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43 覚醒

「逃げるなあっ!」


 突如、ボス部屋に声が響いた。

 周囲の視線が一斉に声の出所へ向く。

 叫んだのはユウだ。


「分かっていたことだろう! 未踏破のエリアに挑む以上、絶対安全なんてことは有り得ない! こういう不測の事態や初見殺しに遭遇する可能性があることくらい想定していたはずだ!」


 立ち上がり、ユウは言葉を継ぐ。

 途中、キングが右前足を振りかぶったのを見て、俺は再び防御態勢を取った。


「ただ生き延びたいだけなら! 街にこもるなり、データの揃ったエリアでずっと安全な狩りを続けていれば良かったんだ!」


 それはかつての俺達自身のことだった。


「それでも......危険を承知で! 攻略に参加しようと決意したのは何のためだ!」

 

 この2年間の付き合いの中で、最も強い口調で、強い語気でユウが叫ぶ。

 それは周囲のプレイヤーというより、自分自身に向けられているように思えた。


「このゲームをクリアして! 生きて、現実に帰るためだろう!」


 周囲の空気が変わった。

 死の恐怖を前に見失ってしまっていたが、ここにいる1人1人が確かに持っていたはずなのだ。

 命をかけて戦うに値する理由を。


「俺達だっていつまでも持つ保証はない! 1度崩れたら、後は1人1人殺されていって、最後には全滅するだけだ!」


 それはまぎれもない事実だった。

 認めなくない。理不尽で目を背けてしまいたいが、逃げることの出来ない。今、俺達が直面している現実だった。


「逃げるな......」


 絞り出すように、ユウが呟く。


「生きたいんだったら、戦え......戦ぇえええええええええええええええええっ!」


 その叫びを最後に、ボス部屋から声が消えた。

 無論、俺やミキヤ達も手を止めている余裕は無い。

 キングと戦う俺達の戦闘音だけが、ボス部屋に響いていた。


「そうだ......俺は現実に帰って。もう1度家族に会うんだ」


 ぽつりと誰かが呟いた。


「私も現実でやり残したことが、まだまだたくさんある」


 続いて、誰かが言った。


「僕も」

「俺も」

「俺だって......」


 ボス部屋のあちこちから声が上がった。

 戦う理由は違えど、今この場にいる全員が同じことを考えていた。


「こんなところで......死んでたまるかっ!」


 誰かが叫んだ。

 それがきっかけだった。

 何人かのプレイヤーが、メニューウィンドウを操作し、エリクサーを実体化させ、一息に飲み干した。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 HPが全快すると同時に、雄叫びを上げ、キングに向かって走る。

 そして側面から胴体へと攻撃を始めた。


「エリクサーを持っていないプレイヤーは集まれ! 範囲魔法でまとめて回復する!」


 右半身側にいたプリーストの呼びかけに従い、集まってきたプレイヤー達の足下に白く輝く巨大な魔方陣が出現する。

 <リザレクション>。リキャストタイムこそ7分と長いが、魔方陣の上にいる味方のHPを大幅に回復することができる範囲回復魔法スキルだ。

 左半身側でもサキがプレイヤーを集めて、リザレクションを発動していた。

 そして、全てのプレイヤーの回復が完了し、キングの左右から嵐のような攻撃が押し寄せる。

 ────伝わった!

 ユウの叫びが。魂が。他のプレイヤー達に伝播した!

 煩わしげにキングが再度三日月攻撃を繰り出してくるが、今度は全員が回避するか武器で受けるかで各々対処する。まともに食らったプレイヤーは1人もいない。

 この場にいる全員が、凄まじい集中力を発揮していた。生きようとする強い意志が、死の恐怖をも上回った。

 両サイドからの立て続けの攻撃に、キングは苦悶の叫びを上げ、身をよじらせる。

 怯みによって攻撃が止んだ隙をつき、E隊の大盾持ち2人が俺のそばに駆け寄ってきた。


「すまない! ずっとお前だけにタゲ取りをさせて! ここからは、俺達が代わりに支えるから一旦交代して休んでくれ!」


 2人の目には、火が灯っていた。

 死の恐怖が消えたわけではない。だが、それでも今はただ生き残るために全力を尽くす。

 そんな強い意志が宿っていた。 


「ぐっ......!」


 今度こそ、こみ上げてくるものを抑えきれず、目に涙が浮かんでくる。

 心強い。そして、暖かかった。

 まだ助かったわけではない。ほんの少しのミスが命取りになる状況は変わっていない。

 だが、それでも一緒に命をかけてくれる。

 この理不尽な現実に一緒に立ち向かってくれる仲間が、こんなにもいる。

 それが只々有り難かった。


「いや、俺は大丈夫だ! それよりも2人は尾の攻撃が来た時のために、左半身側についていてくれ!」


 気持ちを切り替え、指示を出す。

 驚きつつも2人は頷き、キングの左半身側に回り込んでくれた。

 他の近接武器持ちは、エドのいる左半身側に集まっている。

 キングやクイーンの尾を振る攻撃は、攻撃範囲が凄まじく広く、接近しているとかわすことができない。エドの片手剣を2本とも防御に使えば、両手剣と同等のガード性能を得ることが出来るため、クイーンの攻撃は防御できるが、エドは鉄壁の陣の様なガード性能を上昇させるスキルを持っておらず、より強力なキングの攻撃はガードできない。

