13 犯罪者プレイヤー
「装備を見る限り、男達のレベルは俺達と大差ねぇが、あの女の子達のレベルは5~8は下だ。レベル上げを手伝うとかで誘われたんだろうが、迂闊だな」
略奪にしろ、体目的にしろ、街では友好的に振る舞い、パーティを組んでフィールドに出てから脅迫するというのは、犯罪者プレイヤーの常套的な手段の1つだ。だからこそ、俺達も不用意にパーティの人数を増やしたり、野良パーティに参加することは意図的に避けてきた。
彼女達もそういうプレイヤーがいることは知っていただろう。もちろん彼女達なりに考えや事情というものはあったのだろうが、それでも治安が悪くなっている以上、もう少し慎重になるべきだった。
「なんとか隙を見つけて、<帰還の水晶>を使えればいいんだけど......」
「あそこまで張り付かれると、流石に厳しいだろうな」
帰還の水晶とは、使用することで最後に訪れた街に転移することができるアイテムだ。ピンチになっても瞬時に戦闘から離脱できるため、現在では文字通りプレイヤーの生命線となるアイテムとして、とてつもなく価値が向上している。値段はかなり高額ではあるものの、ある程度規模の大きい街のNPCショップでは普通に売られており、そのためほとんどのプレイヤーは保険として複数個所持している。
というより、もし帰還の水晶がなければ、俺達を含む多くのプレイヤーは恐ろしくて街の外に出ることなどできなかっただろう。
「モンスターと接敵して戦闘になれば、話は別だが、さっきから漂っている柑橘系の匂い。コイツは獣系モンスターを遠ざける<アケリのお香>だ。このフィールドにいる獣系モンスターはデザートウルフだけだが、他のモンスターは<陸王亀>、<パラライスコーピオン>、<アーススピリット>と、どいつも索敵範囲が狭くて、動きも遅い。自分から近づかない限り戦闘にはならねぇ」
「でもどうして、武器は持たせてないのに、防具は装備させたままなんだろう?」
「おそらく、武器はメニューの装備タブから除装させたんじゃなく、その場で捨てさせたんだろうな。下手にメニューを操作させると、隙を見て帰還の水晶を使われる可能性がある。倫理解除モードをONにするにはどっちにしろメニューを操作させる必要があるが、それでも触らせる回数は少ないにこしたことはないからな」
ただでさえ、レベルと装備で負けている上に、武器を持っていない状態。外目から見ても彼女達にこの状況を打開する術が無いのは明らかだった。
全く、嫌なもの見てしまった。彼女達がこれから男達にされることを考えると他人事とはいえ、気分が悪くなる。
「あのさ......カズキ」
「ん?」
呼ばれて俺は、既に小さくなっている男達から目を離し、ユウの方を向いた。同じパーティの人間はディープミストの潜伏効果の影響を受けないので、俺達には互いの姿がはっきり見える。
ユウは続きを口にすることを躊躇しているようだった。俯き、遠慮がちに言葉を継ぐ。
「彼女達のこと......助けることってできないかな」
「はぁ!? なに言ってんだ!? 相手はプレイヤーだ! モンスターを相手にするのとはわけが違うぞ!」
予想外の内容に、俺は思わず声を上げた。
ある程度行動に規則性があるモンスターと異なり、プレイヤーは自分で考えながら動く。PVPは、互いの手の内の読み合いだ。モンスター相手の戦闘とは要求されるスキルが全く異なるし、その危険度も桁違いだ。
ましてや、あの男達のレベルは俺達とほとんど変わらないだろう。
俺達も半周年記念アプデ以前に、PVPの経験がないわけではないが、上級者と呼べるほどの領域には達していない。戦うならばこちらも相応の覚悟を決める必要がある。
「うん......分かっているよ。俺達が最も優先すべきことは自分達が生き延びることで、それを考えるならここは彼女達を見捨てるべきだ。たまたま今まで目にすることが無かっただけで、彼女達と同じような目に遭っている人達は何人もいるんだろうし、その人達全てを救うことなんて、俺達にはできやしない。俺達が危険を冒して彼女達を救うことにメリットはないし、救えたとしてもそれはただの自己満足なんだろう」
