37 増援
かなりぎりぎりだが、このペースならなんとか次の増援を呼ばれるまでに削りきれるだろう。
最もキングもクイーンのように、時間経過で増援を呼ぶ可能性がないとは言い切れないが、それでもその手のタイプのボスは、ほぼ確実に出現と同時に増援を呼ぶため、乱入直後になかったということは恐らく大丈夫なはずだ。というより、もしキングが増援を呼ぶ力を持っているとしたら、どっちにしろ防ぎようがないので、とりあえずそこは考えないことにする。
────ともかく今は、クイーンにダメージを与えることに集中しなくては。
俺はスキルで攻撃しつつ、クイーンの動きにも注意を向ける。しかし、そこでクイーンが首を大きく持ち上げた。
────嘘だろ。
全身の血の気が引いていくのを感じる。そのモーションには見覚えがあった。
────まだ、2分残っているだろ!
胸中で叫ぶが、同時に思い当たる。
new worldのボスは基本的に複数本のHPバーを持っているのだが、最後の1本になると攻撃力が上昇したり、今までにない攻撃をしてくるようになったりと、必ずなにかしらの変化があった。にも関わらずHPバーが残り1本になってもクイーンにはこれといった変化が見られなかった。
だから、その時点で気づくべきだった。
だが、キングが乱入してきた衝撃があまりにも大きく、それがこのボス戦での変化なんだと勘違いしてしまった。
甲高いクイーンの鳴き声がボス部屋に響く。そして、その声に応えるように、俺達前衛と後衛の間に6体のブラストリザードが出現した。
「おいおい、増えてるじゃねぇかっ.....!」
引きつった表情で、リッキーが舌打ちする。
今までは右半身側と左半身側にそれぞれ3体ずつ増援が出現していた。だが、今右半身側に出現しているのは6体。
俺の位置からでは、クイーンの体が邪魔で左半身側の状況は見えないが、恐らく向こうでも増援が6体出現しているはずだ。
どうやら増援の間隔が短くなっただけでなく、増援として現れるブラストリザードの数も増加しているらしい。
「後衛はもっと下がれ! 俺とカイトで、クイーンの尾が届かない所まで引きつける!」
流石に増援の相手をしながら、クイーンの範囲攻撃に対処することは難しい。ブラストリザードの相手をするには、俺達前衛ごともっと後ろに下がる必要がある。
周囲に向かって声を張り上げると同時に、俺はブラストリザードの間を縫って鉄穿牙を空撃ちした。
一瞬でブラストリザードを追い抜き、俺はユウ達後衛の手前まで移動する。カイトも俺に続くように迅雷切りを使用し、俺の数m右に立った。
敏捷が低くても突進技を使えば、短い距離を一瞬で移動することができる。
振り向き様に俺達2人は挑発を使い、ブラストリザードのタゲを自分達に集めた。そして、すぐにバックステップでユウ達と共にさらに後方へと下がる。
道中でカイトが言っていたようにヘイトが上昇する要因は様々だ。そして、モンスターによって上昇し易い行動は異なる。
位置関係。大きな音を出す。同族のモンスターにダメージを与える。それら様々な要因が絡み合ってどのプレイヤーにタゲが向くのか決められる。そのため2人同時に挑発を使った場合、どのようにタゲが分散されるかは分からない。場合によっては、かなり偏りが出ることもあるが、今回は俺とカイトで丁度3体ずつにタゲが分散された。
「C隊とF隊、全員で増援に対処するぞ! 1匹たりとも逃がすな!」
両手剣をかまえつつ、叫ぶ。
アタッカー役の俺達が抜ければ、クイーンのHPを減らすことはできなくなるが、今はA隊もB隊もボスの攻撃を受けるので精一杯な状態だ。
