24 告白
「なんでだ......?」
口から言葉が衝いて出る。
ユウが何を考えているのか分からなかった。
「攻略に参加すれば、命の保証はないぞ」
「ああ」
「本当に分かってんのか? 死ぬぞ。死ぬんだぞ? 死んだら全部終わりだ」
「分かってる」
ユウは静かに、だが確かな声で答える。
「なんで......そこまで......」
お前は俺と同じ現実から逃げ出した人間じゃなかったのか?
それとも今まで俺が感じていた同族意識は、全て俺の勘違いだったのか?
「なんでだ......? 死ぬ思いしてまで、現実に戻って......一体あそこに何があるってんだよっ!?」
気づけば声を荒上げていた。
ユウは顔を上げ、自嘲気味な笑みをこちらに向ける。
「俺はさ......現実じゃニートなんだ」
再び視線を下に落として、ユウは語り始めた。
高1の時、クラスで不良っぽい奴らがいじめをしていてさ。俺はそれを止めようとしたんだ。そしたら生意気だって、俺は身ぐるみ剥がされて全裸のまま校内を引き回しにされた。今でも鮮明に覚えているよ。俺を見る、あの憐憫と好奇の入り交じった視線を。
それ以来、周りの目が怖くなって、俺は学校に行けなくなった。自分のことが学校外でも広まっているんじゃないかと思うと、外を出歩くこともできなくなって、俺は部屋に閉じこもった。
両親は遠くの学校に転校することも提案してきたけど、中途半端な時期に転校したら、元の学校でいじめられていたことがバレるかもしれない。それが原因でバカにされたり、またいじめられたりしたらと考えると、それもできなかった。
それから俺は、自分の部屋でネットゲームばかりやっていた。
元からネトゲは好きだったし、ディスプレイ越しの付き合いは気楽だった。
ネトゲは時間をつぎ込めばつぎ込むほど、強くなれる。カズキも分かっているだろうけど、ネトゲの世界では強ければそれだけで、羨望の対象になる。
その点、学校に行っていない俺には時間が山ほど合った。現実じゃ、周囲の目が怖くて外に出ることもできないくせに、自尊心だけは一人前にあった俺はますます、こっちの世界にのめり込んでいった。
いじめが原因なのもあって、最初は好きにさせてくれた両親も、半年も引きこもっていれば『いつまでもこのままでいるつもりか』『そろそろ将来のことを考えろ』と小言を言ってくるようになった。でも、俺は聞く耳を持たなかった。それどころか、自分の苦しみも知らずに、努力を強要してくる両親を憎むようになったんだ。たまに優しく接してくることがあっても、それすら部屋から俺を追い出すための懐柔策だと考え、拒絶した。
ただの逆恨みという自覚はあった。だからこそ、胸の内から湧いてくる自己嫌悪の気持ちを振り払うために、俺はより一層ネットの世界に没頭した。
そうして引きこもってから1年と半年が経った頃、ヴィジョンがnew worldを発表した。
new worldでは仮想空間とはいえ、ディスプレイ越しじゃなく、面と向かって相手とコミュニケーションをとらなければならない。不安もあったけど、それ以上に俺は興奮したよ。だってそうだろう? VRMMOなんてものが現実に生み出されて、やりたいと思わないゲーマーがいないはずがない。
俺はあらゆる通販サイトを回り、なんとかnew worldの予約権を手に入れた。当時、Vダイバーは持っていなかったけど、それも子供の頃から貯めていたお年玉貯金でなんとかまかなえた。
そして、発表から1年後の2026年11月16日の午後5時。サービス開始と同時にnew worldにログインし、そこでカズキと出会った────。
「楽しかったよ。ここで過ごした時間は。心からそう思う。人の目にもずいぶん慣れたし、達者とまではいかなくとも他人と普通に会話をできるくらいにはなった。それでもやっぱり部屋の外に出る勇気はなくて、俺はこの世界に留まり続けた」
ユウが現実の自分のことを話したのは、これが初めてだった。
ユウのことは信頼しているが、今まで俺達は互いに一線を引いていた。線の内側にあるのは触れられたくない、目を背けていたい自身の現実だ。
だが、ユウは今その線を取っ払い、俺に内心を吐露している。
「────そして、半周年記念アプデが実施された」
俯いているユウの顔は俺からは見えない。だが、それでもその表情が強張ったのがわかった。
「現実に戻れないと知った時、正直最初はほっとしたんだ。これで、この世界に居続ける大義名分ができたと思った。でも、いつまで経っても現実からの救助が来ることは無くて......日が経つにつれ、現実のことを思い出すことが多くなった」
ユウは拳を握り込む。
「飯を食う時、誰もいない宿屋の部屋に戻った時、思い浮かぶのはいつだって親の顔だ......生き伸びることだけを考えるのなら、今まで通り、十分な安全マージンを取りつつレベル上げを続けるのがいいんだろう。俺だって死にたくないし、攻略に参加するのは半端なく怖い......でもっ......それでもっ......」
ユウの拳が────声が震えていた。
拳を解いた右手を顔にやり、ユウは言葉を継ぐ。
「こんなっ......どうしようもないバカ息子のことを......今も心底心配しているのかと思うと......どうしても、ただ待っていることに耐えられないんだ」
少しの間、ユウは沈黙していた。
息を整えるような長い呼吸音の後、ユウは顔を上げる。
「......矛盾したこと言ってるのは分かってる。それでも俺は1日でも早く現実に帰らなきゃならないんだ」
その瞳には、強い決意の色が現れていた。
────コイツは凄い奴だ。
new worldがデスゲームと化して、俺は自分が生き残るためにどうするか、もし現実に戻れたとして、自分はどうするのか。ひたすら自分のことばかり考えていた。
だが、ユウは違う。ユウは自分のことを心配している両親のことを考えていた。
昨日女の子達を助けた時もそうだった。
こんな......自分の欲望に身を委ねるような人間さえ出るような状況で、自分以外の人間のことを思える。
それはまぎれもないユウの強さと呼べるものなんじゃないだろうか。
だが、
「悪い。ユウ......」
俺にはその強さを持てそうにない。
なにより────
「俺にはそこまでして、現実に戻る理由が見つからねぇ......」
設定小話 No.7
○カズキとユウの年齢
現在カズキは17歳、ユウは19歳です。
ただしユウは童顔なので、カズキは今の今まで自分と同い年だと思っていました。




