33 ギルド
「よーし、順調順調~!」
歩きながらご機嫌な様子でカイトが呟く。
地下のため日の光は入らないが、壁や天井の至る所に強い光を発する鉱物が埋まっているため、ダンジョン内の視界は良好だ。
「さっき俺が間に入らなかったら、被弾してたけどな」
「うっ......別にいいだろあれくらい。食らったとしても2割も減らねぇし。サキだっているんだから」
リッキーの指摘に、カイトは口を尖らせる。
とはいえダンジョンに入ってから15分で、もうB4まで降りてきている。ヤマト達がボス部屋までの道順を知っており、かつ出現するモンスターのデータを全員が共有しているというのもあるが、今のところ特に問題もなく順調なのは確かだった。最も俺達の目的はボス攻略なので、その道中で苦戦していたらそもそも話にならないのだが。
「まあ、順調なのはええとして......カイト。お前のそのスキル使うたんびに技名叫ぶ癖、なんとかならんのか。聞いとるこっちが恥ずかしくなってくるわ」
「いやいや、こういうのは叫んでこそだろ! それにモンスターによっては大きな声を出すとか、激しく動くとか、攻撃以外の行動でもヘイトが貯まるからな。こうして俺が1番大きな声を出すことで、モンスターのタゲを一身に集めているわけよ!」
────いや、絶対単に自分が叫びたいだけだろ。
思わず、心の中で突っ込みを入れる。
「半周年記念アプデ前からカイトは、このプレイスタイルを貫いているから諦めた方がいいぜぇ」
ケラケラと笑いながらリッキーが言った。
戦闘中の息の合いようや口ぶりからするに、リッキーとカイトは、俺とユウのように普段から行動を共にしているらしい。
「......この中でギルドに入っている人はいる?」
不意に、真剣な表情でそう尋ねてきたのはサキだった。
「いや、俺は入っとらんな」
「俺とカズキも入ってないね」
「俺とリッキーはSBFだ!」
ミキヤ達の返答にサキは眉を寄せ、悩むような素振りを見せる。
「やっぱり、本気でゲームクリアを目指すならギルドに入った方がいいのかな?」
「まあ、野良でパーティを組みながらでもやれんことはないやろうが、それだと信頼できる相手と組めるかはその時の運次第になってしまうからな。new worldの全てのプレイヤーが善人ってわけでもないやろうし、その辺考えるとギルドに入った方が安心ではあるわな。なによりギルドに入れば、ギルドスキルによるバフがつくし」
ミキヤの言葉に俺は、この間の牢獄送りにした3人の男性プレイヤーのことを思い出す。
本気でゲーム攻略を目指なら複数人でパーティを組むことは必須だが、ああいう輩がいる以上、野良でパーティを組み続けるのはリスクがあると言わざる終えない。もちろん、ギルドに加入するにもしてもそのギルドの雰囲気が自分に合っているか、メンバーは信頼できるかといったことをよく吟味する必要はあるが、信頼できる人間とパーティを組み続けられるなら、そっちの方が絶対にいい。
サキの言ったことは俺達にとっても他人事ではないだろう。などとそんなことを考えていると、ここぞとばかりにカイトが大きな声を上げた。
「バフが欲しいなら、断然SBFがおすすめだぜ! うちは大所帯で資金も豊富だからバフ発動しまくりで、4~5レベル分はステータスが上乗せされるからな! ぶっちゃけ俺もレベルは36だけど、ヤマトさんに許可とって今回のボス攻略に参加させてもらってるし!」
「ん~。確かにそれは魅力的やけど、SBFはSBFで大所帯だけに面倒ごとが多そうやからなぁ」
後頭部を掻きながら、ミキヤが言う。
「そ、そりゃあ、確かに今うちは、多数派のSBF至上主義グループと少数派の他のギルドやプレイヤーとの協調を目指すグループがバチバチにやりあってる状態だけど、だからこそ、ヤマトさん達協調派は味方を増やしていくことで、SBF全体をいい方向に変えていこうと考えているわけで......」
