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41/47

41 自己満足

 遠心力が加わった尾が、こちらに迫ってくる。

 尾には剣山のように、鋭い棘がびっしりと生えていた。

 まともに食らえば、俺のHPは一撃で8割近く持っていかれるだろう。その威力に寒気を感じつつ、俺は大きく後ろに下がって、キングの尾の攻撃をかわす。

 ────どれだけ時間が経った?

 ブラストリザードの増援が来ていない以上、まだせいぜい5分経っているかどうかというところだろうが、体感的にはもう30分はこうしている気がする。

 途中聞こえた声を聞く限り、今カズキ達がクイーンと戦っているはずだ。

 ────戦況はどうなっている? 後どれだけ1人でしのげばいい?

 後方のカズキ達の様子を見て確かめようにも、視線をキングから切る余裕が無い。キングはクイーンと比べて攻撃と攻撃の間隔が短く、攻撃そのもののスピードも桁違いだ。

 一瞬でも意識を逸らしたら、その瞬間に終わる。

 HPが満タンの今なら、普通の噛みつきや尾、前足の攻撃はギリギリ耐えられるだろうが、威力の高い突進、火球、回転攻撃、拘束攻撃は、おそらく俺の防御力では一撃も耐えられないだろう。一応、突進と火球はキングとの距離を詰めておけば使ってこないみたいだし、予備動作の大きい回転攻撃は落ち着いて動きをみればまず当たることはないが、だからと言って安心などということは一切無い。

 ────全く我ながららしくないことをしてるなぁ。

 思わず苦笑してしまう。 

 普段の俺ならならきっと適当な理由をつけて逃げ出していたはずだ。

 でも、今俺が逃げれば、他のプレイヤーが犠牲になる。犠牲者が出れば、それだけこのボス攻略も難しくなってしまう。

 クイーンを遙かに超える強さのキングを倒すには、ここにいる全員の協力が必要不可欠だ。もちろん、生き残ったプレイヤー達が協力してくれる保証なんてないが、それでもこれ以上犠牲者を出すわけにはいかない。

 今逃げたらもっと辛くなる。ずっとそうだった。

 逃げても楽になったりはせず、逃げた分だけ、自信や気力が無くなっていって、どんどん立ち向かう勇気が持てなくなった。

 そうして自分をどんどん嫌いになっていった。

 ────でも、逃げ続けるのはもうやめたんだ!

 今度こそ、俺は変わる。そして......現実に帰る!

 目の前でちょろちょろし続ける俺に怒りを感じているのか、キングは激しい咆哮を上げ、左前足を振り上げた。

 俺は左に避けようと、両足に力を込める。しかしその時、突然足がもつれた。


「うっ!?」


 絶対に今起こってはならない凡ミス。それとも重度のプレッシャーが引き起こした必然なんだろうか。

 いや、理由を考えている暇は無い。この一瞬の間にもキングの前足はこちらに迫ってきている。

 ────回避間に合わない! 飛べ! 少しでも当たりを浅く!

 左に倒れ込みながら、俺は全力で地面を蹴った。

 振り下ろされた左前足が、僅かに体をかすめる。


「うわっ!」


 直撃こそ避けたが、それでも振り下ろしの衝撃を受けて、俺の体は左に大きく吹き飛ばされた。15m近く転がったところで、ようやく体は動きを止める。

 満タンだったHPは凄まじいスピードで減っていったが、残り3割のところでそれもなんとか止まった。

 だが、安心している場合じゃない。これでキングとの距離が開いてしまった。

 俺はすぐさま身を起こす。

 しかし、俺が距離を詰めるより先に、キングはこちらに向かって突進を繰り出してきた。


「うわぁあああああっ!」


 背後で聞こえた悲鳴に振り向く。

 俺から5mほど離れた背後の壁際に、2人のプレイヤーがいた。2人とも両手杖を持ち、防具は布鎧。

 2人のレベルやビルドは知らないが、布鎧ではまず突進を耐えることはできないだろう。

 さっさと逃げればいいのに、突然のことでパニックになっているのか2人は腰を抜かしてしまっていた。

 ────こういう状況を防ぐためにも、ずっと接近戦を続けていたっていうのに!

