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30/47

30 ヤマト

 カルルガ遺跡の入り口である岩山の大穴の前には、既に20人以上のプレイヤーが集まっていた。

 今の時刻は現実時間で8:45。張り紙に記されていた集合時間の15分前だ。

 new world内の時刻は6:45。これを16時間時計から24時間時計に換算すると10:07頃となる。

 1日が16時間のnew world内の時刻では、感覚的に期限までの日数がわかりにくいので、待ち合わせの時間には現実の時刻が使われることが多い。


「お前ら、ボス戦参加希望者か?」


 集団に近づくと、背中に2本の片手剣を背負った革鎧の男性プレイヤーがこちらに近づいてきた。


「ああ、そうだ」

「そうか。じゃあ、まずは奥の受付に行ってくれ」


 男はそう言って、集団の先頭の方を親指で差した。

 その先にはいくつかの事務机からなる簡易的な受付が設置されており、そこには重金属鎧を身につけた1人のプレイヤーがいた。

 俺達は指示に従い、受付の前まで行く。

 受付の2m右では3人のプレイヤーが机を囲んで立っており、広げられた紙を前に真剣な顔で話し合いをしていた。


「それじゃあ、各自プレイヤーネームとそれぞれのメイン職業、装備構成、半周年記念アプデ以降ボス戦に参加した回数を教えてくれ」


 重金属鎧の男がこちらに視線を向け、聞いてくる。

 ボス攻略では通常モンスターとの戦闘以上に、プレイヤーごとの役割分担やフォーメーションが重要となる。これらの質問はそういった内容を決めるためのものだろう。

 質問に答えると集合時間まで待機しておいてくれと言われたので、適当に話をしながら時間を潰そうと、集団の後方まで下がる。

 しかし、その途中で他のプレイヤーの話し声が耳に入ってきた。


「貢献度ボーナス欲しいから参加したけど、主催がSBFってのがなぁ」

「ああ。自分達が貢献度ボーナス取りやすいように、フォーメーションをいじられたらたまったもんじゃねぇぜ」

「やっぱり、ゲームクリアを目指しているプレイヤーからは、SBFの評判は良くないね」


 歩きながらユウが呟く。

 SBFに対して不満を抱えているのは彼らだけでなく集団全体に、SBFへの疑念と嫌悪の雰囲気が漂っていた。


「まあ、new worldがデスゲームになってなお、狩り場の独占やらダンジョンの封鎖とか続け取ったら、そら嫌われるわな」


 ミキヤが挙げたものは、半周年記念アプデ以前からノーマナーな行為とされていた。

 半周年記念アプデ以降もフィールドに出ることを選んだプレイヤー達にとって、レベルを上げたり、強い装備を得ることは自らの命を守ることと同義だ。それ故、大半のプレイヤーは自身を強化することに対して、半周年記念アプデ以前よりも強い執着を見せるようになった。

 他のプレイヤーのために動いているグループも少なからずあるとはいえ、SBF所属の大多数のプレイヤーは今もミキヤの挙げた問題行為を各地で行っている。そのため、その被害を最も受けている攻略組や攻略組への合流を目指しているプレイヤー達からSBFはすこぶる嫌われている。

 だが、流石にこの雰囲気は良くないだろう。

 俺だってSBFに対して、思うところがないわけではないが、俺達は今から共に命がけのボス戦に挑むのだ。元々寄せ集めの集団とはいえ、こうも纏まりが無ければ連携に支障をきたしかねず、それだけ危険も大きくなる。

 とはいえ、俺にこの場の雰囲気を変えることなどできるはずもなく、そうこうしている内に現実時間の9:00となってしまった。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。俺はSBFのヤマトだ。メイン職業は重戦士で、ビルドは装備を見れば分かるとは思うが、筋力と耐久力特化の純タンク型だ」