「あの大将が立派な人物いうんは認めるけどな。ゲーム攻略だけでも大変やっちゅうのに、ギルド内の派閥争いに巻き込まれるのは、ごめん被るわ」
────ま、それはそうだな。
俺は心中でミキヤに同意する。
ヤマトなら今のSBFを変えることができるかもしれない。
実際に攻略に参加している人数はごく少数だろうが、それでもSBF所属のプレイヤーは現在new worldに囚われているプレイヤーの全体の1割以上にも及ぶ。もしSBFがその数の力をいい方向に向けてくれれば、ゲーム攻略だけでなく、new world内での犯罪行為の防止といった治安事情も大きく好転するかもしれない。
この状況で全体のことを考えて動けるヤマトは尊敬に値する人物だと思うし、そんなヤマトについていきたいという気持ちもなくはないが、今の俺達には自分達以外のことを考えている余裕はない。
「サキがゲーム攻略に参加することを決めたのは、最近なのか?」
そもそも話の発端がサキの発言からだったことを思い出し、俺は問う。
「うん。だから今まで一緒に狩りをしていた仲間とは別れることになっちゃって。このボス攻略に参加したのもそもそもは一緒にゲームクリアを目指す仲間を探すためなの。ボス攻略にはたくさんのプレイヤーが集まるだろうから」
「じゃあ、ここまで1人で来たのか? いくらマージン取っているとはいえ、プリーストのソロは相当キツいだろ」
光属性に偏ってはいるが、プリーストもそれなりに高威力の攻撃魔法スキルを扱える。だが、プリーストが装備できるのはソーサラー同様布鎧のみであるし、攻撃力の高い魔法スキルを発動するにはそれだけ長い詠唱が必要なので、その間自身を守ってくれる前衛がいないとプリースト────というより魔法スキルメインで戦うプレイヤーの戦闘はかなり厳しいものになる。
「いや、カルルガ遺跡までは、このボス攻略に参加するパーティーに入れてもらったの」
「そいつらとは馬が合わなかったのか?」
俺の問いに、サキは複雑な表情を浮かべて頷く。
「うん。というか、道中でしつこく言い寄られて。何度断ってもフレンドになろうって聞かないし」
「そりゃあ、災難だったな」
言いながら、サキの顔に視線を向ける。
髪はロングのストレートで、色は黒。絶世の美人というタイプではないが、落ち着いた日本人女性といった雰囲気で、むしろその派手すぎないところに惹かれる男は多そうだった。屈折した女性観を持つ男性ゲーマーなら尚更だ。
「うん。でも私も自分なりに覚悟を決めて攻略に参加するって決めたから、こんなことでへこたれてられないよ」
「そうか」
前を向くサキの目には、強い意志が宿っていた。
きっとサキにも命を賭けてでも、現実に帰らなくてはならない理由があるのだろう。
「まあ、仲間を探しとるのは俺も同じやし、なんやったら一緒にギルド作らへんか? 別に何が何でも既存のギルドに入らなきゃならんってわけでもないやろ?」
「お前よく今の話の流れで言い寄ろうと思えるな」
「流石は変態スナイパー」
「別に言い寄ってへんわ!」
口を挟んだ俺とリッキーに、ミキヤが激昂する。
「......ちゅーか、カズキ、ユウ! 真面目な話、お前らもフリーなら一緒にギルド作らへんか?」
俺とユウは互いに顔を見合わせた。
まだ出会って2時間も経っていないが、ミキヤは気の良い奴だ。サキもまだ少ししか話はできていないが、少なくとも悪い奴ではないと思う。
今すぐに結論を出すのは流石に尚早だろうが、いい出会いというのはそうそうあるものでもないし、2人とこれからも行動を共にするというのは実際有りかもしれない。
どうやらユウも同じ考えのようで、こちらに視線を向けたまま、こくりと小さく頷いてきた。
「私は構わないよ」
「俺達も前向きに検討させてもらうが、とりあえず、その辺の話はこのボス戦を生き残ってからにしようぜ」
一応まだ答えは曖昧にして返す。
今からのボス戦を一緒に戦うことで、新たに見えてくるものもあるだろう。それにこの戦いを生き延びることができなければ、先も何もあったものじゃない。