 突進や火球を警戒して、他のプレイヤー達は、俺の背後には立たないように逃げていた。だが、俺が後ろではなく左側に飛ばされたことで、2人を巻き込んでしまった。

 俺の敏捷なら今から回避行動に移れば突進をかわすことはできるだろうが、その場合2人は助からない。

 俺は両手杖を構え、キングの左前足に向かってアイスカッター────さらに詠唱無しで発動できる魔法スキルを片っ端から放つ。

 モンスターの各部位にはそれぞれ耐久値が定められており、ダメージを受ける度に耐久値は減っていく。そして、耐久値が0になると怯みが発生し、モンスターは少しの間だが無防備な状態となる。

 キングの1本目のHPバーはもう残り3割を斬っていた。

 これまでヘイトを稼ぐために当てていた攻撃は全て左前足に集中させている。足の耐久値が0になった場合、モンスターは怯みでは無く転倒状態になり、怯みより遙かに長い時間、その場に拘束することができる。そのため、今の俺のように時間を稼ぐ必要がある場合には、足に攻撃を蓄積させるのがセオリーだ。ヤマト達も左前足になるべく攻撃を集中させていたことは、クイーンと戦っている最中に確認している。

 とはいえ、ヤマト達A隊は全員が俺のように、遠距離武器持ちというわけではない。

 キングほどの隙の少ないボスが相手の場合、少しでもダメージを蓄積させるには僅かな隙も逃してはならない。

 遠距離武器持ちなら、その際狙った場所に攻撃を集中させることは難しくないが、ヤマトの様な近距離武器持ちは、その時々の位置関係で右前足などの他の部位に多少攻撃が分散しているはずだ。それに拘束攻撃を受けたヤマトを助ける際にも、俺やミキヤ達は左前足以外の部位に攻撃を当ててしまっている。

 実際、ボスモンスターが相手でもHPバーの4割もダメージを与えれば、まず確実にどんな部位の耐久値も0になるはずなのに、未だにキングは転倒していない。

 だがそれは逆に言えば、もういつ転倒したっておかしくないということだ。

 転倒させれば攻撃はキャンセルされる。誰も死なずに済む。

 だが、もしキングが転倒しなければ俺は死ぬだろう。そして背後の2人も。

 そうなったら俺は無駄死にだ。だったら、俺だけでも逃げたほうがいいんじゃないのか?

 死ねば現実には帰れない。

 両親に謝ることも、現実でもう1度やり直すこともできなくなる。

 こんな意味があるのかも不確かなことに命をかけるのは馬鹿なことなのかもしれない。俺のしていることは、ただの自己満足なのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。

 今思えば女の子達を助けた時だってそうだった。

 あの時、俺が助けたかったのは女の子達じゃない。俺自身だ。

 俺はずっと自分が嫌いだった。

 自分の殻に閉じこもり、何もかも周りのせいにして生きてきた。部屋に閉じこもって、やらない理由ばかりを探していた。

 このままじゃ駄目だと思っても変わる勇気を持てず、ただ時間を浪費していくだけの日々。得るものは無く、ただ時間と共に、自分の中の惨めさだけが積み重なっていった。

 でもそんな俺でも誰かを助けることができたら、少しは自分が価値のある人間だと思えるかもしれないと思い、カズキを巻き込んでまで女の子達を助けようとした。

 偽善だ。いや独善といってもいい愚かな行為だ。

 キングとの距離は狭まってきている。今から、回避行動に移っても間に合わない。

 ────怖い! 死にたくない!

 でも......もう止めたんだ! 何もしない内に、自分自身を見限るのは!

 少しでも可能性があるなら、諦めたくない!

 自分の心に正直に......胸を張って生きたい!

 だから......だから......。


「こんなところで、死んでたまるかぁあああああああああああああああ!」


 キングの左前足に、再度発動したアイスカッターがヒットする。距離的にもう次の魔法スキルを発動する時間はない。

 しかし、キングが態勢を崩すことは無かった。

 キングが間近にまで迫る。

 だがその時、右から黒い何かがもの凄いスピードで飛んできて、キングの左前足に激突した。

 左前足が体の内側に払われ、バランスを崩したキングは大量の土煙を上げながら、地面に倒れ込む。


「悪ぃなユウ......」


 突然のことに、思わず呆然としていると、いつの間にか正面に誰かが立っていた。


「俺はお前ほど強くねぇから......覚悟決めるのに手間どっちまった」


 その声はよく知るものだった。


「でも、もうお前を1人で戦わせたりしねぇ」


 気づけば、キングの左半身側に何人かのプレイヤーが立っている。


「ここからは......俺達も一緒に戦うからよ!」


 ミキヤとサキ、A隊の2人がそこにいた。

 そして、俺の目の前には黒色の鎧に身を包んだ重戦士の相棒が立っていた。

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