27 募集
「後ろから来てるぞ! ユウ!」
上空からよく磨かれた陶器のような黒い鉤爪を生やした脚が降りてくる。その形は猛禽類のものに酷似しているが、人の頭をわしづかみにできるほどに大きい。
「くっ────」
ユウは真横に転がり、迫り来る爪をかわした。そして、即座に爪の持ち主へ杖を向け、<スパークニードル>を放つ。
杖から放たれた雷の針が的確に標的の体を射貫き、地上へと墜落させる。
「キャアキャア!」
地面に叩きつけられ、もがきながら呻いているのは、人間の女性の顔と豊かな胸部を持った半人半鳥の怪物。ハーピーだ。
俺は鉄穿牙を発動させ、ハーピーに接近すると同時にとどめを刺す。
HPが0になったハーピーの体は色素を失い、瞬く間に砕け散った。
「よし、これで3匹目!」
「まぁ......まだ10匹以上いるんだけどね」
嘆息まじりのユウの呟きと同時に上を見る。
上空では俺達を狙うハーピーの群れが、旋回を続けながらこちらの様子を窺っていた。
「ちっ! 山の影に群れが潜んでいたとはな! <カルルガ遺跡>に向かう前に、とんだ足止めを食らっちまったぜ!」
俺達がいるのは荒野の一角にそびえる山岳地帯。
俺達がなんでこんなところにいるのか。話は3日前に遡る。
「それで、これからどうするよ? とりあえず、活動拠点をもっと前線に近い街に移すか? ま、その場合2人で狩りをするのは少し危険だから、野良パーティに参加することになるが」
ゲームクリアを目指すことをユウに話した後、朝食を済ませてから尋ねる。
攻略に参加するには、この半年で空いてしまった攻略組とのレベル差を埋めなくてはならない。そのためには、より経験値効率の良いエリアで狩りをする必要がある。とはいえ、経験値効率が良いということは、それだけ強いモンスターが出現するということだ。
流石に回復職もいない俺達だけでは戦力的にもキツイ。そのため、今後は他のプレイヤーと野良パーティを組むことが必須となるだろう。
今まではリスクを考え、見ず知らずのプレイヤーとパーティを組むことは避けてきたが、new worldの攻略を目指すと決めた以上、そうも言ってられない。
「ああ、それなんだけどさ。ちょっとついてきてくれない?」
ユウは立ち上がり、宿屋の入り口の方を指差した。
ユウと連れ立って宿屋を出る。
大通りを通ってユウが足を止めたのは、サイファーの中央広場にある掲示板の前だった。
「せっかくだから、あれに参加してみない?」
無数にある張り紙の1つをユウは指差す。
そこにはこう書かれていた。
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【ボス攻略参加メンバー募集】
カルルガ遺跡B5にて、ボス部屋が発見されました。
人手が足りないので、参加メンバーを募集しています。
集合場所や日時は下記を参照して下さい。
集合日時:【現実時間】2027/11/29 09:00
ボス:クイーンブラストリザード レベル35(偵察戦済)
参加条件:レベル40以上
集合場所:カルルガ遺跡入口前
※当日の参加人数が20人に満たなかった場合、申し訳ございませんが、ボス攻略は延期とさせていただきます。
SBF所属 ヤマト
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「ボス攻略か......一応参加条件は満たしてはいるが。半周年記念アプデ以降ボス戦なんて参加してないし、貢献度ボーナス取れるかは怪しいところだな」
「うん。だからとりあえず今回は、ボーナス狙いというよりはボス戦の感覚取り戻すのが目的になるかな。危険も大きいけど、ゲームクリアを目指す以上、ボスの攻略は避けては通れないからね」
「確かに、それもそうだな」
ボス戦では貢献度が高い上位10名のプレイヤーに対し、貢献度ボーナスとしてボスのドロップアイテムの獲得確率に上昇補正がかかるシステムになっているが、貰える経験値も順位に応じて加算されるようになっている。貢献度ボーナスによって、得られる経験値の量はかなりのもので、最も加算量の少ない10位であっても、通常モンスター相手の狩り数日分に匹敵する。
さらにボスがドロップするのは、武器や防具といった装備品かレア度の高い素材アイテムなのだが、ボスからドロップするだけあって、装備品は優秀な性能のものが多く、素材アイテムも強力なプレイヤーメイドの装備品の素材となるため、運良く手に入れることができれば、かなりの戦力アップとなる。
つまりてっとり早くアバターを強化したいなら、できるだけ多くのボス攻略に参加し、貢献度ボーナスを得るのが1番なのだが、無論それは口で言うほど簡単ではない。
まず第一に、貢献度ボーナスを得るには最低でも貢献度の高さで10位以内に入る必要があるが、現在のボス攻略は万全を期して20~30人ほどで行われる。そのため上位10位以内に入るには、相応の腕前が必要となる。
そしてなにより、当然ではあるがボスの強さは通常モンスターとは比べものにならない。通常モンスターとボスでは、例え同じレベルであってもボスの方が遙かにステータスが高く設定されている。
それでも、ボスより20や30もレベルを上乗せしてから挑めば、ソロでも倒すこと自体は可能だろう。しかしnew worldではレベル差補正による獲得経験値の下降補正があるため、レベル差が大きくなり過ぎると、そもそもボスを倒す旨味自体が無くなってしまう。