ユウはそこで言葉を切った。キュッと拳を握りしめ、再度口を開く。
「でもさ。泣いていたんだよ......。俺達と大して歳も変わらない女の子がだよ?」
ユウの言葉に、先ほど見た少女達の顔が思い浮かぶ。
逃げることも抗うこともできずに、恐怖に押しつぶされてしまうそうな表情。人のあんな表情を見たのは生まれて初めてのことだった。
「今のnew worldで、ああいうことが起きているのは俺も知っていたし、その上で他人事だと思ってた。もし、そんな場面に出くわしたら、関わらずにとっととに逃げてしまおう。ついさっきまで、そう考えていた。......でも、実際にこの目で見てしまうと......あまりに不憫でとても見捨てる気には......」
「......っ!」
眉間にしわを寄せ目を瞑り、俺は状況を整理する。
装備を見る限り、重戦士以外の男達のメイン職業は片手剣と中盾の男が<軽戦士>、片手杖と大盾の男が<聖騎士>だろう。犯罪者プレイヤーに襲われた時、瞬時に相手のビルドが分かるように、new world内の装備品の情報は一通り頭に叩き込んである。
この中で最もやっかいなのが、聖騎士だ。
聖騎士は 回復能力ではプリーストに劣るものの回復職でありながら、全種類の武器と防具を扱える。仲間のHPを回復できることから、もし戦うとしたら真っ先に落としたい相手ではあるが、聖騎士の男は重金属鎧に、片手杖と大盾という最も防御力に優れた装備構成にしていた。しかも男の装備している片手杖は魔法攻撃力は低いが、代わりに回復魔法スキルの回復量を上げる特殊効果を持つものだった。そのため、攻撃力に関してはさほど驚異ではないが、持続型の回復魔法スキルを使い、防御だけに集中されれば、2人ではHPの半分を削ることすら困難だろう。
次に重戦士だが、男が装備している両手剣と重金属鎧は特殊効果がない代わりに、純粋に能力値が高いものだった。そのため、筋力に厚く振っているか、耐久力に厚く振っているかは分からない。とはいえ、耐久力に全く振らずに重金属鎧を身につけても機動力が落ちるだけで何の意味もないため、最低限は耐久力に振っているはずだ。そのためこちらも防御力はかなり高いと見ていいだろう。
そして、最後の軽戦士は、攻撃力、防御力、機動力ともにバランスの取れたメイン職業だ。半周年記念アプデ以前は、左右に片手剣を1本ずつ持った攻撃力重視の二刀流ビルドが主流であったが、現在では、片手に中盾を持った防御力重視のビルドが主流となっている。
軽金属防具は、重金属防具に次いで防御力の高い防具カテゴリーだが、軽戦士の男が装備しているものは機動力重視でそこまで防御力が高いものではない。とはいえ、決して防御力が低いわけでもないのだが、それでも他の2人と比べると格段にダメージを与えやすいのは間違いないだろう。
そして3人の内、聖騎士がイエローマーカーで、軽戦士と重戦士がオレンジマーカー。3人ともレベル的には俺達とさほど変わらない。
対してこっちは俺とユウ。後は武器を持っていない少女が3人。武器を持っていないため、防具からの推測となるが、恐らく忍び服の少女のメイン職業が<暗殺者>。他の2人が軽戦士とプリーストだろう。
男達はまだ俺とユウには気づいていない。
俺は簡単な作戦を立て、頭の中でざっくりと戦いの流れをシミュレートする。
「いける......かもな......」
それでも、危険なことに変わりない。そもそもユウが言ったように、俺達に彼女達を助けるメリットはない。
再び少女達の顔を思い起こす。
ここで、俺達が見捨てたら彼女達はどうなるだろう。これからされることじゃない。その後、男達が彼女達をどうするかだ。
