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35 ボス戦

 垂直切り攻撃スキル<鳳凰落とし>で、カイトがタゲを取っているブラストリザードを側面から叩き切る。HPが0となったブラストリザードの体は塵と化して消滅した。

 これで、俺達の担当分は片付いた。

 E隊の方に目を向けると、向こうも残すは1体のみとなっていた。あの個体を倒せば、2度目の増援で出現したブラストリザードの掃討も完了する。

 クイーンが呼び出すブラストリザードは、道中に出現する個体よりも全体的にステータスがかなり強化されており攻撃を防ぎ続けるのは大変だったが、1度に戦う数が3体に限られているためなんとかなった。


「このペースなら次の増援が来る前に、決着が着きそうやな」


 クイーンと本隊が戦闘を繰り広げているボス部屋の奥側を見て、ミキヤが呟く。

 戦闘開始から10分と少し。既にクイーンのHPバーは3本目に突入しており、その3本目も残り数ドットというところまで減少していた。動きに慣れてきたのもあって、HPを削るペースもどんどん上がってきている。イエローゾーンにまでHPを減らしたプレイヤーも今のところいない。

 全てが順調にいっていた。

 クイーンが口から直径1mほどの大きさの火球を吐き出すが、正面に布陣したB隊がきっちりそれを受け止め、右半身側からC隊が、左半身側からD隊が攻撃を加える。今の攻防で3本目のHPバーも消滅し、とうとう残るは最後の1本となった。

 A隊の一員として、B隊が崩れた時のために待機しつつ、戦闘の指揮を取っていたヤマトが周囲に呼びかける。


「いいぞ! もうひと踏ん張りだ! だが、最後まで気を抜く────」

 

 だが突如として、ズドォン! と凄まじい轟音が鳴り響き、ヤマトの声は途中でかき消された。それと同時にボス部屋全体が僅かに揺れる。


「な、なんや!?」


 ミキヤがそう言ったのもつかの間、立て続けに轟音が生じた。音も揺れも何かがこちらに近づいているかのように、次第に大きくなっていく。そしてそれが最高潮に達した時、ボス部屋の左奥側の壁が大きく崩れた。


「なっ......!?」


 立ちこめる土煙の中から大きな黒い影が現れる。

 それは骨格だけなら、ブラストリザードによく似ていた。だが全身は赤褐色の鱗ではなく、鉱石の様に黒光りする甲殻に覆われていた。

 次に目を引くのは体のあちこちから生えている無数の棘だ。背面に立ち並ぶ棘は丸太の様に太く大きく、前足の側面からは長さの違う湾曲したブレード状の薄い棘が後部に向かって4本ずつ伸びている。胴体は半分ほどしか穴から出ていなかったが、それでもクイーンよりもさらに一回り大きな体を持つことが見て取れた。

 さらに、上顎の牙は口外に収まらないほど発達しており、体の周囲には背中と腹の真ん中でクロスした2本の帯状の黒いオーラのようなものを纏っている。

 視界に表示されたHPバーの本数は5。

 HPバーの上に表示されたモンスターの名称を俺は無意識に目で追った。

 <カオスキングブラストリザード> Lv50。


「レベル......50だと!?」


 ボス戦の最中の新たなボスの乱入。極々僅かだが、new worldでも前例がないわけではない。

 だが、クイーンブラストリザードのレベルは35だ。

 ────いくらなんでも元のボスからレベルが上がりすぎだろ!

 11以上のレベル差で、補正により獲得経験値がほぼ0になることを考えると、この場にいるプレイヤーのレベルは最大でも45のはずだ。しかも2体同時の戦闘ともなれば────いくらクイーンのHPが残り少ないとはいえ────その難易度は、ボスのレベルの数値以上に跳ね上がる。

 はっきり言って、今の戦力で攻略するのはかなり厳しい。


「全員退却────!」


 即座にヤマトが叫ぶ。

 ヤマトの判断は正しい。

 命が懸かっている以上、ボス戦でイレギュラーが起きた場合、即座に撤退するのがセオリーだ。

 しかも今回はそのイレギュラーがあまりに大きすぎる。撤退しない理由は1つもない。

 俺達は入ってきた扉から脱出しようと背後を振り向いた。

 しかし、


「扉がっ......!」


 眼前の光景に、思わずサキが言葉を失う。

 通常、ボス戦の最中もボス部屋の扉は常に開いており、自由に出入りができるようになっている。しかし、つい先ほどまで確かに開いていたはずの黒色の2枚扉は、いつのまにか閉ざされていた。