そんな中ブラストリザードに襲われればひとたまりも無い。
タンク部隊の崩壊は、ボス攻略の失敗と同義だ。だから、この6体は絶対に俺達だけで処理しなくてはならない。
防御態勢を取り、俺は正面から飛びかかってきたブラストリザードの突進を受ける。しかし僅かに遅れて、残りの2体が左右に回り込んできた。
「くっ!」
俺は後ろに飛んで、3方向から攻撃を受けることをさけるが、3体のブラストリザードはその敏捷性ですぐに追いついてくる。
正面からの力押しではなく、多方向からの挟撃。
増援で出現するブラストリザードはステータスだけではなく、そのAIも強化されている。
────不味いな。1体や2体ならまだしも、3体となると攻撃を防ぐだけで精一杯だ。
通常モンスターの攻撃にもかかわらず、両手剣越しにじわじわとHPが削られる。俺の防具の特殊効果であるスーパーアーマーLv1では、攻撃が直撃した際の仰け反りを無視することはできないだろう。
本来敵の数が多いほど、ユウ達ソーサラーの範囲攻撃魔法スキルは効果を発揮するのだが、数が増えたことでシールドバッシュを当てる隙がなくなってしまった。シールドバッシュでブラストリザードの動きを止めなければ、魔法の範囲外まで俺達が逃げる時間を稼げない。
かといって強引にシールドバッシュを使用すれば、3体の内いずれかの個体の攻撃を受け、怯んだ隙にさらに追撃を食らい、一気にレッドゾーンまでHPを減らされてしまうだろう。
できることならユウとC隊のソーサラー2人の範囲攻撃魔法スキルで一掃したかったが、ここはひとまず防御に徹し、1体ずつ確実に数を減らして貰った方が良い。
「うあっ!」
「っ! カイト!」
しかし。そう考えたのもつかの間、カイトが側面に回り込んだブラストリザードの体当たりを受け、態勢を崩す。
助けに行きたいが、俺自身余裕がない。
だが、そこへすかさずミキヤが、カイトに襲いかかっている3体のブラストリザードに矢を撃ち込んだ。すると3体の内2体に麻痺のエフェクトが現れ、動きが止まる。どうやら麻痺矢を撃ったらしい。
さらにリッキーが麻痺にならなかった1体に、攻撃した相手のヘイトを上昇させる<痛裂爪>、さらに続けて<百裂閃>を繰り出した。
「1体は俺が受け持つ! 残りは自分達でなんとかしてくれ!」
手数の多い攻撃はヘイトを稼ぎやすい。
立て続けのヘイト上昇により、タゲがカイトからリッキーへ切り替わる。
そして、左方に回ったユウとC隊のソーサラー2人が、俺がタゲを取っている3体の内の1体にアイスソードを集中させた。3人のソーサラーの同時攻撃を受け、ブラストリザードのHPが0になる。
カイトがタゲを取っている2体の個体の麻痺はすぐに回復してしまったが、その間にカイトも態勢を立て直していた。
ここまで下がればクイーンの尾はもう気になくていい。減少した俺とカイトのHPは、サキとC隊のプリーストが回復してくれている。
俺もカイトも2体ずつなら、なんとかシールドバッシュを当てることが可能だ。
後はフリーズレインで俺とカイトがタゲを取っている4体を一掃し、最後にリッキーがタゲを取っている個体を倒せば、右半身側に出現した増援の掃討は完了する。
────どうなることかと思ったが、なんとかなりそうだ。
まだ気を緩めてはならないということは分かっているが、それでもようやく心に僅かなゆとりが生まれる。
しかし、
「ヤマト、後ろだ────!」
周囲に響き渡ったエドの声に、俺は攻撃を捌きつつA隊の方を向く。
そこには3体のブラストリザードが、クイーンの左半身側からA隊に迫ろうとする姿があった。
────馬鹿な!?