戦闘中でもボス部屋の扉から外に出ることはできるし、帰還の水晶を使えば即座に離脱することはできる。とはいえ絶対に安全といえるほどの安全マージンが無い状態で挑まなくてはならないボス攻略の危険度は、通常モンスター相手の狩りよりもずっと上だ。
だが、それでもユウの言うとおりゲームクリアを目指すのならなら、ボス攻略への参加は必須だろう。
アバターを強化するという意味でもそうだが、ボスを倒すことで次の街に行くためのルートが解放される場合もあるし、何らかのボスを倒すことが、ユニークモンスターに遭遇するためのフラグが立つ条件となっている可能性もある。
「うん。ボス攻略に参加するのは俺も賛成だ。......にしてもSBFが、ボス攻略の参加メンバーを募集するのって珍しいな。基本はボスのドロップアイテムを独占するために、ダンジョンごと封鎖してまで、自分達だけでボスを倒そうとするのに」
「まあ、いくらSBFが大所帯って言っても、ボス攻略に参加できるレベルのメンバーはギルド全体の3%にも満たないだろうし、流石に全てのボスに対して、徹底はできないでしょ。それにあそこも一枚岩じゃないしね」
new world strategy battle front。
略してSBF。7000人以上のプレイヤーが所属しているnew world最大のギルドだ。
new worldにおいて、1つのギルドに所属できるメンバーの上限は1024人までとなっている。そのため、SBFはギルドを8つに分けることで1つの集団として成り立っている。
SBFは、半周年記念アプデ以前からnew worldで最も規模の大きいギルドだったが、当時問題になっていた大所帯のギルドによる狩り場の独占やダンジョンの封鎖などの迷惑行為を行うギルドの筆頭として悪名高い存在でもあった。
半周年記念アプデ以降、SBFは他の大規模ギルドと同様に多くのギルドを吸収することで、さらに勢力を拡大した。しかしそれに伴い、組織の力を笠に着たSBF所属プレイヤーの傲慢な振る舞いもどんどん苛烈さを増していった。
とはいえ、SBF所属の全てのプレイヤーが、そうしたノーマナーな連中かというとそうではない。
SBFの中には、少数派ながら他のギルドと協調しゲームクリアを目指そうとするグループもあるし、その圧倒的マンパワーを生かしてフィールド上に出現するエネミーの種類や攻撃パターンなどを調査し、収集したデータを攻略ガイドとして格安で他のプレイヤーに販売しているグループもある。他にもPKなどの犯罪行為を防止するために、フィールドのパトロールを自発的に行っているグループや低レベル層のプレイヤーと待機組救済のため物資を配布したり、さらにはレベル上げの補助、立ち回りやキャラビルドについてのアドバイスを行っているグループもある。
そういうわけで現在のSBFの評判については、やっかましく思っているものが半分、その存在に感謝しているものが半分といったところとなっている。
「今が現実時間で11月26日の15:30だから、集合は3日後か。ここからシスルまでは30分程度だから今すぐ行く必要もないが......」
シスルはサイファーから北西へ約30分ほど歩いた先にある街で、一応エリア区分的には、砂漠エリアではなく、遺跡エリアの南端に位置している。そのシスルから西に約20分歩いた先にあるダンジョンがカルルガ遺跡だ。
new worldには、カルルガ遺跡の様なダンジョンが多数存在しているのだが、その大半は発見されてからも手つかずで放置されている。
北の大陸に行くには、7体のユニークモンスターを倒さなくてはならない。その内の何体かはどこかのダンジョンの最奥部にいる可能性もあるが、だからといって、現在確認されているものだけでも70を越える数のダンジョン全てを端から攻略していくのはあまり効率的なやり方とはいえないだろう。
new worldにはまだ行っていない街やフィールドが山ほどある。そっちに探索範囲を広げることで、ユニークモンスターに関係する情報やフラグを発見できる可能性も十分にある。
そのため攻略組は探索エリアの範囲を広げることを優先しており、ユニーククエスト関連か、特定のダンジョンをクリアしなければ、先のエリアへ進むことができないという状況でもない限りは、基本的にダンジョンに挑むことはない。
とはいえ、ダンジョンには多くの宝箱があり、中には大量のシルや性能のいい装備が入っていることもある。さらにダンジョンの最奥部には、高確率でボスモンスターがいるため、それを倒せば大量の経験値とそのドロップアイテムを手に入れることができる。
そういうわけで、俺達のように攻略組に追いつこうという連中は、せっせと攻略組が放置したダンジョンの攻略に励んでいるわけだ。
「一応、カルルガ遺跡までの道のりや出現するモンスターも当日までにこの目で確認しておきたい。とりあえず、参加するなら今日中にシスルに行っておくか?」
「そうだね。どっちにしろ今の狩り場じゃそろそろレベル上げの効率も悪くなってくるし。丁度いいから拠点をシスルに移そう。その後のことは、またボス攻略の後考えるってことで」
頷き、俺はユウとともに北側の門へと向かう。
シスルについた後は、ボス攻略当日までカルルガ遺跡の情報収集や周辺のフィールドでの狩りに時間を費やした。
そして、時は現在に戻る。




