20 すれ違い
「だがフライハイトは、最前線の火山エリアにいるって話じゃなかったか? なんでこんなところにいるんだ?」
周りからそんな声が聞こえる。
アムール大陸西側の攻略最前線は、サイファーのある砂漠エリアを北上した先の遺跡エリアの更に北に存在する火山エリアだ。
攻略組は基本的に未踏破エリアの最寄りの街を拠点にしており、踏破済みのエリアまで下がってくることはほとんどない。
「護衛系のユニーククエストか」
「そうだね」
俺の呟きにユウが頷く。
new worldでは、頭上に<!>マークが浮かんでいるNPCに話しかけることでクエストを受けることができるのだが、その中でも特殊な条件やフラグを立てなければ受注できないクエストをユニーククエストという。
彼らが受けているであろう護衛クエストはクエストの中でもメジャーなものであり、文字通り指定された目的地まで、NPCを送り届けることが達成条件となっている。NPCは徒歩でプレイヤーについてくることもあれば、NPCの乗っている荷馬車を護衛するタイプもあり、後者の場合、受注したプレイヤーがギルドに入っていれば、あのように所属ギルドの旗が先頭の荷馬車に付けられる。
とはいえ、普通の護衛クエストでは、護衛する荷馬車は1台か、せいぜい2台までであり、あれだけの数の荷馬車を護衛するクエストは聞いたこともない。ものにもよるが基本的にユニーククエストは、通常クエストに比べて難易度が高めに設定されている代わりにその報酬もより豪華なものとなっている。攻略ギルドの筆頭である彼らが、わざわざ最前線から遠く離れたサイファーにまで来ている辺り、彼らが受けているのはユニーククエストで間違いないだろう。
「あの荷馬車の天幕に描かれた炎の紋様。あれは火山エリア周辺を統治している貴族ファンブルク家の紋章だ。火山エリアは活発化したモンスターの跋扈する危険な地域で、日夜人間とモンスターが激しい戦いを繰り広げている。きっと戦線から離れた地域まで一族を護衛するって感じのクエスト内容なんだろうね」
「なるほど。そりゃいいお駄賃貰えそうだが、統治している一族が真っ先に逃げ出しちゃ駄目なんじゃないのか?」
「確か現在のファンブルク家当主のサウロス伯爵は、責任感と正義感に溢れ、家族を大事にする人物って設定だったはずだよ。多分、あの荷馬車に乗っているのは、一族の中でも年寄りや女性、幼い子供だけで伯爵本人は領地に残っているんじゃないかな」
「なんで、そんなことまで知ってんだよ......」
「趣味だからね。ゲームの設定とか読みあさるの」
「.....そうだったな」
そういえば、ユウは半周年記念アプデ以前から、新しい街につく度、街中のNPC全てに話しかけたり、NPCショップに売っている歴史書やモンスター図鑑といった資料集を買い漁って、隅々まで熟読するタイプの人間だった。
「しっかし、護衛クエストってあんまやったことねぇけど、普通隣の街までがせいぜいだろう。火山エリアからここまで戻るってなると半日以上かかるはずだが、そんなクエストあり得るのか?」
冒険への没入感を高めるため、new worldのフィールドはかなり広大なものとなっている。それでもモンスターを無視してフィールドをダッシュで駆け抜ければ3、4時間もあれば火山エリアからここまで行き来は可能だろうが、護衛クエストではそうもいかない。
とはいえ、MMORPGで半日以上も強制的に拘束されるクエストを実装したら、間違いなくユーザーから凄まじい不評を食らうだろう。半周年記念アプデ以降もそういった通常のMMORPGで、実現できないようなクエストは今のところ発見されていないはずだが。
「多分、転移魔法陣を使ったんじゃないかな」
俺の疑問にユウが答える。
「なるほど。それなら納得だ」
new worldでは、鎮魂の間に行くための転移魔方陣の他にも各地に転移魔方陣があり、対応する魔方陣間を瞬時に移動することができる。
