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14 尾行

 男達は北東に向かって歩き続けていた。

 俺は男達の左斜め後ろ、ユウは右斜め後ろからそれぞれ尾行を行っている。

 この辺りには身を隠せる岩盤もたくさんあるが、男達も周囲には注意を払っている。既にディープミストの効果は切れてしまっているため、見つからないよう注意しなくてはならない。

 その点で言えば、こちらが先に男達を発見できたのは運が良かった。

 いや、男達が俺達を先に発見していた場合、そもそも俺達に発見されないように迂回していただろうから、むしろ俺にとっては運が悪かったとも言えるか......。

 ────まあ、助けると決めた以上は、腹くくらねぇとな。

 そう自分に言い聞かせて、俺は再度男達に意識を集中する。

 男達との距離は15mほど。そして、アケリのお香の有効範囲は半径20mである。俺達はアケリのお香を持っていないが、この距離を保っていれば、デザートウルフに見つかっても襲われることはない。

 向こうに存在を気づかれていないというのが、俺達の最大のアドバンテージだ。だからこそ、最も重要なのは仕掛けるタイミングとなる。


「よ、よーし、止まれ!」


 しばらくして重戦士の男が立ち止まり、少女達に命令する。

 ────やっぱりここか。

 男達が立ち止まったのは、直径約20mの円形の広場のような場所であった。周囲は岩盤で囲まれており、唯一の入り口も人が3人なんとか並べるくらいの広さしかない。隠れて犯罪行為に励むには絶好の場所だ。


「にっしてもあっちぃな。せっかくの初体験がこんな劣悪な環境かよ」


 皮鎧の袖で顎下の汗を拭きながら、軽戦士の男がぼやく。


「だからアイススカッシュ飲めって言ったろ。こんな時にまでケチケチするなよ」

「ああ、そうだな。後で飲むか」


 聖騎士の男の言葉に頷き、軽戦士の男は左手に握った片手剣をプリーストの少女の首に押し当てた。


「そ、それじゃあメニューを開いて装備を解除しな。当然インナーもだ。アイテムストレージを開いたり、変に抵抗したりするなよ。お、お前らの命は俺達が握っていることを忘れるな」

「ひっ!」


 プリーストの少女は肩を震わせ、引きつった悲鳴を上げた。自らの体を抱きしめ、絞り出すように繰り返す。


「い、いやだ......いやだ......いやだっ!」


 最後に叫んで、プリーストの少女は広場の奥側に向かって走り出した。


「く、くそっ! 抵抗するなって......うおぉ!?」


 軽戦士の男は追いかけようとするが、そこへ暗殺者の少女が体当たりをしてきて、動きを止められる。


「逃げて! ミソラ!」


 軽戦士の男にしがみついたまま、暗殺者の少女は叫んだ。だが、その背中を重戦士の男が振るった刃が捕らえる。


「きゃあ!」


 背中に生じた衝撃に、暗殺者の少女が悲鳴を上げて倒れ込む。

 同時に、そのHPが半分を切った。

 攻撃力の高い両手剣とはいえ、スキルによる攻撃でなければ、威力はそれほどでもない。スキルによる攻撃では、当たり所によっては殺してしまうと判断したのだろう。

 少なくとも、今は男達も彼女達を殺す気は無いはずだ。


「おい! 早く追え!」

「わ、分かってる!」


 そう言って、軽戦士の男は腰を落とした。

 既にプリーストの少女との距離は5m近く離れている。

 少女の向かっている先は行き止まりだが、追いつかれる前にメニューウィンドウを開いて帰還の水晶を使用すれば、彼女だけは逃げることができるだろう。

 だが次の瞬間、男の両足が猛烈な勢いで地面を蹴った。男は空を飛び、少女との距離を一瞬で詰め、その背中を斜めに切りつける。

 <迅雷剣>。片手剣用のダッシュ攻撃スキルだ。

 背中を切られた少女は、突き飛ばされるようにバランスを崩して倒れた。HPバーも残り僅かとなって、赤色表示に変化する。

 少女は倒れたままメニューウィンドウを呼び出し、アイテムストレージを開こうとするが、ウィンドウを操作しようとした右手を男の左足に踏みつけられた。


「いや! いやぁあああああああああ!」


 絶叫しながら少女はもがくが、男は身を翻し、さらに右手で盾越しに少女の左手を押さえつけた。

 左手の片手剣を少女へと向け、怒鳴り散らす。


「て、抵抗するなって、言ってんだろうが! じゃねぇと弾みで殺しちまうかもしれ......ぐあっ!」


 しかし、男は最後まで言葉を紡げなかった。

 背後から圧縮された空気の塊が飛来し、男の体を吹っ飛ばしたからだ。宙を舞う男の頭上にHPバーが出現すると同時に、その2割ほどが黒く染まる。

 今の空気の塊は<エアブロウ>。相手を大きく吹き飛ばす追加効果を持つ風属性単体攻撃魔法スキルだ。


「な、なんだ一体!?」


 男達は訳も分からず、魔法の飛んできた方向を見る。

 広場の奥側に建つ岩壁の上。そこに誰かが立っていた。その人物は、紺色のロープを身に纏い、武器は先端に金の装飾がなされた両手杖と、見るからに魔法職といった格好をしていた。そして、頭部には口を開け、歯をむき出しにしたあほ面の馬のマスクを被っていた。


