32 ダンジョン
集団の右斜め後方の横穴から、4体の全長3mを越える巨大なトカゲが迫ってくる。
目を引くのは全身を覆う鮮やかな赤褐色の鱗と、歩行に特化したと思しき左右に張り出した4本の大足。あれがカルルガ遺跡で、最も出現率の高い通常モンスターのブラストリザードだ。
「4体か......少し多いが俺達できっちり食い止めるぞ!」
「おう!」
言って、俺とカイトは挑発を発動させる。
それとほぼ同時に後方から白く輝く矢が飛んできて、1体の頭部を射貫いた。
矢を受けた個体は足を止め、頭部を大きくもたげる。HPも一撃で半分近く減少した。
モンスターが縦に並んでいる時には先頭の動きを止めることで、群れ全体の足を止めることができるが、今回は横に散開していたため、残る3体はそのままこちらに向かってくる。
俺とカイトはそれぞれの武器をもって、ブラストリザードの体当たりを受け止めた。
内訳は俺に1体、カイトに2体だ。
さらに遅れて、ミキヤの極み撃ちを食らった個体もカイトに襲いかかる。
「うぉおおおお! シールドバァッシュ!」
3体が攻撃範囲内に入ったところで、カイトは大盾を構えたままブラストリザードに突っ込んだ。そのタイミングに合わせて、俺もシールドバッシュを発動させる。
スキルの直撃を受けたブラストリザード達は、ノックバックし数歩後方へと下がった。デザートウルフ程度ならまとめて吹き飛ばせるシールドバッシュだが、体重の重いブラストリザードに対しては、僅かに後退させるのが限界だ。
とはいえ、それは想定済み。
俺とカイトは、それぞれ右後ろと左後ろに大きく飛んだ。
そこへすかさず後衛の3人がスキルを発動させる。
まず、ユウがフリーズレインで全ての個体のHPを4割近く減らす。
続いてサキが放った光球が、最初に極み撃ちを食らった個体を捕らえた。
光属性単体攻撃魔法スキル<フラッシュボム>だ。光球はブラストリザードに接触した瞬間爆発を起こし、残り僅かになっていたHPを消し飛ばす。
俺がタゲを取っている個体にはミキヤが極み撃ちでさらにダメージを与え、最後に俺が真空裂斬でとどめを刺す。
事前の打ち合わせ通り、これで俺がフリーになった。
────残るは2体。
左に視線を移すと、攻撃を受けた際の怯みから脱したブラストリザードが、カイトに攻めかかっていた。カイトは大盾で2体の攻撃を防いでおり、リッキーはその内、片方の背後に回り込んで攻撃を加えている。
「1体貰うぞ」
俺はリッキーが攻撃していない方の個体に接近し、剣を引いて<憤怒の一撃>を発動させた。
赤黒いオーラが俺の持つ両手剣の刀身の周りに生じる。俺は両手剣をブラストリザードの横腹に突き立てた。
憤怒の一撃は攻撃を当てたモンスターに対して、ヘイトを大きく上昇させる効果を持つタンク用のスキルだ。
そしてその効果通り、攻撃を受けたブラストリザードがこちらを向く。しかし、それよりも前に俺は背後の壁際まで下がっていた。
当然ブラストリザードは追ってきたが、俺はその突進を両手剣で受け止める。それと同時に横から氷でできた剣が飛んできて、ブラストリザードの胴体を貫いた。
<アイスソード>。フリーズレインと異なり攻撃対象は単体だが、ユウが習得している氷属性魔法スキルの中では最も攻撃力が高い。
ブラストリザードはその場に倒れ伏し、その体を無色のポリゴン片へと変える。
「兜割りぃっ!」
近くで聞こえた大きなかけ声に視線を戻すと、カイトが大きく飛び上がり、ブラストリザードの頭部に向けて片手剣を振り下ろしているところだった。
<兜割り>は頭部を攻撃した際に、ダメージが1.5倍になる追加効果を持つ片手剣用の攻撃スキルだ。
片手剣がブラストリザードの頭部を垂直に一閃すると、その頭上の蛍光レッドのHPバーも1ドット余さず消滅する。
これで出現したモンスターは全て片付いた。
「完全勝利ぃ!」
ユウ達の方へと振り向き、カイトは片手剣を上に掲げる。
しかし、
「カイト、右だ!」
咄嗟に俺は叫んだ。
カイトから見て、右側の壁。カイトの頭くらいの高さに直径1mほどの穴が空いており、そこから1体のブラストリザードが首を出していた。
新たに現れたブラストリザードは、口からソフトボール大の火球を放つ。
戦闘終了と思って気が緩み、気づくのが遅れてしまった。カイトも盾を構えて振り向くが、間に合いそうにない。
「おいおい、タンクが逆に守られてちゃ世話ねーな」
そう言いながら、一瞬の間にブラストリザードとカイトの間に飛び出してきたのはリッキーだった。
短い距離を即座に詰めることができる暗殺者専用の移動スキル<縮地>を使ったのだろう。
リッキーは右手にくくりつけられた小盾で火球を防ぐ。そして、穴から飛び出してきたブラストリザードの右半身側に陣取り、短剣を凄まじい速さで振るった。
<百裂閃>。暗殺者の短剣使いが習得できる連続攻撃スキルだ。
短剣がその体を切りつける度に、ブラストリザードのHPは確実に削られていく。
短剣は全ての近接武器の中で、最も攻撃力の数値が低く、ガード性能も最低だが、他の武器に比べて圧倒的に手数が多い。そのため、一撃の威力は低くても上手く敵に張り付いて攻撃を当て続けることさえできれば、近接系片手武器の中で最もDPSが高くなる。
実際new world最強のプレイヤーと呼ばれているレイゼンも武器は短剣の二刀流というスタイルで、これは理論上最も高いDPSを得ることができる装備構成だ。
「サンキュー、リッキー! それじゃあ最後は2人で一気に決めるぞ!」
カイトもブラストリザードの左半身側につく。
「うぉおおおおお! <連光斬>!」
カイトが片手剣用連続攻撃スキルを繰り出し、リッキーとともに両側から挟む形で剣を振るう。
見事なコンビネーションだった。
スキルによる斬撃の軌道はプレイヤーの意思で多少制御が効くが、凄まじい速度で動く自身の体の動きを完全に把握し、思い通りに動かすにはかなりの訓練が必要になる。そのため1体のモンスターに対して、複数のプレイヤーが同時に近距離攻撃スキルを発動させると互いの攻撃がぶつかり合い、スキルがキャンセルされてしまうことも多い。
しかしカイトとリッキーは、ギリギリのところで互いの攻撃が干渉しない間合いとタイミングを見切り、斬撃を繰り出し続けていた。
長い時間共に戦い続けていなければ、ああはいかないだろう。
左右から切り刻まれたブラストリザードのHPバーはみるみる内に減少していき、その全てが黒く染まると、ブラストリザードの体も消滅した。
「F隊、クリアだ!」
注意深く周囲を観察して、モンスターがいないことを確認してから、集団の先頭にいるヤマトに呼びかける。
「よし! 先に進むぞ! 周囲の警戒を怠るな!」
ヤマトの号令の元、ボス攻略集団は再びボス部屋へと向けて、進軍を再開する。




