4 鎮魂の間
「よし。それじゃあ、とりあえず追加されたっていう鎮魂の間に行ってみようぜ。一応どんなもんか確認しておきたい」
頷き、俺は中央広場の一角に描かれた直径5mほどの白く輝く魔方陣に目を向けた。
今日の0時前には無かったものだ。
先ほどからこの魔方陣の上で人が消えたり、急に現れたりしている。これが鎮魂の間に繋がる転移魔方陣だろう。
俺達は魔方陣の上に乗った。すると、体が白い光に包まれる。光によって周りの景色が見えなくなるが、不思議と眩しくはない。
ほどなくして、光が弱まると周りの風景は一変していた。
「ここが鎮魂の間か」
呟きながら、辺りを見渡す。
そこは6方を薄く光る青色の壁で覆われた仄暗い体育館ほどの大きさの直方体の空間だった。
「結構人がいるね。いや......でもnew worldのプレイ人口を考えると、この100倍はいてもおかしくないはずだけど......」
ぱっと見でこの部屋にいるのは30~40人ほど。既に確認を終えて出て行ったプレイヤーも相当数いるはずだが、それでもユウの言うように、現在ログインしているプレイヤーの総数を考えれば、この人数はあまりに少ない。
「多分、この鎮魂の間はそれぞれの街ごとに個別に存在しているエリアなんだろうな。じゃなけりゃ、この空間は今頃すし詰め状態になってるはずだ」
空間の奥には横幅15mはあろうかという巨大な青い石版が設置されていた。
そして、その上の空中には大きな白い文字が浮いており『現在生存しているプレイヤー』と表示されていた。さらにその下には『63134人』という表示がある。この数字が現在仮想空間に囚われているプレイヤーの人数なんだろう。
やはり半周年記念アプデのために、多くのユーザーがログインしていたらしい。今が休日の深夜というのも大きいだろう。
「ヴィジョンも終わりかもな」
これから先、事態がどう転ぶかは分からない。だが、実際にこれだけの人数が仮想空間に閉じ込められてしまっている。ヴィジョンやVR、AI技術に関する世間からのバッシングはきっと凄まじいものになるだろう。まあ、俺は将来AIやVRの研究したいと思っているわけじゃないし、ヴィジョンに勤めている身内もいないから、そこはどうでもいいのだが......。
石版にはびっしりとプレイヤーネームが羅列されていた。
自身のアバターに登録できるプレイヤーネームに使える文字は”ひらがな”、”カタカナ”、”アルファベット"、"数字"の4種類であり、ひらがなのあいうえお順、カタカナのアイウエオ順、”A~Z(大文字か小文字かで並びに変動無し)”、”0~9”の順で名前は並べられていた。
記されているプレイヤーネームの中で最も多かったのが白色のもので、次に多かったのが灰色のものであった。一応、自分達のプレイヤーネームを確認してみると白い文字で記されていたので、ログインしているプレイヤーのプレイヤーネームは白色、半周年記念アプデ以前にログアウトしているプレイヤーのプレイヤーネームは灰色で表示されるというアプデの文面は事実なのだろう。そして、まだ十数個しかなかったが、打ち消し線が引かれているプレイヤーネームも存在していた。
日付が変わってからまだ30分程度。デスゲームの始まりを信じずフィールドに出て死んだのか、もしくはアプデの文面自体読んでいなかったのか。そして、彼らは現実へと戻ることができたのか、俺達に知る術はない。
それから俺達は転移魔方陣で中央広場へと戻った。広場から人気の無い街路の1本に入り、これからの行動について再度ユウと打ち合わせる。
「しばらくは今まで通り、この街を拠点にして狩りを続けようと思う。だが、とりあえず、今日1日は街に留まって、情報収集に努めよう。半周年記念アプデをフィールドで迎えてこれから街に帰ってくるプレイヤーやデスゲームの開始を信じずに外に出るプレイヤーもいるだろうし、そいつらから話を聞いて、外の様子に変わりがないか確かめるんだ。アプデで、フィールドのモンスターが理不尽な強化をされている可能性もなくはないしな」
「うーん。なんだが、人身御供を立てるようで気が引けるけど、甘いこと言ってられる状況でも無いか」
ユウが眉間にしわを寄せて唸る。
実際、俺達のやってることはあまり褒められたことでは無いだろう。
街に引きこもって、ゲームがクリアされるのを待つのならまだしも、ゲーム攻略や情報収集といった、危険なことを全て他の誰かに任せた上で、自分達は極力リスクを取ることもなく、自分達の安全のためだけにレベルを上げようとしている。
だが、自分の命がかかっているかもしれない状況で、他人のことを考えていられるほど、俺達は強くない。
結局、人間1番大切なのは自分の命だ。
俺達は漫画やアニメに出てくるヒーローじゃない。俺達のような小市民にできることはせいぜい自分の命を守ることくらいだ。
危険は犯さず、生き延びて現実に戻れる時を────いや。
「カズキ?」
よくよく考えたら別にどうでもいいかもな。
もちろん死にたくは無いし、そのための努力は最大限していくつもりだ。
だが、あのクソみたいな現実に戻らないで済むのなら、このままずっとゲームの中で生き続けるというのも、それはそれで悪くないのかもしれない。
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