おそらくあの護衛クエストは転移魔法陣を使用すること前提で、クエストを受けることによりNPCがその隠し場所を教えてくれるというものなのだろう。
転移魔方陣の場所と対応関係は、犯罪者リストと同様に大規模ギルドの有志によって、常に情報共有が行われている。彼らが使用したであろう転移魔方陣も彼らによって公開され、その後速やかにnew world中に共有されることになるはずだ。
フライハイトの面々は自分達に向けられた視線を気にも留めず、街中を歩いて行く。
護衛クエストの目的地はサイファーのどこかなのか。それともさらに南下を続けるのだろうか。
まあ、どちらにせよ俺達には関係のないことだ。
「いいのかな?」
ふと、ユウがそんなことを呟く。
「何がだ?」
「このまま誰かがゲームをクリアしてくれるのを、俺達はただ待っているだけで......」
「いや、いいも悪いもねぇだろ。死なない立ち回りが研究されたことで、多少は死亡率も減ったが、それでも0じゃねぇ。今でも2週間に1人か2人は逝ってやがる。そりゃ俺達が攻略に参加すれば、0.1%くらいはゲームクリアの可能性が高まるかもしれねぇ。だがゲームがクリアされるよりも早く俺達が死ぬ可能性の方がずっと高い。このままデータの揃ったエリアで、安全にレベル上げをしつつ、ゲームがクリアされるのを待つ。それが俺達にできる精一杯だ」
ゲームクリアのために、命をかけている奴らは立派だと思う。もし、本当に現実からの解決策がもたらされない場合、誰かが危険を犯してでもゲームをクリアしなければ、今ゲームに囚われている6万人を越えるプレイヤーが解放されることはない。
だが、だからといって死ぬかもしれない戦いに、自ら進んで飛び込めるほど、俺は勇敢じゃない。というか、大抵の人間はそうだろう。
だから、多少の罪悪感はあれど、別に攻略に参加しない自分を恥じてはいない。
「でもそれっていつまで待てばいいのかな......。この半年間で未踏破エリアの攻略は進んだけど、結局ユニークモンスターの発見すらできていないじゃないか」
「そりゃそうだが......」
魔王のいる北の大陸に行くには、この世界のどこかにいる7体のユニークモンスターを倒さなくてはならない。
いくら未踏破エリアの攻略が進んだといってもユニークモンスターの居場所すら掴めていない以上、そういう意味では、何の進展もないということになるのかもしれないが、とはいえ長丁場になることはユウにだって分かっていたはずだ。
new worldは、魔王を倒すという目標をプレイヤー全員で共有している。その目標が数日・数ヶ月で達成されてしまうようなものなら、オフラインゲームならともかくオンラインゲームのコンテンツとしては成り立たない。ゲームクリアまでに数年の月日がかかることは、最初から分かっていたはずだ。
なのに、何故今になってそんなにも焦っているのだろうか。
「なぁ。一体どうしたってんだよ? まさか、今日たまたま人助けができたからって勘違いしてるんじゃねぇだろうな。はっきり言うが、俺はもうあんな綱渡りはごめんだぜ。そりゃ、勝算はあったが、何度も同じこと繰り返せば、いずれ返り討ちに遭うことだってある。その時が俺達の最後かもしれねぇ。攻略だって同じだ。フライハイトの奴らみたいに、生き延びて英雄視される奴らもいるにはいるが、途中で死んでいくプレイヤーはその何十倍もいる。俺達は所詮後者側の人間さ。過度な期待を自分に抱くのはよせって」
「いや......そうじゃなくて俺はただ......」
ユウは何かを言いかけるが、口ごもり首を振る。
「......ううん。変なこと言ってごめん.....」
「......」
その後俺達は宿屋に戻り、夕食を取ってからそれぞれ自分の部屋に戻った。
夕食の間も俺達の間に流れる気まずい空気が消えることはなかった。
レイゼンは、某調査兵団最強の兵長みたいな戦い方をします。
まだ当分先ですが、当然フライハイトも再登場して話に絡んできます。