 さらにキングが纏っているものと同じ黒色のオーラが結界のように、ボス部屋の周囲を囲んでいる。


「うぉおおおおおおおお!」

「おぉおおおおおおおお!」


 カイトとリッキーが扉に突進し、押し開けようと試みるが、扉はびくともしなかった。


「カイト、リッキー! どけっ!」


 俺は鉄穿牙を発動し、扉に向かって渾身の突きを放った。しかし甲高い衝突音とともに剣が弾かれるだけで、扉には傷一つ付いていない。

 続けて、詠唱を終えたユウが攻撃魔法を扉にぶつけるが、同様に効果は見られなかった。

 ────クソッ! 最初から期待しちゃいなかったが、扉を開けて外に出るのは無理か!


「アカン! 何故か扉が閉まっとる! 入り口からは出られへん!」

「なんだって!?」

「ボス部屋の扉が閉まるって......今までそんなこと1度も無かったじゃないか!?」


 部屋の奥にいる本隊に向かってミキヤが叫ぶと、次々に動揺の声が上がる。


「ど、どうすりゃいいんだよ!?」


 頭を抱えて、カイトが叫んだ。


「帰還の水晶を使えば、出られるんじゃねぇのか!?」

「駄目。帰還の水晶も使えなくなっている......!」


 メニューウィンドウを操作していたサキが青ざめた表情で、リッキーの言葉を否定する。

 サキのメニューウィンドウにはアイテムストレージが表示されており、ストレージ内の帰還の水晶のアイコンに×印がついてあった。

 とはいえ扉が開かない時点でそれも予想はしていた。

 ボス乱入後の扉の封鎖。これは明らかに不測の事態に直面し、逃走しようとするプレイヤーを閉じ込めておくためのギミックだ。

 このボス戦に参加できるレベルのプレイヤーなら、まず確実に帰還の水晶は所持しているだろう。よって帰還の水晶の使用も禁止しなくては、プレイヤーを閉じ込めるという制作側の狙いを果たすことはできない。


「なんで帰還の水晶が使えないんだよ!」

「ボス部屋から出られないってそんなの滅茶苦茶だろ!」


 本隊でも同じように試した者がいたのだろう。向こうからもそんな悲鳴が聞こえる。

 ボス部屋の扉は開かず、脱出アイテムも使えない。となればこの部屋を出るにはボスを倒すしかない。

 だが、自身の命が懸かっている現在で、その条件はあまりにも理不尽が過ぎる。


「不味い! 全員散開しろ! クイーンの回転攻撃が来るぞ!」


 ざわめきを切り裂くように、ヤマトの声が響く。

 見ると、クイーンが円を作るように体を内側に捻り込んでいた。

 そして次の瞬間、貯め込んだ力を解放するかのように一気に体を回転させ、自らの周囲をなぎ払った。

 この攻撃は威力は大きいものの予備動作が大きく、今までは予備動作を見てから後退することで問題なく回避できていた。だが新たなボス乱入、そしてボス部屋からの脱出不可という2つの事態に気を取られていたことで、反応が遅れた。

 クイーンの間近にいたプレイヤーがまとめて吹き飛ばされる。ダメージは各々の装備によってばらつきがあるが、重装備のプレイヤーが4割、軽装備のプレイヤーが6割ほど持っていかれた。

 そして、C隊の近接攻撃役だった重金属鎧の2人のプレイヤーが、キングの正面に投げ出される。

 ────やばい!