 そのため今までは先ほどの俺と同じように、尾の攻撃に合わせてエドがスキルを発動し相殺していた。とはいえ毎回相殺が成功するとは限らないし、もし失敗すれば、左半身側の近接武器持ちは全員大きなダメージを負ってしまう。

 全武器中最高のガード性能を持つ大盾なら、キングの攻撃もガードすることができるため、俺とカイトがクイーンとの戦いでやっていたように、尾から他のプレイヤーを守る壁になれる。

 まあ、相殺を失敗するとピンチになるのは俺も同じなのだが、少なくとも俺が回復して戻ってくるまではユウが場を持たせてくれるだろうし、ここはアタッカーの安全を優先したい。

 そしてなにより────さっき攻撃を相殺し続けている時に感じたあの感覚。

 これから先も続く長い戦いを生き残っていくためには、あの感覚を自由に引き出せるようになっておきたい。感覚を取り戻すならできる限り、間を開けない方がいいだろう。


「......もう1度だ」


 2度目の鉄壁の陣のバフは、もうすぐ切れる。

 キングの前進しながらの噛みつきを、俺は鳳凰落としで受け止めた。

 ────ものにする! この戦いで! あの感覚を完全に掴んでみせる!

 続けて、真上から振り下ろされた左前足を昇竜ではじき返すと、キングは自身の体を丸め始めた。

 たとえタイミングが合っていたとしても、威力の大きい回転攻撃を相殺できるかは流石に微妙なところなので、素直に下がって攻撃範囲外に逃れる。

 ────もっとだ! 攻めろ! 感覚を研ぎ澄ませ!

 回転攻撃が終了した瞬間、俺は鉄穿牙を発動した。開いた距離を一気に詰め、キングの頭部に剣を突き立てる。

 しかし、この程度ではキングは怯まない。

 キングは1度頭部を持ち上げた後、勢いをつけ水平に振るってきた。

 ヤマトを殺した拘束攻撃。

 俺はすかさず覇道一閃で頭部の勢いを止め、さらにがら空きの首元を切りつける。今度は右前足が左から迫ってきたので、それもスキルで迎撃した。

 ただ、攻撃を相殺するだけじゃ駄目だ!

 攻撃しろ! 無駄な動きを減らせ! 僅かな隙も逃すな!

 そうして戦闘を続けていく内に、再び周りの動きが遅くなってくる。

 ────きた! あの時の感覚。

 もう離しはしない! 生き残りたければ......この場で進化しろ!

 自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと自身の感覚に身を委ねていく。

 相手の攻撃を相殺し、即座に反撃に移る。

 それを続けていく内に、自分の集中がどんどん深くなっていくのを感じた。

 相殺、相殺、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、相殺、攻撃、相殺、相殺、攻撃、相殺、攻撃、相殺、攻撃、相殺、攻撃。


「フッ......ハハハ.......」


 どれだけ時間が経っただろう。

 途中キングの動きが突然速くなったので、HPバーを確認してみると、残すは最後の1本のみとなっていた。

 ボスの行動の活性化は、HPバーが最後の1本となった際の変化としては、最もポピュラーなものだ。スピードが上がると、こちらの攻撃や防御のリズムも大きく変わってしまうため、下手な攻撃パターンの追加などよりもずっとやっかいだ。恐らく攻撃力も上昇しているだろう。 

 だが今の俺には、そんなものはなんの問題にもならない。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 こんな状況だというのに、歓喜の笑いが押さえられない。

 ────完全にものにした! 至高の領域!

 いける! 生き残れる!

 今の俺の実力は、攻略組のトップ層のプレイヤーにだって全く劣っていない!

 キングの攻撃の合間を縫い、左前足に攻撃する。

 もう何度目かも覚えていないが、蓄積したダメージによりキングが転倒した。それと同時にサキの放ったフラッシュボムがキングの頭部に直撃し、その頭上に螺旋状の小さなピンク色に光る帯が出現する。

 あれは混乱の状態異常を示すエフェクトだ。

 混乱状態になったモンスターは転倒時と同様に、しばらくの間行動不能となる。そして、この2つが同時に起こった時、モンスターの行動不能時間は大幅に延長される。


「一斉攻撃────っ!」


 エドの叫び声とともに、全てのプレイヤーが一斉にスキルを発動した。

 この状態なら近接武器持ちも発動後の隙を気にする必要が無い。大技の連発により、キングのHPがみるみる内に減少し、とうとう残り5割にまで減少する。

 俺はというと、攻撃には参加せず、逆にキングから大きく距離を取った。

 そして両手剣を上段に構え、後ろに大きく引きつける。

 バフマークが表示される空間の更に下。そこに空のゲージが出現し、左から徐々に赤色に染まっていく。

 ────ここまできたら、フィニッシュボーナスを狙う。

 ボスに対し、とどめの一撃を食らわせたプレイヤーにはフィニッシュボーナスとして多くの貢献度が加算される。

 キングが乱入するまで、俺は取り巻きのブラストリザードの相手しかしていなかった。恐らく現在の貢献度ランキングは1位がエド。2位がクイーンに止めを刺したミキヤ。3位がA隊の聖騎士。4位がユウ。5位が俺だろう。このままでも貢献度ボーナスは得られるが、トップを狙うならキングのフィニッシュボーナスを得る必要がある。

 これから先のことを考えると、ここでできるだけ多くの経験値を得ておきたいし、ボスのドロップ品も欲しい。

 ────大丈夫。今の俺ならやれる。

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