「う、馬ぁ!?」


 仲間の傍まで飛ばされた軽戦士の男が、身を起こしつつ叫ぶ。

 もちろん、あれはユウだ。なぜあんないかれたかぶり物をしているのかというと、顔を隠せる装備があれしかなかったからだ。

 もし、状況が悪くなって逃走することになった場合を考えると、男達に顔を明かすのはリスクが大きい。

 そのため、顔を隠しておく必要があるのだが、new worldでは、頭を覆う防具を被った際の視界の悪さや息苦しさまで忠実に再現されているため、俺やユウを含む大多数のプレイヤーはそれを嫌って、その手の防具は基本的に装備しないし、わざわざ買うこともない。

 よって、今所持していたのは期間限定イベントでたまたま入手したあれと、俺が今身につけているもう1つしかなかった。

 ちなみに、あの馬のかぶり物────正式名称<ホースフェイク>────は防御力は低いものの敏捷を10上げるという地味に有用な特殊効果がついている。

 ユウは両手杖を重戦士の男と聖騎士の男の方へ向けた。

 杖から炎が現れ、人の身を越える大きさの鳥を形作る。火属性範囲攻撃魔法スキル<フェニックスウイング>だ。

 火の鳥は翼を広げ、男達へ突撃する。


「うおおぉ!?」

「おわぁあ!?」

「どわぁあ!?」


 男達は慌ててバラバラに左右へと飛んだ。

 男達の装備なら当たっても2割未満。防御すればほとんど減らないだろうが、それでも不意打ちされたことによる動揺で、反射的に回避を選ぶ。そのおかげで、武器を突きつけられていた少女達がフリーになった。

 火の鳥は、男達が元々いた場所よりもかなり手前で急降下し、地面に衝突した。そして周囲に爆炎を巻き起こす。

 少女達を盾にされる可能性もあったため、元々あの攻撃を当てるつもりはなかったのだろう。あれはただの陽動だ。

 当然、俺も既に動き出している。そもそもユウがわざわざ岩壁の上に登ったのは、男達を挟み撃ちにするためだ。

 ここの岩壁は出っ張りが多く、高さも5、6m程なので、装備が軽いプレイヤーならさほど苦も無く登ることができる。男達がここを目指していたのはなんとなく分かっていたので、その場合、岩壁をよじ登って回り込んで貰うよう、事前にユウと打ち合わせをしていたのだ。

 男達も少女達もユウに気を取られて、背後から近づく俺には気づいていない。

 俺は走りながら鉄穿牙を発動させた。狙うは軽戦士の男。


「お......らぁっ!」


 渾身の力を込めた俺の突きが、軽戦士の男の無防備な背中に突き刺さった。


「ぐおお!?」


 2度目の不意打ちを受けた男は、さらにHPを減少させ、前方に転がっていく。


「こ、今度は山羊だとぉ!?」


 遅れて俺の存在に気づいた重戦士の男が、俺の姿を見て叫んだ。

 俺が装備しているのは<ゴートマスク>という、山羊のかぶり物だ。

 この装備には、デザートウルフなどの一部の獣系モンスター対するヘイトの上昇率を上げる特殊効果がついている。これもまたエリアによってはそれなりに使える効果ではあるが、今の状況では得に意味はない。


「回復魔法を使わせるな!」


 俺は、暗殺者の少女と軽戦士の少女に向かって叫ぶ。

 突然の襲撃に呆けていた聖騎士の男がはっとし、軽戦士の男に向けて回復魔法スキルを使おうとするがもう遅い。

 魔法スキルは、一部の例外を除いて、数秒のタメ────詠唱が必要になる。

 2度の奇襲により、男達の注意が完全に自分達からそがれた間に、少女達はメニューウィンドウから予備の武器を装備し直していた。

 短剣を装備した暗殺者の少女と、片手剣を装備した軽戦士の少女が、それぞれ物理攻撃スキルを繰り出し、聖騎士の男を仰け反らせ、詠唱を中断させる。

 彼女達からしても俺達の奇襲は突然のことだったはずだ。にも関わらず、瞬時に生き延びるための行動をとれるあたり......案外タフな精神力をしているらしい。

 プリーストの少女も涙を拭いて立ち上がり、自身のメニューウィンドウを操作する。そして両手杖を装備し、詠唱を始めた。

 いくらレベルで劣っているとはいえ、3人を同時に相手にしては、倒されることはないにしても回復魔法スキルを使うことはできないだろう。詠唱は盾を構えたままでも行えるが、一定以上の威力の攻撃をガードすると、自動的に中断されてしまう。

 暗殺者の少女とプリーストの少女のHPは危険域に達しているが、あそこまで張り付かれれば、発動できるのは詠唱時間の短い低威力の攻撃魔法スキルに限られるはずだ。回復しつつ戦えばまず死ぬことはないだろう。

作者の英語力がうんこなので、物理攻撃系のスキルの名前は、基本的に日本語にしています(日本語なら格好いい名前をつけられるとは言っていない)。魔法スキルに関しては流石に日本語だと違和感あるので、頑張ってカタカナ英語で名付けています。

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