あの男達はそれほど気が強いように思えなかった。会話の内容からしてもああいったことをするのは今回が初めてなのだろう。
行為が終わったとして、冷静になったら自分達がやってしまったことに恐怖を感じるかもしれない。そして、そのことを隠蔽するために、彼女達を殺すことも考えられる。
殺してしまえば、レッドマーカーがついてしまうが、少なくともレッドマーカーには解除する方法がある。彼女達を解放すれば、どちらにしろ彼女達が自分達のしたこととプレイヤーネームを自警団役を担っているプレイヤー達に通報するだろう。
new worldの各街には、プレイヤーが自由に張り紙をすることができる掲示板がある。そこには治安維持を目的としているプレイヤー達が更新している<犯罪者リスト>という文書が貼られており、犯罪行為を行ったプレイヤーの名前と体格等の外見情報が記載されている。掲示板の内容は街ごとに個別だが、犯罪者の情報は、new world内のメール機能を利用して、各街にいる人員に瞬時に共有される仕組みだ。
とはいえ、単に嫌いな奴を貶めるために、冤罪をでっち上げるプレイヤーもいるため、そこに名前が書かれたからといって、街から閉め出されることはないが、それでも他のプレイヤーから警戒されることは間違いないし、場合によっては嫌がらせを受けることもある。今後の活動に影響が出ることは確実だ。
あの3人に他に仲間がいるようにも思えなかった。たった3人では四六時中逃げないように彼女達を見張っておくことも不可能だろう。となれば、やはり彼女達は最終的に殺される可能性が高い。
わけもわからないまま、ゲームの中に閉じ込められ、理不尽に尊厳を奪われ、最後にはたった1つの命すらも身勝手な理由で奪われる。
「ぐっ......」
だが、俺達なら助けられるかもしれない。何のメリットもない。何の得もないが、俺達は彼女達を助けられる可能性を持っている。
「............はぁ~~~~~~~っ!」
俺はこれまでの人生で最も大きなため息をついた。ユウが驚いた様子でこちらを見てくるが、つかずにはいられなかった。
「いいだろ!」
「え?」
「たまには......正義のヒーローを気取るのも!」
半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
「カズキ......!」
「ただし、少しでも状況が悪くなったら、その時は、なりふりかまわず2人で逃げるぞ」
そう念を押して、俺は先ほどシミュレートした作戦をユウに伝えた。
設定小話 No.4
〇体感温度上昇アイテムについて
作中ではまだ登場していませんが、体温温度上昇のバフも存在しています。
レベルごとのバフ効果と飲むことでバフ効果を得られるポーションの名前は、下記の通りとなります。
レッドティー(体感温度上昇Lv1):冬季でも大半のエリアで快適に過ごせる。
ファイアブランデー(体感温度上昇Lv2):冬季の雪原エリアでも快適に過ごせる。
ブレイズオーラ(体感温度上昇Lv3):冬季の雪山山頂部でも快適に過ごせる。
ヴォルケーノイラプション(体感温度上昇Lv4):冬季の雪山山頂部でも汗ばむ。
プロミネンスバーン(体感温度上昇Lv5):冬季の雪山山頂部でも火山エリア並みの暑さ。
NPCショップで購入できるのは、ブレイズオーラまでです。ヴォルケーノイラプションとプロミネンスバーンは、高レベルの薬師のアイテム生産でしか作ることができず、また現在のnew worldの攻略進行度では、まだ生産のための素材を入手することはできません。最もこの2つに関しては、かなりレア度の高い素材を要求する癖に、実用性0のネタアイテムとなります。というか、大陸北部の雪原エリアに到達したプレイヤーがまだいないため、レッドティー以外は、現状入手しても使い道がありません。
※前話『12 遭遇』に『設定小話 No.3 〇体感温度低下アイテムについて』を追加しました。