俺は思わず目を疑った。絶対に起きてはならない事態だった。
火力重視のD隊には大盾持ちはいなかったが、確かE隊には大盾持ちが2人いたはずだ。だが2人だけではブラストリザードを抑えきれず、通してしまったらしい。
A隊は途中俺が見た時と同様、ヤマトが1人でキングの攻撃を押さえていた。
そして5割以下までHPが低下し、聖騎士による回復を待っていた残りの大盾持ち2人がエドの声に気づき振り向く。2人は咄嗟に盾を構え、ブラストリザードの突進を防いだ。
しかし、それで止められたのは2体まで。残りの1体は2人の間をすり抜け、ヤマトに向かう。
ヤマトもエドの声には気づいているだろうが、キングの猛攻を前に後ろを向く余裕がない。
そして、そんなヤマトの無防備な背中にブラストリザードが飛びかかった。
受けたダメージは2割程度。だが、それでヤマトの態勢が崩れた。
そして、狙いすましたかのようなタイミングで、キングは頭部を右方から左方に大きく振る。その攻撃を受けて、ヤマトの体は上空へと跳ね上げられた。
さらにキングは首を動かし、自身の目の前に落ちてきたヤマトをその強靱な顎で捕らえた。
鋭い牙に胴体を挟み込まれたヤマトのHPが、みるみるうちに減っていく。
「不味い! 拘束攻撃だ!」
ユウが叫び、ミキヤとともにキングに狙いを変えて、遠距離から攻撃スキルを放つ。
キングとの距離は50m近く離れているが、氷の剣と白い矢は的確に頭部を貫いた。
少しでも狙いが逸れるとヤマトに当たってしまう軌道だが、今は無理をしてでもキングにダメージを与えなくてはならない。
サキとC隊の3人もキングの胴体に、魔法で攻撃を行っている。
拘束攻撃は一部のモンスターが用いる特殊な攻撃で、文字通りプレイヤーを行動不能にし、一方的にダメージを与えてくる。抜け出すには時間経過か、他のプレイヤーがモンスターに一定のダメージを与えるしかない。しかし元々のHPが高いからか、6人の攻撃を受けてもキングは拘束を解く素振りを見せなかった。
「くそっ! D隊とE隊は何をやっとるんや!」
恐らくD隊とE隊は、増援の対処に手一杯なのだろう。
ヤマトと共にキングと戦っていたA隊の3人もヤマトを助けようとはしているが、寄ってきたブラストリザードがキングを守るように立ち塞がっており、足止めされてしまっている。
「回復待ちの2人は俺と一緒に来い! ヤマトを救出するぞ!」
そう言ってエドはクイーンのタゲ取り役に3人をその場に残し、残りの2人の大盾持ちとともにキングに向かって走り出す。
エドを含む3人のHPは、イエローゾーンにまで達していたが、それでもヤマトを失うわけにはいかない。実力的にも精神的にもヤマトはこのボス攻略集団の要だ。
ヤマトのHPは既に2割を切ってしまっている。正直エド達が間に合うかはギリギリだ。
しかし、キングは突然首を振り上げたかと思うと、ヤマトを再び上空へと放り投げた。
拘束攻撃はダメージを与えなくても一定時間が経過すれば終了するようになっている。だがそれにしたって、まだ時間はそこまで立っていないはずだが。
と、俺がそう疑問に思った時────キングが口を開け、息を吸い込むような動作をとった。
そして、閃光が走る。
キングの口から放たれたのは巨大な火球だった。
通常のブラストリザードやクイーンも口から火球を放つが、その飛距離は短く、スピードもそこまでではない。だがキングの火球は2体のものとは別物だった。
クイーンのものの倍の大きさはあるであろう火球が、一直線に砲弾の様な勢いで発射される。
空中に放り投げられたヤマトに避けることはできないし、態勢を立て直して盾を構える暇もない。
一瞬の間に火球はヤマトに接触し、そして爆発を起こした。
設定小話 No.8
○狙撃の腕
各キャラの狙撃の腕前は以下になります。
ミキヤ:150m先の動く標的の特定部位を狙い撃てるレベル
ユウ:50m先の動く標的の特定部位を狙い撃てるレベル
サキ:30m先の動く標的の特定部位を狙い撃てるレベル。
魔法は飛ぶ速度が遅いので、標的が動いている場合、弓より狙うのが難しいです。
一応弓なら30m先の動く標的の特定部位を狙い撃てるレベル(止まっているなら50m)、魔法なら10m先の動く標的の特定部位を狙い撃てるレベル(止まっているなら20m)の腕があれば攻略組でも上位の腕前になります。
ミキヤは現実で才能ある奴がアーチェリーガチっているタイプなので、技能がなんか凄いことになっています。
ちなみにフライハイトには、ミキヤとユウと同等レベルの狙撃能力を持つ、弓使いとソーサラーが1人ずついます。