 集団の先頭に5人の男性プレイヤーが並んで立っている。

 一歩前に出て自己紹介をしているのは、受付で俺達に質問をしてきた男だった。

 外見年齢は二十代半ば。サイドから刈り上げられた髪が溌剌とした営業マン思わせる。そして、背中には前からでも分かるほど大きな大盾と片手槍を背負っていた。

 どうやら彼がこのボス攻略を主催したヤマトらしい。5人の中には、最初に俺達に話しかけてきた2本の片手剣を背負った男もいた。

 ヤマトは1度周囲を見渡し、言葉を継ぐ。


「まず、うちのギルドについて文句の1つも言いたいと思っている人間はここにも多いと思う。SBFは『全プレイヤーの協力によるサバイバルとゲームクリア』を謳って、メンバーを増やしていったにも関わらず、もはや並び立つもののない大組織になったことで、『new world最大のギルドである自分達こそが、ゲーム攻略を牽引するべき存在。だからこそ、他のプレイヤーが進んで協力するのは当然』という考えがギルド全体に浸透してしまった」


 自分達のギルドを蛮行を認める突然のヤマトの発言に、周囲のプレイヤーがざわめき出す。


「だが、それは自分達さえ強くなれればそれでいいという考えだ。実際、今のSBFは他のギルドやプレイヤーをないがしろにした行為も厭わない集団となってしまっている。俺はそんな現状を変えたい。いくらSBFがnew world最大のギルドといってもその人数は全プレイヤーの1割程度だ。このゲームをクリアするにはSBFだけじゃなく、もっと多くプレイヤーがギルド間の垣根を越えて、協力することが俺は必要だと思っている。ここにいる人間は全員、貢献度ボーナス得てより多くの経験値を、より強い装備を得ようと思っているはずだ。俺だって貢献度ボーナスが欲しくないと言えば嘘になる。だからボーナスを狙うなとは言わない。だが、ボスと戦うまでに1度よく考えて欲しい。ここにいる全員にとって最も良い結果とは何かを。もし自分がボーナスを得られなくても、ここにいる誰かがボーナス得て強くなり攻略組に合流してくくれば、攻略組の戦力は上がり、それだけゲームクリアの可能性も増す。逆に言えば犠牲者を出すということは、将来的に増えるはずだった戦力が消えるということだ。だから俺はなにをおいても1人の犠牲者も出したくない。それを実現するにはここにいる全員の協力が不可欠だ。ゲームクリアの可能性を上げるという目的を抜きにしても、犠牲者が出ても構わないと思っている奴はここにはいないと思っている。もし、俺の考えに少しでも賛同してくれるのならゲームクリアのため! ボスを倒すため! これ以上犠牲者を出さないため! 頼む! 皆の力を貸して欲しい!」


 演説が終わると同時に、うおおおおおっという歓声が周囲から沸き起こった。


「ほう......やるやんけ、あの大将。このアウェーの雰囲気を演説1つで塗り替えおった」


 ミキヤの言うとおり、あれだけSBFに対する悪感情が渦巻いていた集団が今やヤマトを中心に1つになっていた。

 半周年記念アプデ以前はボス戦で貢献度ボーナスを得るために、独断専行をするプレイヤーが続出し、結果戦線が崩壊。ボス攻略に失敗するという事態が多発していた。

 流石に今はそこまで露骨に足並みを乱すプレイヤーはいないだろうが、ヤマトが言っていたようにここにいる連中は皆、貢献度ボーナスを狙いに来ている。そういった行為を掣肘する意味でもあの演説は見事なものだった。

 正直俺もあの演説に、全く心が揺れなかったと言えば嘘になる。

 それからヤマトは事前に実施していた偵察戦で得た、カルルガ遺跡のボスや道中で出現するモンスターについての情報の説明を始めた。

 半周年記念アプデ以前は、他のパーティに先にクリアされないよう初見でボス攻略に挑むことも多々あったが、半周年記念アプデ以降は、何度か偵察戦を行い、ボスの行動パターンや弱点部位、弱点属性などを確認してから、大規模パーティを組んで攻略に挑むというのが基本的な流れとなっている。

 ボスの名前は募集の張り紙にもあったが、クイーンブラストリザード。カルルガ遺跡に生息しているトカゲ型の通常モンスターであるブラストリザードの女王で、その全長は20mにも及ぶらしい。

 HPバーは全部で4段あり、10分ごとに特殊な咆哮を上げ、自身の左右に通常より強化されたブラストリザードをそれぞれ3体ずつ呼び出す。

 弱点部位は頭。弱点属性は氷属性。これは通常のブラストリザードと同様だ。

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