 そう思ったのもつかの間、キングは倒れている2人に向かって突進を繰り出した。

 凄まじい速度で4本の足を動かし、一気に加速する。

 突進を回避するべく、2人もすぐに起き上がろうとするが、既に遅かった。

 それはまるで列車の衝突だった。

 重い重金属鎧を身につけているにも関わらず、突進を受けた2人は空高く吹き飛ばされる。

 そして、2本のHPバーが急速に減少を始めた。HPバーの色は緑色から黄色。黄色から赤色へと変化し、そして、その全てが黒色に染まる。

 瞬間、プレイヤーの体を構成するポリゴンが揺らいだ。

 まだ宙にあった2人のプレイヤーの体は、色素を失い、地面に落ちる前に白い光となって消滅した。


「う......うわぁあああああああああああああ!」


 ボス部屋を悲鳴が満たした。

 ────めちゃくちゃだ。

 2人は重金属鎧を身につけていた。しかもHPも6割近く残っていたにも関わらず全て持っていかれた。レベル差があるとはいえ、恐ろしい攻撃力だ。

 ボスから背を向けて逃げ出す者。じりじりと後ずさる者。どうすればいいのか分からずその場に立ち尽くす者。キングの強さと、なにより死亡者が出てしまったことにより、本隊は統率を失い、完全にパニックに陥っていた。

 そして、今までの逆襲とばかりにクイーンが上半身ごと右前足を持ち上げ、勢いよく本隊へと振り下ろす。

 再び上がる悲鳴。

 さらにその間にもキングが、本隊へ接近してきていた。そして、攻撃を受け倒れた数人のプレイヤーに向かって、キングが左前足を後ろに引く。

 幸運なことに先ほどの攻撃では、まだ死者は出ていない。しかし、その場に倒れているプレイヤーの中には、HPがレッドゾーンに達している者もいた。

 あの攻撃が通れば、確実に次の死者が出る。

 とはいえ、ボス部屋の扉の前にいる俺達では、助けようにも本隊と距離が離れすぎてて間に合わない。

 正面をなぎ払うように、キングが地面を削りながら右前足を水平に振るう。


「くそっ!」


 これから起こるであろう惨状を想像し、俺は歯を食いしばる。

 だがその時、キングの前に1人の男が飛び込み、大盾で右前足の動きを止めた。

 ヤマトだ。


「A隊集合!」


 鋭い呼びかけにはっとしつつ、A隊のメンバーがヤマトの近くに集まる。


「エド! 今から本隊の指揮は、お前に任せる!」

「わ、わかった!」


 答えたのは両手に1本ずつ片手剣を持った二刀流の男────カルルガ遺跡の入り口前で俺達に受付に行くよう指示した男だった。

 ヤマトは残りの3人と素早くアイコンタクトを取ると、頷いてから叫んだ。


「みんな! コイツのタゲは俺達A隊の4人で受け持つ! だからみんなはなんとしても次の増援が来る前に、クイーンを倒してくれ!」


 ヤマトの叫びに、それまでパニックに陥っていた本隊のプレイヤー達がようやく我に返った。

 クイーンが2度目の増援を呼んでから、もう4分は経っている。

 2体のボスを同時に相手にするだけでも、ギリギリなのだ。

 もし、この状態で増援を呼ばれて混戦にでもなれば、戦線が崩壊してしまう可能性もある。そうなれば、全滅も覚悟しなくてはならないだろう。


「俺達もいこう!」


 ユウがF隊の面々に呼びかける。

 ヤマトからは、雰囲気に慣れるまで戦闘に参加するなと言われているが、もうそんなことを言ってられる状況じゃない。

 だが、目の前で死亡者が出たショックがあまりに大きかったのだろう。ユウの言葉に皆が頷く中、カイトは1人硬直から抜け出せず、呆然とした状態でキングを見つめていた。


「おい! カイト!」


 俺はカイトの肩に手を置き、呼びかける。


「え......ああ......」


 返事はしたものの、カイトは心あらずという状態だった。

 無理もないことだが、今は1分1秒が惜しい。

 ────ああ、もう! 生き残れたら後で謝る!

