスタントメールではなく、フレンドメールの受診音だ。

 ピンポンダッシュさながらに立て続けに音が鳴ったのは、恐らく同時にいくつもメールを受診したから────待て。フレンドメールだと!? 

 俺は反射的に上体を起こした。

 ユウ以外にも流れでフレンドになったプレイヤーもいるにはいるが、そういった相手とは結局その場限りで、今はもう連絡を取っていない。ミキヤ達ともフレンドになる前に別れた。

 ────一体誰からだ? まさか......。

 言い知れぬ予感とともに俺はメニューウィンドウを操作し、フレンドメールの受診ボックスを開く。受診ボックスには、新たに5通のメールが届いていた。


「......っ!?」


 そして、その差出人の名前を見て、俺は目を見開く。

 差出人はユウだった。

 題名は全て『カズキへ』で始まっており、その後にそれぞれ番号が振られている。

 ────何故、ユウからメールが!?

 俺はとりあえず①と記載されているメールを開き、最初の数行に目を走らせた。



*****************************************************

 

 拝啓 カズキ様

 

 このメールが届いているということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。

 このメールは時間指定機能により、私の死後、自動で送られるようになっています。

 もしかしたら、死んだ人間からメールが届いたと大層驚かせてしまったかもしれません。

 時間指定機能がプレイヤーの死後も機能すると知ったのは、私自身つい最近のことでした。


*****************************************************



  ────これは遺書!?

 書かれている内容に驚きながらも俺は思い出す。

 フレンドメールには時間指定機能があり、設定した日時に自動でメールを送信することができる。

 つまり、これはユウが自分が死んでしまった時のために、残しておいたメッセージ。

 メールが複数あるのは、文字数制限により一通に内容が収まらなかったからだろう。時間さえ指定しておけば、本人がログアウトしていてもメールは自動送信されるが、送信者が死んでもメールが送信されるというのは俺も知らなかった。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 俺は立ち上がり、部屋の隅にある机とセットの椅子に腰をかけた。

 これがユウの遺書だというのなら、ベッドの上で軽々しく読むわけにはいかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