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17 同類

「......マジでなんなんだよお前らは? 関係ねぇくせに、しゃしゃり出てきやがって......」


 重戦士の男が、吐き捨てるように言う。


「関係なくても無法は見逃せないよ......」


 答えたのはユウだった。

 しかし重戦士の男は、その言葉を一笑に伏した。


「はっ! 何言ってんだ? 無法もクソも端からこの世界に法律なんざねぇだろうが」

「法律があろうと無かろうと、人として越えちゃならない一線ってもんがあんだろ」

「そりゃ現実での話だろ。俺達はただ適応しようとしただけさ。この世界にな」


 男の言っていることの意味が分からず、俺は続きを待つ。


「この世界じゃ、レベル......力が全てだ。力がありゃ、他の奴らを生かすも殺すも脅迫するのも自由。元からそうだったじゃねぇかよ?」

「本気で言っているのか? new worldがただのゲームだった昔と今じゃ、他のプレイヤーを害する行為の持つ重さがまるで違うだろう」

「いい子ぶってじゃねぇよ! お前らだって同類だろうが!」


 突然、男が叫んだ。

 驚いた俺達に向かって、重戦士の男は引きつった笑みを向ける。


「装備と立ち回りを見りゃわかるよ。お前らも半周年記念アプデ前から相当やりこんでた口だろ。それこそ現実をないがしろにするくらい」


 重戦士の男の言葉に、俺は固まった。男の言ったことは事実だったからだ。


「お前らも俺らと同じようにあのクソみてぇな現実から逃げるために、この世界にのめり込んでいたんじゃねぇのかよ!? なのになんだって、未だに現実の倫理や正義感を引きずってんだ!? あぁ!?」


 俺もユウも言い返せなかった。

 別に男の主張が正しいなどとは微塵も思っていない。

 だが確かに俺は、半周年記念アプデ以前から四六時中この世界にいた。高校には通っていたが、家にいる時は少しでも暇があればこの世界にログインし、現実のことを忘れようとしていた。

 ユウもまた、俺がログインしている時には大体いた。

 ユウとは、サービス開始当初からの付き合いだが、現実のことを話題に出すことはなかった。それがこの世界での暗黙のマナーというのもあるが、長い時間を一緒に過ごす内になんとなく俺達は同類なんだと感じたからだ。

 この世界には、現実を想起させるものがほとんど無い。

 俺もユウも現実から目を背け、逃げ続けていた。俺達にとっては、現実が仮の世界で、この世界こそが現実だった。

 こいつらも俺達と同じだ。現実に居場所がなく、この世界にすがるしかなかった人間。

 俺もこいつらのようにならなかったと言い切れるだろうか。

 現実のことを完全に切り捨てて、この世界で思うがままに力を振う。何かふとしたきっかけで、そんな欲望に身を任せようとしなかったと言い切れるだろうか。


「ふざけんな!」


 右隣から上がった怒鳴り声に、俺は我に返る。

 声は暗殺者の少女のものだった。

 暗殺者の少女は、一歩右足を踏み出すと、そのまま重戦士の男を殴りつけた。

 殴られた衝撃で重戦士の男が倒れ、手を繋いでいる聖騎士の男も巻き添えで一緒に横転する。


「この人たちは、アンタ達みたいなケダモノとは違う! このっ! このっ!」


 暗殺者の少女はアイテムストレージを開いて、手のひらサイズの球体状のアイテムをいくつも出現させると重戦士の男に向かって、それを投げつけた。

 球体は重戦士の男に当たるとひしゃげ、中から液体があふれてくる。すると途端に、辺りに腐敗臭が満ちた。


「ぐおおっ......」

「がはぁ......」


 臭いを間近で嗅いだ重戦士の男と聖騎士の男が悶絶する。

 あれは、<腐れ玉>というアイテムだ。モンスターに投げつけることで追い払うことができるアイテムだが、その強烈な臭い故に、嫌がらせ目的で他のプレイヤーに投げつけられることも度々ある。


「このっ! このっ! このっ!」

「ま、まぁまぁ落ち着いて。俺達のことはいいから......ね?」


 どんどん強まっていく臭いに、たまらずユウが止めに入る。このままでは俺達の鼻まで曲がってしまいそうだ。

 その後、腐臭にまみれた重戦士の男と聖騎士の男を俺達は送監の手錠を用いて、牢獄に送った。

 ただし聖騎士の男の犯罪者マーカーはまだイエローだったので、俺達の内の誰かのHPをわざと4割削らせてオレンジマーカーに変化させる必要があった。ダメージを与える方法としては男に攻撃魔法スキルを使わせるのが一番手っ取り早いのだが、聖騎士やプリーストが使う光属性の攻撃魔法スキルには、視界が真っ白になる<眩暈>や平衡感覚が失われる<混乱>といった相手を状態異常にする追加効果を持つものも多い。

 しかもnew worldの詠唱は、ただのタメ時間で、漫画や映画のようにプレイヤーが実際に何か呪文を唱えているわけではない。一応詠唱中のプレイヤーの周囲に淡い光のエフェクトが出現するものの、どの魔法でもエフェクトは変わらず、詠唱段階で何の魔法スキルの詠唱を行っているのかは、そのプレイヤー本人にしか分からないという問題もある。

 重金属鎧を装備している関係上、知力にSPを極振りしているわけでもないだろうし、杖を装備していない状態では、上位ランクの魔法スキルを使用しても俺達を殺せるほどの火力は出せないだろう。だが範囲魔法スキルで俺達をまとめて状態異常にし、その間に帰還の水晶を使われる可能性も考えると、男に詠唱をさせるのはリスクが高い。

 そのため、俺は<毒投げナイフ Lv2>────Lv1ではHPが残り6割(イエローゾーン)を切る前に毒が自然治癒してしまう────を聖騎士の男に渡し、それを俺に向かって投げつけさせ、毒による継続ダメージで残り6割までHPを削らせることにした。

 投げナイフは装備品ではなく、投降用の攻撃アイテムにカテゴライズされており、麻痺毒や毒を塗ることで、相手に状態異常を与えることができるようになる。また投げナイフ自体の攻撃力はかなり低いため、聖騎士が抵抗してナイフで斬りかかってきたとしても大したダメージにはならない。

 我ながら少し警戒し過ぎな気もするが、万が一聖騎士の男に逃げられて復讐を考えられても困る。身の安全に関わる問題である以上、可能な限り確実な手段を選ぶのは当然のことだ。

 最も、俺の懸念をよそに聖騎士の男は特に抵抗することもなく、大人しく言うことを聞き、犯罪者マーカーをオレンジ色に変化させた後、牢獄に送られていった。

 その後、状態異常とHPをプリーストの少女に回復してもらい、俺達は30分ほどかけて、サイファーへと戻った。

 幸い、少女達が捨てさせられた武器は、誰かにネコババされたりもしておらず、帰り道で回収することができた。

 途中何度かモンスターとの戦闘もあったが、元々この辺りのモンスターは俺とユウだけで十分である。加えて、レベルは一段落ちるとはいえ今は回復職のプリーストまでいることから、これといって苦戦することもなかった。

設定小話 No.6

○HPバーの色

new worldではプレイヤーのHPバーの色は、6割よりも多ければ緑色、6割以下なら黄色、2割以下なら赤色で表示されます。

モンスターのHPバーはその残量に関わらず、蛍光レッドで表示されます。

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