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23 佐藤一輝③

 それから俺達は互いにフレンド登録をし、フィールドや近場のダンジョンを一緒に探索した。

 瞬く間に時間は過ぎ去り、気づけば夜となっていた。

 両親が帰宅するまでに、飯と風呂を済ませておかなくてはならなかったので、俺が先にログアウトしたが、その際また明日一緒に探索の続きをする約束をした。

 そうして、俺は次の日もまたその次の日もnew worldにログインし続けた。

 ほんの少しだけ触ってみる。最初はそのつもりだった。しかし、俺はどんどんnew worldにのめり込んでいった。

 ユウと出会ったこと、また単純にnew worldが凄まじく出来のいいゲームだったというのもあるが、この仮想空間が現実と完全に隔絶されているということが最も大きな理由だったろう。

 モニター越しにコントローラを操作して、キャラクターを動かす従来のゲームとは違う。プレイヤーの意思は電子の肉体に宿り、仮想空間に作られた新しい世界を冒険する。

 ここは全てが0と1で形作られた、現実とは異なる場所に存在する世界だ。

 この世界にいる間は、俺は現実のことを考えずに済んだ。この世界では俺は佐藤一輝ではなく、冒険者のカズキでいられた。

 俺はVダイバーを自分の部屋に持ち出し、高校に行っている間と飯と風呂とトイレ以外の時間は全てこの世界で過ごすようになった。

 かろうじで留年することはなかったものの、当然成績は下がっていく一方だった。俺が碌に勉強もせずに、ゲームばかりやっていることは父さんにもバレていただろうが、意外なことに何も言われなかった。代わりに、それ以外の他の会話も一切無くなった。

 多分完全に見放されたのだろう。母さんは何か言いたそうにしていたが、基本的に父さんの方針には逆らわない人なので、声をかけてくることはなかった。

 だが、別にそれで良かった。既に俺にとっての本当の世界とは、仮想の方だった。

 学校で同級生と話すこともない。会話を交わせば、関わってしまえば、そちら側の世界に引っ張られてしまう。どちらが本当の世界でどちらが仮の世界か。その認識が曖昧になってしまう行為は避けるべきだった。

 俺は毎日ユウと共に探索やクエスト、ボスモンスターの攻略に明け暮れた。

 あまり人付き合いが得意ではない俺だったが、ユウとは気が合った。

 そうして半年が経過し半周年記念アプデが実施され、さらにそれから半年が経ち今に到る。




 俺にとって現実とは辛く苦しいだけの場所だった。

 今更そんな現実に戻ってなんになる?

 天井を見つめたまま、俺は自問自答した。

 どうせ、兄貴には敵わない。報われないことが分かっている努力をすることに何の意味がある?

 今となっては命の危険もあるが、それでもこの世界では俺は自由に、ありのままの自分でいられた。 

 それが先送りだということは理解している。

 俺の肉体が現実にある以上、いつまでもこちらの世界のことだけを考えて生きていくことはできない。もし、いつかこのゲームがクリアされるか、現実からの救助によって解放される時がくれば、その時こそ現実と向き合わなければならないだろう。

 だが、今の俺にはどうしてもその気力が持てない。もう少し、未来のことを考えずに生きていたい。

 俺は静かに目を閉じた。

 もうこれ以上現実のことで頭を悩ませたくなかった。何も考えたくなかった。

 そうして俺はまた1つ、目の前の問題を先送りにした。




 次の日、俺達は昨日と同じようにフィールドで狩りをしていた。

 狩りは滞りなく進んだが、俺達の間には相変わらず気まずい空気が流れていた。


「カズキ、話があるんだ......」


 ユウがそう切り出したのは、もう何十回目かの戦闘を終え、休憩している最中だった。

 既に日は暮れ始めている。そろそろ街に戻らなければならない頃だった。


「なんだ?」


 胸の内に嫌な予感を抱きながら、俺は聞き返す。

 ユウは、小さな岩の上に腰掛けていた。両手を組み合わせ下を向いたまま、ユウは言葉を継いだ。


「俺、攻略に参加したい」

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