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25 疑問

 ────俺は一体どうすればいい?

 昨日と同じようにベッドに寝転んだまま俺は、その後のユウの言葉を思い出す。


『もちろん、攻略に参加するといってもカズキにまでそれを強要する気は無いし、今すぐ未踏破エリアに向かったりはしない。信頼できる新しい仲間をカズキが見つけるまでは、俺も付き合うよ。だから、明日からは野良パーティに参加して狩りをしようと思うんだけど、どうかな?』


 ソロプレイヤーの死亡率は、パーティを組んで活動しているプレイヤーのそれを遙かに上回る。

 麻痺や凍結といった行動不能系の状態異常を食らってしまった場合、仲間がいれば回復してもらうなり、自然治癒するまでの間、モンスターを引きつけてもらったりと、対処はそれほど難しくはないが、ソロでは回復できずにそのまま殺されてしまうことも珍しくないからだ。

 また、狩りの効率という点でもソロより複数人でパーティを組んだ方が優れている。

 モンスターを倒した時の経験値は、パーティメンバーに均等に分配されてしまうが、パーティを組めばそれだけ高いレベルのモンスターを相手にすることができる。逆にソロでは、経験値を独り占めできるものの安全を考えると、戦えるモンスターは自分よりかなりレベルの低い相手に限られる。

 安全を捨て、生きるか死ぬかのギリギリの狩りを毎日続けるなら話は別だが、レベル差補正があるnew worldにおいては、3~4人程度のパーティがレベル上げにおいて最も効率が良いとされている。

 だからユウは自分がいなくなっても俺が1人にならないよう、自分に代わる仲間が俺にできるまでは、攻略には参加しないつもりでいる。

 しかし逆に言えば、それは俺がユウを縛ってしまっているということだ。

 半周年記念アプデから半年。レベル上げ自体は続けているが、攻略の最前線から離れてしまったことで、攻略組と俺達のレベル差はそれなりに広がっている。

 だから本当はユウの方こそ、より経験値効率のいい前線のエリアで狩りを行うために、一緒に攻略を目指す仲間を探さなくてはならないはずだ。

 今日、俺はユウがどんな思いで攻略に参加しようと決意したのか知った。にも関わらず、俺がユウの足を引っ張ってしまっている。


「くそっ......」


 ......胸に何かがつっかえているような感覚がある。

 罪悪感......いや、俺はそんな殊勝な人間じゃない。

 単に俺は嫌なんだ。置いて行かれるのが。

 別にユウと離れるのが寂しいとかそういう話じゃない。

 今まで俺達は現実から逃げていた。互いに同類だと感じていたからこそ、相手と比較して自分を卑下することもなく、気楽に安心して付き合うことができた。

 だが、あいつは変わった。

 逃げ続けてきた現実に、今は帰ろうとしている。それこそ命を賭けて。

 俺は未だ現実に戻る気になれない。立ち止まったままでいるのは俺だけだ。

 思わずため息が漏れる。

 ......つくづく自分の小ささに嫌気が差す。

 俺だってこのままじゃ駄目なのは分かっている。でもどうしても前を向く気力が湧かない。

 嫌なんだ。本当に......現実に戻るのが。

 現実に戻ったところで、俺に居場所なんてない。ユウは両親が自分のことを心配していると言っていたが、俺の場合それも怪しいもんだ。

 両親にとって俺は、いつだって期待に応えられない不出来な息子だった。

 ゲームにうつつを抜かし、挙げ句の果てにこんな事件に巻き込まれ、競争から脱落した息子に失望しているか、もしくは興味すら失っているかもしれない。

 ────まあ、でも兄貴には心配かけてるだろうな。

 もしかしたら俺がこの事件に巻き込まれたのは、自分がnew worldを買ったせいだと考えているかもしれない。

 結局、あれから謝ることもできなかったし、そこは確かな心残りだ。

 とはいえやっぱり現実に戻りたいとは思えない。

 ただ────

 半周年記念アプデが実施される前から、ずっと1つだけ引っかかっていることがある。

 ────どうして......父さんは俺からVダイバーを取り上げなかったんだろう。

 父さんは俺が四六時中Vダイバーを使っていたことは知っていた。

 もはや俺に何の期待もしていないという可能性も十分にあるが、それでもVダイバーを取り上げることすらしないというのは、父さんにしては甘いというか......違和感を感じる。無論、兄貴の物だから勝手に捨てたりはできないだろうが、隠すなり、俺に使わせないようにする方法はいくらでもあったはずだ。

 だが......そうはしなかった。

 一体、どうして────?




「......ん」


 最初に目に映ったのは、白い天井だった。


「カズキ! 良かった......!」


 聞き覚えのある声に、左下へ視線を向ける。

 ベッドの脇にいたのは兄貴だった。兄貴は心の底から安堵した表情でこちらを見下ろし────兄貴!?

 俺は素早く身を起こし、周囲を確認する。

 ベッドのそばにはコンセント付きのワゴンが置いてあり、小型のテレビモニターが載っていた。天井と同じ色の壁にはエアコンがついており、背後の壁には呼び出しという文字が書かれたボタンのついた操作端末がぶら下がっている。

 白を基調とした清潔感のある小さな空間。そこは明らかに病室だった。

 とはいえ典型的な中世ファンタジーの世界観を踏襲しているnew worldにこのような電化製品は存在しない。

 となれば、考えられることは1つ────


「も、戻ってきたのか!? 俺は......現実に!?」


 一体いつ現実に戻ってきたのかまるで覚えていない。

 誰かがゲームをクリアしたのか? いや、流石にそれはあり得ない。

 俺が眠っている間に現実で何らかの救出作戦が実行されたのだろうか。

 様々な疑問が降って湧いてくるが、その時、病室の扉を開けて入ってきた人物の姿を見て、俺の思考は停止する。

 

「目を覚ましたのか」

「父......さん」


 急速に口の中が乾いていくのを感じる。

 約半年ぶりの父との再開。

 ゲームにのめり込み、こんな事件に巻き込まれた自分のことを父はどう思っているのだろうか。あまりに突然のことで、何を話せばいいのか分からない。

 いや、何を話せばいいのか分からないのなら......いっそのこと、素直に今1番聞きたいことを聞こう。


「あのさ......父さん。今聞くことじゃないかもしれないけど。俺がゲームにはまっているって知っていたのに、どうしてVダイバーを取り上げなか......」

「お前には失望したぞ」

「え......」

「ただでさえ、怠けて周りから遅れていたのに、こんなことで半年も棒に振ってこれからどうするつもりだ?」


 ────ああ......やっぱりか。

 俺は拳を握る。

 ほんの少しでも俺のことを考えてくれていたんじゃないかと思った俺が馬鹿だった。というか、死ぬかもしれないような状況から生還した息子に、最初にかける言葉がそれかよ。

 そう思うと怒りが湧いてきた。

 結局この人にとって1番大事なのは、俺の命じゃなく、俺が自分の息子にふさわしいくらいの優秀さを周りに示せるかどうかなんだ。

 俺の心の奥底で抑圧されてきたものが、せり上がってくるような感覚があった。


「もう十分休んだだろう。これからは死ぬ気で遅れを取り戻せ。これ以上私の顔に泥を塗るな」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。


「うるせぇ! クソジジイ! てめぇの面子とか知るか、ばーかっ!」

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