 俺は、カイトの横っ面を思いっ切り引っぱたいた。

 そして、驚いた様子で叩かれた頬を押さえるカイトの肩を掴み、眼前に引き寄せる。


「死にたくなけりゃ! シャキッとしろ!」

「お......おう!」


 それで、ようやくカイトの目に光りが戻った。


「よし! みんないこう!」


 今度こそユウの言葉に従い、俺達はクイーンの方へと向かう。


「しっかし、高レベルボスの乱入とはな。こりゃ......運悪くいきなり当たり引いてしもうたかもな」


 苦虫を噛み潰した表情で、ミキヤが呟く。

 それは俺も薄々感じていた。

 俺はキングを一瞥する。

 以前ユウが話していたのだが、魔王から強い力を与えられたモンスターほど、その姿も生態系から大きく外れたものに変化するらしい。

 流石に通常のブラストリザードが成長に伴って、あんな禍々しい姿になるとは思えない。とはいえ、カオスキングブラストリザードが、ユニークモンスターということはないだろう。

 7体のユニークモンスターの内、現在名前が判明しているのは4体。

 天空龍シャルード。

 蒼電ディーヴァ。

 海底王ルドラス。

 赤眼ラディス。

 ユニークモンスターは、いずれも名前の前に二つ名がついている。まだ名前が判明していない3体にも、この命名規則は当てはまるはずだ。

 だから、カオスキングブラストリザードはユニークモンスターではない。それでもあの体に纏ってる闇っぽいオーラからして、キングが魔王と深い関わりを持っている可能性はかなり高いだろう。

 なにより今回のボス戦は、道中と比較して難易度があまりにかけ離れすぎている。

 もちろん、道中よりボス戦の方が難易度が高いのは、ゲームとして当たり前のことではあるが、ボス部屋前に行くだけならヤマト達5人だけでも可能だったのだ。

 だが、このボス戦を────途中でカオスキングブラストリザードが乱入することを考慮した上で────余裕を持って攻略するには、レベル50台後半のプレイヤーが少なくとも20人は欲しいところだ。

 ここまで道中の難易度とボス戦の難易度が乖離することは、普通ならあり得ない。だが、普通ならあり得ないということは、特別な理由があるかもしれないということだ。

 攻略組がダンジョン攻略より、探索エリアを広げることを優先しているのもそっちの方がフラグを発見できる可能性が高いというだけで、何か確証があるわけではない。もしかすると、このボス戦をクリアすることで、ユニークモンスターに遭遇するためのフラグが立つ────とまではいかなくても、何らかの手がかりが手に入る可能性はある。

 現在攻略に参加している全てのプレイヤーは、ユニークモンスターの居場所を特定することを当面の目標としている。俺達だって、ゲームをクリアするために、命を掛ける覚悟をした。

 だが、それはあくまで十分に準備した上での話だ。

 無論、攻略に参加する以上、絶対に安全なんてことはあり得ない。これがゲームである以上、今回の様な開発側が仕込んだ初見殺し染みたトラップに遭遇する可能性も考慮はしていた。

 だが、いくらなんでも半周年記念アプデ以降初めてのボス戦で、しかもこんなにも唐突な形で高難易度のボス戦に挑むことになるなんて思ってもみなかった。

 とはいえ、ここを切り抜けなければ俺達に次はない。

 今、ボス部屋の奥ではエドの指揮の下、冷静さを取り戻した本隊がクイーン相手に戦っている。だがそれもヤマト達がたった4人でキングを押さえているからだ。

 恐らくそれも長くは持たないだろう。増援を抜きにしても少しでも早くクイーンを倒して、ヤマト達の加勢に行かなくてはならない。


「お前ら......!」


 近づいてくる俺達に気づき、B隊とともに正面からクイーンを相手にしていたエドが、声を上げる。


「俺達も戦います!」


 ユウの言葉に、エドは一瞬逡巡する様な表情を見せた。

 エドの気持ちは分かる。

 俺達F隊は、半周年記念アプデ以降のボス戦の経験がほとんどない面子が集まっている。

 今は全員がギリギリの状況だ。もし、俺達がミスをしてもカバーをしてやれる余裕は無いし、下手をすればかえって戦況を悪化させてしまう可能性もある。


「......まあ、全滅するかもしれねぇって時に、安全策もクソもねぇか」


 小さく嘆息し、エドは微笑を浮かべた。そして、再び真剣な表情を作る。


「今正面はB、クイーンの右半身側はC、左半身側はD隊が布陣している。お前らはC隊と一緒に右半身側から胴体を攻撃しろ! 決して攻撃の手を緩めるな!」

「「「了解!」」」


 エドの指示に、重ねて返事をした俺達はクイーンの右半身側に周り込む。

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